きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「秋の蝶」__金曜俳句への投句一覧(8月28日号掲載=2015年7月31日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2015年8月28日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

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【秋の蝶】
最後まで自分を信じ秋の蝶
路地深き風の澱みや秋の蝶
アーケード裏に廻れば秋の蝶
古民家の土間に消えゆく秋の蝶
吊橋の湖面に落ちず秋の蝶
秋の蝶といへしたたかな蝶の貌
母校の名残らぬと云ふ秋の蝶
廃線の鉄路に一羽秋の蝶
身繕ひ怠るままに秋の蝶
黄のゆれて越える谷川秋の蝶
紙切れに戻りて吹かる秋の蝶
秋の蝶土に着地と言ふ定め
秋蝶の生活保護を申し込む
秋の蝶つくづく大き羽根を持ち
秋の蝶とアルトサックス叫ぶジャズ
狭き庭行きつ戻りつ秋の蝶
海鳴りのつぎつぎ放つ秋の蝶
玩具の如毀れてゐたり秋の蝶
花の上を無心に飛ぶや秋の蝶
武蔵野に川の痩せゆく秋の蝶
秋蝶の向うの海の波のなし
手庇に仰ぐ碑秋の蝶
秋蝶のふと消えゆきし陵に
山上の霧の中より秋の蝶
秋の蝶どこにも行かぬ風に乗る
秋蝶の同じ模様と見えにけり
ホヴァリング狂気の秋の蝶なるか
風騒ぐ古戦場跡秋の蝶
秋蝶や賽銭箱の中からも
秋の蝶羽根にほころび見せしまま
衣擦れの音やはらかく秋の蝶
健康寿命平均寿命秋の蝶
門前に忽と消えたり秋の蝶
絵唐津の模様のごとく秋の蝶
秋蝶と思はぬ道を歩きけり
秋の蝶蔵をめぐりてさやうなら
振り向くとまだちらちらと秋の蝶
秋の蝶しばらく風に抗ひぬ
からくさのふろしきが好き秋の蝶
風吹きてやうやう飛びし秋の蝶
雑音は秋の蝶にも届きけり
まだ負けぬ頭上げれば秋の蝶
小流れの川底透けり秋の蝶
秋の蝶水車の音にゆるく舞ひ
行き暮れて日がな一日秋の蝶
風受けて風のままなる秋の蝶
息苦し自由恨めし秋の蝶
秋蝶の華あるきみと思ふべし
「敗戦」に鉛筆の線秋の蝶
挨拶を交はす老人秋の蝶
秋蝶は睦み合うこと少なかり
言伝てのまだあるのかな秋の蝶
素焼皿はらりと止まる秋の蝶
湖に向ふ秋蝶何に呼ばれしか
秋の蝶螺旋階段ついて来る
秋蝶のとどまり難き展翅板
馬の背を追ふ一対の秋の蝶
秋の蝶色も褪せたり底飛行
秋の蝶野辺に戻りし朝かな
秋蝶や他山の石と思いけり
気功知る友の家より秋の蝶
八達嶺長城こえて秋の蝶
秋の蝶廃校となるわが母校
秋の蝶徒労の果てか石の上
秋蝶の仰ぎ見るほどには飛ばず
人生に思案つきもの秋の蝶
隠り沼の水草かすむる秋の蝶
紅型の乙女惑はす秋の蝶
二階から見下ろす所秋の蝶
古寺に木魚の音や秋の蝶
野に在りて古希垂んと秋の蝶
秋の蝶草から出て来て正常で
戸開くれば軒の秋蝶逃げもせず
薄日さす窯場径なり秋の蝶
舞い姿我が身を映す秋の蝶
秋蝶やバスに乗るには近すぎる
秋蝶や疲れのみえるバスガイド
地に落ちて又風に乘る秋の蝶
葉に止まる秋の蝶こそ価値高し
余白にも言葉ありけり秋の蝶
秋蝶のいづれは帰る月の裏
ベランダにハーブ老いたる秋の蝶
秋の蝶河原の小石白々と
ビルを組む鉄の迷路に秋の蝶
四歳経て鉄路錆たり秋の蝶
秋の蝶吹き飛ばさるる戻さるる
ほつれたる翅をふるはせ秋の蝶
秋蝶の黄のうすれゆく別れ径
もの思い思いあぐねて秋の蝶
秋の蝶生き急ぐらし尾根よぎる
秋の蝶みぢんとなりて綺羅つくす
乗り遅れ線路の上の秋の蝶
耳元にかすかな翅音秋の蝶
飛び石の影わたりゆく秋の蝶
秋の蝶祈りのごとく翅を閉ず
蒼穹に消えゆくと見え秋の蝶
秋蝶はひだる神かや国を棄つ
秋の蝶わざわざ我を呼びに来る
秋蝶ををさなき風と思ひけり
秋蝶や母よりとどく忘れ物
山小屋は秋蝶のいて無人なり
秋蝶の殖ゆる日らしや晩年へ
山城の天守閣まで秋の蝶
暮れ泥む棚田を低く秋の蝶
逝くまでは美しくあれ秋の蝶
岩累々賽の河原に秋の蝶
秋の蝶舞ふ野外劇受難劇
秋蝶に児らの円陣乱れをり
笹舟をかすめて行くや秋の蝶
秋蝶のみなまで見せぬ翅の紋
手をのべてとつぜん速し秋の蝶
ここよりは玉砂利ばかり秋の蝶
舞う影を庭に落として秋の蝶
秋蝶の先達となる野辺送り
ドトールはこの駅になし秋の蝶
知らないうちにおつとどつこい秋の蝶
剥き出しの強情張って秋の蝶
夕暮の吾をしたがはす秋の蝶
秋の蝶優雅な憂い森の中
ふさがりしピアスの穴や秋の蝶
鉄橋を渡る列車や秋の蝶
地に落ちし葉っぱと吹かる秋の蝶
今見しと思ひしはずの秋の蝶
一日の違いで秋の蝶となる
したたかにしてやはらかな秋の蝶
秋の蝶フローリングに落とす影
ひとつ去り又ひとつ去る秋の蝶
飛ぶでもなく止まるでもない秋の蝶
秋蝶の峠を越えて来るは無し
支持率の落ちゆくことも秋の蝶