きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

植草氏今度は実刑の日に、回顧

火曜日の朝は、9時20分に東京地裁に行き、植草一秀氏の東京地裁判決傍聴を目指すも、20席に対し208人の希望者と倍率10倍以上。あっさりと抽選は外れる。
大手メディアのように学生アルバイトを10人くらい動員しないと確実に傍聴するのは難しい。メディアが万全な体制を求める場合、速報のための記者、傍聴し続ける記者、法廷画家を傍聴させなければならないので、記者席以外の2枚の傍聴券をおさえようとする。キー局4社でそれをやれば8枚は消える。せまき門である。

そもそも私にとってナマウエクサを見ることが本旨ではないし、あまった傍聴券を持っている知り合いの記者も見つからないのであきらめて帰社する。

11時には実刑判決との速報が流れる。
執行猶予がついていないから、今度は控訴するのだろうと思っていたが、「控訴する。無実を明らかにするために戦い抜くという」コメントが発表された。前回も控訴して闘い続けるかと思ったが、執行猶予がついたためかは控訴はしなかった。今回はついていないので、控訴するしかないだろう。

昼には読者からこの一件について電話が。
「植草さんは冤罪です。りそな銀行の一件であるとか、きわめて政治的な事件である。検察と裁判所がグルになっている」という。
だが私は「それはわかりません」と答える。司法が異常な判断をしている事件だとは思うが、読者の視点にはこのように答える能力しか持ち合わせていない。

植草事件の背景にりそな銀行ありとしばしば言われている。不良債権処理の分水嶺がりそな銀行への公的資金導入を認めるかどうかだったからだ。
2003年5月17日のりそな銀行への公的資金が導入され、株価はついに底を打ち猛反発した。都市銀行は絶対に潰さないという政府のメッセージが投資家に伝わったからである。
日本の株式市場は美味しいなってことだ。モラルハザードである。

最近では、米国のサブプライムローン問題に端を発する株価下落の局面で、FRB(バーナンキ議長)が最後のだめ押しで、2007年8月17日に公定歩合を6・25%から5・75%と0・5%引き下げたようなものだろう。
市場心理は大きく楽観論へと転換し、株価は反発した。株価が暴落しても、当局が助けてくれるとわかったのである。株式市場は負けないギャンブルとなったのである。最近は聞かなくなったが、too big,too fail ――大きすぎてつぶせないというモラルハザードである。

話はそれたが、りそな銀行問題をめぐってたびたび激しい議論をしていた番組が、テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」だった。
なにせ常連コメンテーターが竹中平蔵氏に植草一秀氏だったからだ。

小泉政権発足後、慶應義塾大学教授だった竹中氏は金融担当と経済財政政策担当の民間大臣となり、不良債権処理を推進する。その大詰めが2003年5月に実施されたりそな銀行の処理だった。
政府の人間である竹中氏は公的資金導入を叫んでいた。また一方で、当時はメディアに影響力を持ち、オピニオンを形成していた木村剛は公的資金導入には銀行経営者の経営責任をと言ってたはずだったが、批判ばかりしていても始まらないですよと豹変しこれを認めた。
一方、植草氏は政治とは一線を画したインディペンデントな在野エコノミストの立場で、市場の仕組みを健全にするべきだとスタジオで両者と激論をしていたのである(注)。

その当時の番組を見ていて、私は植草氏のほうが筋が通っていると思った。また、竹中氏や木村氏が植草は厄介な相手だと嫌がって、カッカきているのも見てとれた。
これまで、金融業界のエコノミストにすぎないと思いこみ、植草氏に関心のなかった私だが、さすがにこの反骨な姿勢を見て感動し、植草氏に誌面に登場してもらいえないものかと思ったのである。

だが、翌年の2004年4月12日に東京都迷惑防止条例違反という予想外の形で逮捕される。調べると、現認していない現行犯逮捕であるから、有罪とするには無理がある事件だと判断した。そのため、逮捕後はどうにか植草氏にインタビューをしたいと考え、2005年に予想していなかった形で本誌に登場していただいたのである。

ちなみに、2007年10月5日号でも植草氏に登場している。
誌面は少ないものの、あらためて小泉改革を批判的に分析していただいた。
なぜ、インタビューしたかというと、先のサブプライムローン問題で植草氏が、FRBの公定歩合引き下げを0・5%だと、自身のレポートで予想していたからである。当時は0・25%説が大勢を占めていた中での予想だったのである。0・5%は下げないと市場へのサプライズが生まれず株価は上昇しないと、バナーキン議長のように投資家心理を読み切ったわけである。そこで生意気を言えばエコノミストとしての冷徹さで清和会のしてきた政策を俯瞰してもらいたかったのである。

ちなみに、公的資金論争以前に竹中氏の関係が悪化したとされる一件がある。まさかこれで閣僚となった竹中氏が復讐をしたわけではないだろうが。というのは、小谷真生子キャスターが離婚、新しい恋人は竹中平蔵氏? と2001年7月に「噂の真相」が報道したことだ(注2)。
当時、竹中氏は植草氏と並び「WBS」のコメンテーターであり、お互いをそれなりに知る関係だったことは間違いない。
真偽のほどは不明だが、関係者の話によれば、小谷・竹中の密会話を「噂の真相」にリークしたのが、植草氏だと小谷氏は思いこんで激怒、「ワールドビジネスサテライト」のスタッフも植草氏を疑い、番組の雰囲気が悪くなったと聞いたことがある。
しかも2001年4月、小泉政権発足と同時に竹中氏は民間大臣となっていて、スキャンダルは御法度である。
いずれにせよこの頃からそれぞれの関係が悪くなったのだろうが、常連の有力コメンテーターである植草氏は「WBS」の脇を固め続けたにも関わらず、あっさりと画面から姿を消した。

そういえば、小泉政権には別の切り口で批判的だった常連コメンテーターのリチャード・クー氏もテレビ画面から姿を消しているなあ。公共事業、公共事業と言っていたけど。

あ。そういえば植草氏に話を聞く限り、ご本人はさまざまな陰謀説について肯定も否定もしていませんでした。あくまでも事実と合理性ですね。
(平井康嗣)

追伸:『通販生活』の最新号では痴漢冤罪にならにために携帯用のつり革を売っていたけど、一つ買ってかばんにいれておこうっと。
(2007年10月26日)

(注1)マカロニほうれん総研 「10分でわかる公的資金(りそなショック)」
http://www.kinyobi.co.jp/blog/?p=1039

(注2) http://www.uwashin.com/2001/new/newback130.html