きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「金柑」__金曜俳句への投句一覧(8月28日号掲載=2015年7月31日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2015年8月28日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

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【金柑】
金柑の闇深ければ珠あまた
金柑や気づかぬうちに熟したり
金柑をそのまま齧る虚言かな
金柑を齧って見せる勇気かな
金柑やおばあちやん子の弱き喉
悪声に金柑もちてのどぐすり
金柑の混みあふ空と潦
金柑のむなしく実る里の畑
金柑に番いの鳥も遊び来る
鹿児島発機内等しく金柑受く
金柑を煮て老年を装へり
金柑や連絡船は日に一度
金柑煮て幼馴染のごとき妻
金柑や夕日を返す硝子窓
シャム猫の眸は金柑を黙殺す
金柑や頭に知恵あらば黄金色
蜂蜜を金柑に混ぜ黙祷す
腹すかし金柑盗む餓鬼の頃
椋鳥の食べて金柑色の足
来し方や金柑甘くまた苦し
金柑の一樹が星の降るやうな
金柑や一樹あまねく陽をまとふ
大きな大きな空や金柑食う
福耳の男が金柑をくれる
金柑や白寿の喉にやはらかし
金柑の種ことのほか大きけれ
金柑の黄は鵯(ひよ)を呼び尾長呼ぶ
金柑や三面記事に包まれて
金柑煮て母の子なりしとほき町
金柑に母のやうなる砂糖漬
鈴生りの金柑眩し島落暉
金柑の夜は地上の星となり
金柑で白き腕に赤い筋
金柑をおもへば母の風邪薬
金柑のひとつ転がる座卓かな
小さきが故に金柑愛らしき
金柑や熟すを待てぬ餓鬼時代
金柑や雀の宿のある谷間
金柑を投げつけてきし中二かな
金柑の夜空明るくしてゐたり
金柑の数だけ命あるごとし
金柑の実り生涯悔のなく
金柑は記憶のピンの頭なる
姑は異星人なり金柑煮
金柑の夜明けにとみに明々と
金柑や夕日の照らす硝子窓
たつたひとつの金柑を万引す
金柑の径や年寄りだけの住む
金柑のにが渋を知れ祖母笑う
通るたびに金柑の数減りにけり
金柑に啄ばみし痕残しけり
金柑の庭に植えたる常備薬
ふるさとの家金柑は鈴なりに
金柑の生りし家なり恩師訪ふ
金柑を煮て老歌手の待つ出番
金柑の熟し過ぎしかお隣さん
何思ふ金柑を追ふ寺の猫
金柑の蜜に紛れて個性無し
金柑の白き小花がこぼれをり
金柑や日々に暮れゆく瀬戸の海
新刊の背表紙にひとつ金柑
鉢植の金柑三個飾り物
甘煮して金柑の香身にまとい
金柑の大地に抵当権はあり
金柑の乳母車より転げ落つ
中年の金柑ほどの恋心
金柑を握りしめたる稚児かな
金柑や甘露煮の色鮮やかに
金柑を口に含みてすぐに出す
金柑の白ふは何処捨て家敷
金柑や真に受け君の小さき嘘
金柑をはみ初恋のすれ違ひ
金柑やささくれの指まだ細き
瀬戸内の入日の風や金柑煮
ひと去りてのち金柑の撓わなる
鈴生りの金柑鈴を鳴らすごと