きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

金曜俳句への投句一覧(10月末締切、兼題「夜寒」)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です

選句結果と選評は『週刊金曜日』11月26日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

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【夜寒】
モンゴルへ人送り出し夜寒かな
夜寒かな強火に鍋を疾くゆすり
ふりだしに戻ることなき夜寒かな
ひをくらし明日もここに夜寒かな
一行の夜寒の日記つけにけり
空のあお透きとおるままに夜寒かな
酒飲んでちょっと醒めたら夜寒かな
母若き遺影の部屋の夜寒かな
戸締りに浅く踏みだす夜寒かな
夜寒かな睡りさめてはそのままに
逃げ場なく酒も効かない夜寒かな
夜寒かなつまづく先の老いありき
混沌と岳父の脳の夜寒かな
足の裏から入ってくるよ夜寒かな
鶏小屋はめんどりばかり夜寒かな
潮騒を遠く逢瀬の夜寒かな
ふるさとの風にうたれて夜寒かな
古里へ一本道の夜寒かな
間に合はせ夜寒の床の覗く趾
うでまくらほどき寝なほす夜寒宿
蒼白き十指になりて夜寒かな
波のごと夜寒寄せ来る旅の宿
一人より二人で居ての夜を寒み
たばこ屋はビルの外向く夜寒かな
足音を忍ばせてくる夜寒かな
グラビアの水着の女子夜寒かな
裏木戸の風の匂ひや夜寒し
夜を寒み星宿凜と冴えかえる
桐の葉をがさりと落とす夜寒かな
夜寒かなナースの部屋の咳一つ
コンサートの余韻を分かつ夜寒かな
鼻唄の途切れがちなる夜寒かな
夜寒かな囲みの記事の闇の中
赤電の灯りゆうゆう夜寒し
透きとおる雲のまにまに夜寒かな
ながじりのおひとりさまの夜寒かな
すんなりとおさめてくれぬ夜寒かな
みのあまる外気の風や夜寒かな
舟こぐや夜寒の底へダイブする
さんざめく星の声する夜寒かな
目の前にぱっとひらけた夜寒かな
ラーメン啜る男の多き夜寒かな
街道に夜寒の声のポストから
逸りつつ夜寒のキーを叩きをり
心にもあらで浮世の夜寒かな
あの頃は良かったなんて夜寒かな
家猫の声たてず鳴く夜寒かな
夜寒し厨に塩の壺ひとつ
おもおもと鍋などかかへ来て夜寒
オルゴール掌に乗せて聴く夜寒かな
やゝありて頁繰る音夜寒し
靴音のくつきり尖る夜寒かな
山小屋のねずみとパンを夜寒かな
ぢき夜寒洗濯ものの熱も引き
終電車夜寒にたどりつきにけり
心とは関係ないゾ夜寒かな
枯葉降る音に聴き入る夜寒かな
寄り添いし夜寒の猫と同い年
曼珠沙華色褪せ果てて夜寒かな
夜を寒み松籟とおくまたちかく
妻も子も我も語らず夜寒かな
たうとつな笛吹ケトル見し夜寒
服薬にむせてむせをり夜寒かな
独白の止まず夜寒にバス待てば
内蔵助厠を出でし夜寒かな
遠く近く諍ふ声のして夜寒
夜寒やかまへんかまへん何なりと
夜寒さや店の人形並べ変え
定年やひとり読書する夜寒かな
病棟の窓ふり返り夜寒かな
秒針の凄みも増してくる夜寒
家族写真眺めていても夜寒かな
夜寒かなマルクス伝に恋淡き
独立し家具まばらなる夜寒かな
老眼鏡蔓少し上げ見る夜寒
ふれ合はぬ話ならべて宵寒き
夜寒し熊どちの飢ゑいかにせん
夜寒かな今日も見かけし猫のこと