きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

硫黄島に行った2 「ペガッサ星人はいたのか」

硫黄島に着陸すると、おれたちアルバイトはすぐにバスに乗せられて簡単に硫黄島観光をした。

自衛隊員のガイド役は島の歴史などについて数分、語っていたが、一眼レフカメラをクビからぶら下げた男性は、話などそっちのけで、砲弾の残骸や砲台などを撮影したくてウズウズしているようだった。戦没者に敬意を払うようガイドにわれわれは諭されたが、カメラオヤジたちは話が終わると次々に激写していた。事前に相当下調べをしてきたのか、リピーターだったなのだろう。アルバイトで金を稼ぐよりも硫黄島に来ることが目的というタイプに違いない。

おれといえば、もちろん亜熱帯の島生活という知識だけだった。グアム島に似た雰囲気だなと思っていた。だが、記念にはなるからと、一応はポケットカメラで撮影し、その後も島の中を探検したときは、カメラを持って歩いた。

その写真が先週、引っ越しのため荷物を整理していた時に発見された。
現像に出すと写真店がくれる薄いアルバムに、硫黄島の景色が写っていた。
ダイヤモンドヘッドのような黒い海岸、頭が吹き飛んだ擂鉢山、滑走路を走る米軍機などなどだ。

その後、おれたちは宿舎に連れて行かれた。
宿舎といっても、ブロックを積んでコンクリで固めた小屋で、中には二段ベッドがあるだけだった。
真偽のほどは定かではないが、二段ベットのマットレスはどこかの刑務所で使っていたものと誰かが言ったときには、アルバイト連中は「まじかよー」などとざわつていた。ともかくそんな二段ベッドとマットレスだった。

アルバイトたちは3つの班に分けられ、三交代制で働くことになった。
おれのグループは確か、朝4時から12時までだった。ともかく早朝から昼までだった。
夜勤はいやだったから、朝型のこの集団に入れてよかった。

作業内容は皿洗いと、朝の食事の補給である。
訓練が終わると米兵や自衛隊員が大量に押し寄せる。セルフ方式なので各自がおかずや飲み物をとっていき、なくなったらアルバイトが補充していくのである。頑丈な人間たちだし、ともかく腹を満たせばいいという感じなので、賞味期限が切れているヤマザキのロールパンなども出したりしていた。

朝のグループの中で、なんとなく3人組の友人グループができた。
一人は飛行機好きで自衛隊の整備で働きたいというエンジニア志望。
もう一人は陸上やっていたという大学生だ。

おれたちはつるんで積極的に島生活を楽しんだ。特にエンジニアとは作業のローテーションがかみ合ったので、一緒にいることが一番多かった。

休み時間には自転車で硫黄島を一周した。
自転車は自衛隊員に言うと簡単に貸してくれた。
島を自転車で回ると洞穴がいくつも見つかった。太平洋戦争時代に掘られた穴である。このどうしようもなく暑くて暗い洞穴に日本兵は何日も隠れ息を潜めていたはずだ。
おれたちも真っ暗な洞穴にいくつか入ったが、どこも怖くて奥まで進めずに出てきた。この島では収集されていない遺骨はまだまだたくさんあるのだそうだ。

硫黄島は常夏、亜熱帯だから海で泳ぎたい。
しかし、海にはハンマーヘッドシャーク(シュモクザメ)がいるから泳ぐなと釘を刺されていた。当局の話が本当であれば、ウルトラセブン第6話に登場する放浪宇宙人ペガッサ星人(注)のようないかした鮫を生で見られるひじょうーによい機会だったのだが、トラブルを起こすわけにはいかないので、おれたちは海岸をトレッキングするにとどめた。
海岸から見える黒ずんだ海に、鮫の背びれを見つけることはできなかったが……。

思い返せば、相当美しい景色だった。
一人で擂鉢山までジョギングもした。この頃はちょうど、星条旗を立てる米兵のモニュメントができたばかりだったが、頂上までの道がまだ舗装されていなかった(このモニュメントというか、もとになった戦意発揚写真については論争が多い)。

おれたちは、ほかのアルバイトが行かないマッチョな米兵たちがいるジムにも行って筋肉トレをした。陸上をやっていたという大学生は、100キログラムのバーベルをシットアップベンチで軽く上げており、みなで驚いたりした。
ジャンケンで負けた人間が、PX(米軍基地内の売店)で売られているやたらと安い米国製の缶詰やらビールやら買いに走ったりした。電子レンジで食べるぐちゃぐちゃのミートナントカはまずかった。

それ以外につるんでいたのは湘南で海の家をやっているという50くらいのオヤジだった。
アロハシャツと口ひげが似合っていたオヤジは、夏以外は暇だからアルバイトに来たと言っていた。
そのアロハオヤジとは唐辛子狩りに行った。島のジャングルに入っていくと、赤い可愛い唐辛子が実っているのだ。それをビニール袋に入れてひたすら集める。
アロハオヤジは醤油漬けにすると言っていた。
キノコ狩りで森に迷うという童話があるが、おれたちも同じだった。夢中になってジャングルを迷ったこともあるし、素手で唐辛子狩りをしていることを忘れて、手で顔の汗をぬぐったり、立ち小便をして痛い目にあったこともある。(つづく)

(平井康嗣)

(注)
(1)ウルトラセブンイラストギャラリー
ペガッサ星人のイラストがあるサイトです。ツボをおさえていてめちゃうまいぞ。
http://www002.upp.so-net.ne.jp/MJ-12/ep6-10/ep6-10.html
(2)wikipedeia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%82%AC%E3%83%83%E3%82%B5%E6%98%9F%E4%BA%BA
自分の星を破壊されたペガッサ星人って結構可哀想です。