きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

◆永六輔は左翼なのか、はたまた右翼か!?◆

<北村肇の「多角多面」(113)>

 永六輔さんは左翼ですか、右翼ですか――。若い編集者(といっても私よりであって、それなりの大人)から聞かれて、一瞬、とまどった。答えは「どちらでもない」に決まっている。ただ、「左翼」はともかく「右翼」という発想がどこから出てくるのか、考えてしまったのだ。

 尺貫法復権運動とかありましたよね――。なるほど、「3.3平方メートル」を良しとせず「一坪」にこだわれば、それが右翼につながるというわけか。確かに「日本古来」とか「伝統」とかいう言葉は左翼の世界から忌避されていて、どちらかといえば右翼の専売特許とみられている。でも、永さんがこだわるのはそこではない。

 永さんが心底、嫌っているのは権威だ。だから、悪政はもちろんのこと、お上がむりやり押しつけてくる決まりごとに盾を突く。それも紋切り型の「反対」ではない。くせ球の限りを尽くす。それが小気味いいのだ。

 さて、「権威」とはどこからどこまでを指すのだろう。おそらく永さんの中では「偉そうな正論ばかり言う左翼」もその中に入っているはずだ。本誌連載の「無名人語録」でも、ときどき「そこまで言いますか」と思うときがある。でも、すぐに洒脱な皮肉とわかり「さすが」と脱帽する。

 このたび、「無名人語録」の傑作を集めた『無名人のひとりごと』を弊社から刊行した。ゲラを読みながら、いくたびか呵々大笑した。何度読んでも、面白いものは面白い。

「政見放送が面白いからよく見ましたよ。内容が無くて、説得力が無くて、時間の無駄ばかりで――、面白かった」

「九条を守りましょう! 九十九条も守りましょう! 九十九条は、九条を守る上に、天皇陛下を大切にします。今、九十九条を守っているのは、天皇だけです」

 皮肉には毒がつきものだ。もっと言えば、文化には毒が欠かせない。実は自分の利益しか考えないエセ右翼や、善人ぶった自称左翼は毒に弱い。だから永さんの世界にどっぷりはまることはできないだろう。「私はそうではない」と自信のある方、「そうならないようにしているつもり」と、ほんの少し腰の引けている方、ぜひ『無名人のひとりごと』をお買い求めください。元気になること請け合いです。(2013/2/15)