「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

猫の繁殖期は特に定まっていませんが、俳句では早春の発情期を「猫の恋」と呼び、約２カ月の妊娠期間を経て生まれた子が「猫の子」になります。「子猫」は「猫の子」の副題ですが、「猫の恋」は別の季語になります。お気をつけください。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０１９年４月２６日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【猫の子】
猫の子の笑う門にて福来たり
猫の子のさくらの色の乳を吐く
猫の子のみんな揃って日向ぼこ
初めての雨滴を舐むる子猫かな
猫の子の小さき声して嚔する
公園の猫の子の啼くベンチ下
猫の子やいずれにしても父知らず
猫の子や最終コーナー近くなる
猫の子の生き残るべくかなしかる
子猫抱く花林糖よくかみながら
猫の子を見せぬ尻尾の折れしまま
勇んでも手足短き子猫かな
朝刊を読みたき子猫活字踏む
猫の子のこわいこわいと鳴いて来る
猫の子に潜望鏡の頭かな
箪笥より睥睨したる猫の親
猫の子の午前六時の鳥居下
名を付けし猫の子を抱く正座の子
水掬うように猫の子貰い受け
はぐれたる猫の子泣きて震えおり
猫の子の小さき舌鳴り顔うずめ
猫の子のまだぎこちなき毛繕ひ
足袋白き猫の子細（ほそ）う捨てられし
這いだした子猫と枕並べて寝
子猫しか見えないものがあるらしく
猫の子や日向で母に甘えたし
子猫抱くあと二十年持つ希望
エプロンのポッケに子猫しづかなり
人買ひの目付きはかくや子猫選る
猫の子に分けて与へしミルクかな
猫の子の取っ組みあって転がって
証言は猫の子虐待史今もなほ
吾見上げ親と間違ふ猫の子や
秒針の音のみ子猫ねむる部屋
子猫の尾のもの言ふしぐさ柔らかし
早々に連れだち旅す猫の子ら
今日からはお前生き甲斐子猫抱く
逃げる逃げる親のうしろを仔猫ども
猫の子の潜める闇に夜は来て
猫の子に甘く噛まるる手指かな
子が家を出て行き猫の子を貰ふ
甘噛の猫の子の目の細さかな
子猫から子猫分裂したやうな
明け方の夢見に子猫抱いており
野良猫の子たち揃ひて朝の庭
足の裏尾つぽに絡め寝る子猫
猫の子はまづ転び方おぼえけり
猫の子のいつの間にやら膝にをり
しばらく抱いてこの猫の子に決めにけり
猫の子の茶色に生れて置き去られ
猫の子のわざわざ我に寄つてくる
猫の子の好奇心なり尾は空へ
猫の子の甘え加減や甲の傷
殿の仔猫ひときわ小さくて
猫の子の三味線の音に目を見張り
猫の子の貰われゆくや小雨降る
玻璃越しに鴉威嚇す仔猫かな
パンダ抱くそれを見て鳴く子猫かな
家具すべて鎧ほどこし猫生まる
はんざきのやうな腕もて子猫かな
雉虎も斑も三毛もよき子猫
四五匹の軒下に啼く仔猫かな
母猫は子猫咥えて帰参せり
生るる度子猫流しし亡母想う
群れて来て鳴かない猫の子ら歩く
乗せられて鳴きをる子猫秤皿
猫の子に鈴付け紐付け名前付け
子猫から天命までが吾の青春
猫の子や彼方此方に瀬戸の島
猫の子の六匹増えて大家族
着ぐるみの猫に甘ゆる仔猫かな
猫の子に定席盗られみそっかす
襟首を咥へられたる子猫かな
猫の子のひねもす飽かぬかくれんぼ
コップの底に顔入れ鳴く仔猫
猫の子ら横並び吸う乳房かな
父探す猫の子探す猫の母
猫の子の眼にホモ・サピエンス笑ふ
猫の子の昨日生まれし城下かな
捨て子猫話に耳をピクとさせ
猫の子に食住足りて親のなし
猫の子の指のあひだを垂るるごと
猫の子やシチュー温めて真夜となり
猫の子の身を寄せ合ひて母を待つ
猫の子の眼開くやら開かぬやら
猫の子の次につながるために鳴く
猫の子や吾に野性の牙剥きて
カーテンの風を引つ掻く子猫かな
猫の子のほくほくと湯気たててをり
猫の子に大き過ぎたる段ボール
猫の子の学び心の高きかな
猫の子や恋人よりも気に掛かり
拾ひ来し子猫はうつらうつら居り
捨てられし猫の子甘く甘く鳴く
猫の子や器量好しから貰われて
猫の子の寝息しずかな刻過ぎぬ
幼子の子猫抱きしめ眠りけり
子猫もう何か狙ひてゐる瞳
背後から爪を切らるる子猫かな
野原から猫の子の群れやって来る
猫の子や腕を伸ばせば抱くことに
そのなかに子猫嫌ひといふ人も
胸に爪立てて離れぬ子猫かな
子猫五匹いや六匹の食費かな
道路より人家を好む子猫かな
猫の子を抱かせ涙を拭いてやり
猫の子の籠に眠りて五六匹
ふにやふにやの子猫ふにやあと鳴きにけり
猫の子の声を便りに繁みへと
猫の子にエリザベスカラー未だ早く
猫の子のじゃれ合ふ胸の景色かな
猫の子を帽子に入れて貰ひけり
母猫の目が追ふ路地に仔猫多々
子猫の眼と合ひ抱き上げる学生
縞子猫横断歩道をゆっくりと
猫の子のたゆとう白き眠りかな
激情の生みし子猫のにこ毛かな
名を呼ばれカーテン越しの子猫の目
夜の闇に子猫呼ぶ声母の声
猫の子や誰を探して鳴いてをり
猫の子の貰われて来て紐にじゃれ
猫の子のわれと一緒に妻のこと
猫の子の好きにさせてといふ態に
長椅子の隅を陣地に子猫かな
保護されし猫の子シリンジのミルク
猫の子の手のひらに乗る小ささよ
あの父を惑はせてゐる子猫かな
猫の子の三日三晩も泣き止まず
開かぬ目でmew mewと仔猫かな
猫の子に大人三人掛りなり
猫の子やママと思つてゐるらしい
雨上がり雫猫の子目で追ひぬ
花びらのやうな鼻寄せ子猫かな
猫の子のペルシャの海の蒼すでに
猫の子の敵は鏡のなかの猫
招き猫を親と思ふか仔猫の目
猫の子と遊んでひと日飽きもなく
猫の子やゆつくり落ちてゆく夕日
猫の子の諫止するがに親に触る
仔猫啼く雨の気配の濃くなりぬ
猛獣のごと猫の子の大欠伸
猫の子の口より大き目玉かな
猫の子や悩ましき世に浮かれけり
人の世の慈悲保護されし猫の子ら
子猫のせ互いの骨のありどころ
泣き止まぬ子猫戻してお茶啜る
猫の子やロシア貴族の末裔で
猫の子のときには親になれぬ子も
古屋根をふいに湧き出て子猫たち
里親をみずから選ぶ子猫かな
猫の子はまず封を切る音憶へ
猫の子がふくらみしぼむ鼓動かな
猫の子の穴さえあればまた入り
猫の子にトランプの名がよく似合ひ
石塀の陽を分け合いて猫子猫
ふにやあと鳴くよふにやふにやの猫の子よ
猫の子の前足さばき親に似て
青き眼に吾が顔映す子猫かな
猫の子や光と闇の飲み屋街
猫の子やひたと寄り添ふ宵のころ
猫の子ら組んずほぐれつ寝ねにけり
親が呼ぶ猫の子くぐる紙袋
夢路たどる仔猫の脚の宙を掻き
露地裏は静かになりて猫の産
客人の靴に戯る仔猫かな
猫の子のじゃれて飽くことなかりけり
猫の子や胸に爪たて離れざる
まろびてはたわしのごとき子猫かな
今日よりは我が家の子猫楽に寝よ
お茶会の上席座る仔猫かな
寝返りの右と左に仔猫かな
膝抱けば背から頭へ孕猫
布団から子猫掴んで引戻す
転ぶとき二回転する子猫かな
猫の子の右前足をつまみ上ぐ
家人みな許す子猫の甘え癖
三歳児子猫の名前付けにけり
猫の子や時計こはれてずつと昼
猫の子や声も目方も温もりも
かと言ふてどうすりや良いの泣く子猫
猫の子のあつまつてゐる日なたかな
猫の子の生きる力のまなこかな
猫の子や曇り晴れても動じない
露地裏をほつつき歩く仔猫かな
捨てられて夕日泣かせの猫の子や
猫の子を抱きて社長の訓示かな
猫の子の生まれながらの精悍さ
ここまでの領域猫の子は走る
六畳を走りまわって子猫かな
ダンボール箱の塊子猫鳴く
猫の子の歩き疲れて餌漁る
おやすみを言はぬ夫や仔猫抱き
竹籠の中より子猫顔を出し
猫の子に触れば眼吸ひつきて
膝の上親を探して啼く仔猫
猫の子や探査機採取星の砂
名をもらひすこし大きくなる子猫
いちばんに寄り来し子猫貰ひ受く

【仔猫】
往還の月の照り映え野の仔猫
猫の仔や鞠動かしてのけ反って
べべ鈴も悲しきものぞ捨て仔猫
手の仔猫ときにちいさく牙をむく
こら仔猫お家はどこか茅野原
仔猫母恋うや前肢踏んで啼く

【猫の恋】
猫の恋僧が道説くかたわらに
闇深く侘しき声や猫の恋
今は亡きひと消えし夢猫の恋
星きらめく宵の祝福猫の恋
猫の恋未来語るか愛籠めて