きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

ふってわいた都知事選、これはもう勝つしかないでしょう

<北村肇の「多角多面」(101)>

 いい国なんだろうなあ、日本は。自由で、寛容で。ただし、一部の人間にとってのことだけど。ご存知、石原慎太郎氏などは、その恩恵をまるごと受けている一人。びっくりしましたよ。任期途中で東京都知事を辞める理由は「もうちょっと大事で大きな仕事をしようとしている」とか。会見で「放り出すのか」と聞かれると、「放り出すわけじゃない。東京のために国政でいいことをやらなくちゃいけないと思っている。そういう質問が出てくること自体が心外だな」ときた。第三極の結集で100議席を目指すそうだ。ここまで有権者をバカにした発言も珍しい。さらには、そのことに新聞やテレビが烈火の如く怒らなかったのも、まか不思議だ。なぜかマスメディアはこの人に寛容である。

 こんなに言いたい放題、やりたい放題の都知事は初めてだ。“意地悪ばあさん”の青島幸男氏でさえ、知事就任後は別人のようにおとなしかった。もっとも、青島氏の場合はもっと暴れてもらったほうがよかった。結局、都市博をつぶしただけで、後は「らしさ」がなく、都庁官僚のいいなり。庶民感覚を都政に活かしてくれるのではないかと淡い期待を持っていただけに、大いに不満を感じた。

 石原氏に話しを戻そう。首長になれば少しは行儀がよくなるかと思ったら、とんでもない。相も変わらず、暴言のオンパレード。政策面でも、築地移転、新銀行東京設立、オリンピック誘致ときて、最後は尖閣諸島の都有化。まさに、しっちゃかめっちゃか。橋下徹氏が大阪府知事に就任したとき、江戸っ子にはほろ苦いギャグがはやった。「さすがに大阪」と揶揄された大阪府民が「石原知事の都民に言われたくない」と切り返す――。

 さて、こんな愚痴を繰り返していても事態は好転しない。せっかく、都知事選がふってわいてきたのだ。今度こそ、「江戸の親分はこんなに凄いぞ」と胸を張ってみたい。時間はない。でも、それはそれで好都合。およそカネには縁のない市民が自分たちの候補者を立て、勝つためには、なるべく選挙期間の短いほうがいいからだ。

 そもそも、今回の都知事選はいままでとは違う。「原発反対」を掲げた個人(特定の組織や団体に属さないという意味で)が、数万人、あるいは十万人規模で官邸前に集まった。多くの識者や文化人が「革命」と評価した。従来の価値観や社会構造の大転換につながる可能性がそこに見えるからだ。このような「力」や「熱」が選挙に影響しないわけはない。青島氏が当選した時以上の驚きが永田町や霞ヶ関を走る――。はっきりした根拠はない。だが、私にはその様子が目に浮かぶ。批判しか思いつかない石原氏だが、この機会をくれたことに対しては言っておこう。「ありがとう」と。(2012/11/9)