きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

10分でわかる公的資金(りそなショック)

「弱者連合」と言われたりそなホールディングスへの公的資金注入が先週末の話題をさらっていた。
そもそも「りそな」って語源はなんなんだ? とネットでチェックしてみると、「響き渡る」というラテン語らしい。潜水艦についている「ソナー」などと同根のラテン語なんだろうか。国際業務をあきらめ国内業務に専念するりそな銀行。そんなことも考えると、お客さんの声や市場に敏感に反応する銀行をめざそうと自戒の念をこめて名付けたのかもしれない。

ちなみに「りそな」とか「みずほ」のような「ひらがな銀行」は、ライター泣かせだ。
「りそなやみずほは」と書いたら、まったく読めない。そのため、「」(カッコ)をつけたり、前後の文脈で漢字をかまさなければならない。できれば「」は避けたいものだ。

そんなりそなにからんで(ほら字ギレがよくわからないでしょ)、連日テレビに露出していたのが、kfi社長の木村剛氏である。
5月19日の月曜日に「ニュースステーション」と「ワールドビジネスサテライト」(WBS)に出演。火曜日には「筑紫哲哉のニュース23」に生出演しておられた。木村氏は本誌でも、経済コラムを連載していたし、他の週刊誌でもいろいろと書いている、言わずとしれた現役ビジネスマン系論客の筆頭株だ。文章も達者である。木村氏の会社の目の前にある「丸ビル」でも自著が平積みだ(丸の内の「ビジネス戦士」によく売れているらしい)。そんな木村剛氏は金子勝慶應義塾大学教授が曰く、「世が世なら憂国の青年将校」というキャラクターをお持ちである。

さて、今回のりそなへの最大2兆円規模の公的資金が注入される見込みだが、どんな意味を持っているのだろうか。
私は経済の専門家ではない。だが納税者ではある。素人こそがチェックしていかなければ何をされるかわからん!ということで、とりあえず、そんな木村氏の発言を通じて今回の印象を整理してみたい。
まず、連日テレビ出演する木村氏の役割は、まさしく金融有事での竹中平蔵経済財政・金融担当相の「広報支援」活動だったように思う。そもそも「竹中平蔵のブレーン」「竹中PTのエンジン」などとも言われてきたし、実際そうなのだろう。
とはいえ、コンサバ層には<金融行政の強硬路線を進言して悪名をとどろかせた>(『選択』5月号)と評判はよろしくなさそうだから複雑な立ち位置の人でもある。

ニュース番組では、WBSで木村氏が植草一秀早稲田大学教授と対決していたことが興味深かったし、面白かった。『日経新聞』がバックに控え、経済ニュースがウリのWBSはつっこんだコーナーを用意していた。お互いにハードランディング路線のようだが、植草氏は<株主責任の追及をしなければモラルハザード(道義的責任感の欠如)に陥る>と繰り返し述べていた。だが、木村氏は<批判ばかりしていても始まらないでしょ>と全然相手にしない。「今回は万全のセーフティネットが張ってあった、医者は目の前にいる病人を治療するものだ」と公的資金注入を評価した。<たいした問題ではありませんよ>の精一杯のボディランゲージを使って表現しておられたのであった。
木村氏の自信ありげなパフォーマンスと低音の声は、ちょっとぐらいウソでもこの人なら乗ってもイイと思わせるカリスマ性を感じさせる。ウーン、役者やなあ。

ちょっと待ってくれ。
「病気になった原因はなぜか」ということを、これまでの経済失政に批判的な人々は議論してきたはずではないの。対処療法でいいんですか、と。失政の責任追及がなければ、それこそモラルハザードに陥ってしまうのではないか。
今回経営陣が辞めたのはたいしたこたぁ、ない。破綻しなければ、刑事責任が追及されるわけでもない。

だが、忘れてはいけない。
これまでに、りそなの前身であるあさひ銀行には約6000億円、りそな本店を大阪に勝ち取った大和銀行には約5000億円の公的資金が注ぎ込まれている。
公的資金は議決権のない優先株を買った代金として注ぎ込まれることになっている。いずれそのカネは、りそなに買い戻してもらう必要があるはずだが、当時と比べて株の価値は4分の1程度だ。含み損は7000億円以上発生しているだろう。仮にただちに市場で売れば損が確定する。そして、それはわたしたちの税金というわけだ。もうなんだかよくわからん金額だ。

知り合いの経営者が言っていたことを常々思い出す。
「みてるとさ、出世しない社員は交通経費だとか100円や1000円単位の金にうるさいんだけど、億単位の金には何もいわないな」。
ボクは出世への野望が人より薄いと思っていたが、それ以来、自分に縁がないような額の金にも、一応目を光らせるようになってしまった。
ちなみに、その経営者の企業は火の車である……。

これを書いている5月21日水曜日の時点で、りそなショックはマスコミも大騒ぎせずに納まったようだ。この調子ならば「次もできる」と思っている銀行経営者や政治家もいるだろう。となるといずれ次は、もう一つのひらがな銀行だろうか。 

とはいえ、忘れてはいけない。
かつては「今回の公的資金注入で金融危機は納まる。次はない」という前提で公的資金を注入したはずではなかったのか。少なくとも目標設定をして公的資金を注入していた。98年10月には「3年後に顕著な経営改善を達成てきなかった場合には、経営責任を明確にする必要がある」と竹中さんは「経済戦略会議」で言っていた。……あれから5年近くが経ち当事者が政権に入って、何の説明もない。竹中さんたちは納税者が3歩歩けば忘れるとでも思っているのだろう。

▼銀行が合併すると昔の名前にコビリついている負のイメージが消えるのか。旧大和銀行には、ニューヨーク支店による巨額詐欺事件で経営陣が告訴された巨額株主代表訴訟。経営陣は2億円を払うことで和解した。そして、国際業務から撤退することになった▼埼玉県がメインバンクにしていた旧あさひ銀行には預金者に過剰融資した「五輪建設融資問題」。この問題については、今年3月14日号で「埼玉銀行時代の342億円過剰融資が滑り込み和解」という記事でジャーナリストの和田泰明さんが報告している。私は「あさひ銀行は悪魔銀行」というビラを見たことがある。▼話は変わって週末に小泉純一郎首相が訪米する。その際にはブッシュのテキサス・クロフォードにある牧場に招かれるという。ブッシュは気に入った人物しかテキサスの別荘に呼ばない。小泉首相の相手は広報担当の牛のオフェリアが務めたりして。▼北朝鮮の核開発を批判するブッシュ大統領だが、国内では実践的な威力の弱い小型核兵器の開発を進めている。予算は1年間で約20億円だ。おかしいだろ。
(平井康嗣)