きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

“密室”で進む自衛隊取材のルールづくり

 日本新聞協会と日本民間放送連盟は2月16日、イラクでの自衛隊取材にかんする正式なルールを話し合う委員会を開きましたが、本誌の取材も、委員会終了後の説明もともに拒みました。このことは『週刊金曜日』2月20日号の「金曜アンテナ」でも簡単に報告しました。


 この正式ルールづくりは当初、防衛庁と防衛記者会の間で話し合われていました。防衛庁側は、ルールが決まるまで話し合いの過程は公表しないで欲しいと防衛記者会に要請。その後、防衛記者会に替わって、日本新聞協会と日本民間放送連盟、NHKがつくる委員会が防衛庁と話し合うことになった、という経緯があります。
 日本新聞協会は「(この件は)広報しないことになっている」と話しています。「話し合いを始めている」ことだけは2月10日付『読売新聞』や2月13日付『朝日新聞』などが報じていますが、多くのメディアは沈黙を守っています。事実上、防衛庁側の「報道しないでほしい」という報道自粛要請を受け入れた格好です。あるメディア関係者は「この報道自粛受け入れで、日本の戦後ジャーナリズムは死んだ」と嘆いています。
『週刊金曜日』では、主要マスコミ14社に報道しなかった理由を緊急アンケートしました。あわせて、2月20日号「まだあった自衛隊の報道規制」(筆者、浅野健一・同志社大学教授)のデータのためにも各社に質問を出しています。ファクス送付は2月12日(木)。回答期限は16日(月)正午でお願いしました。17日夕方までに12社から回答がありました。『毎日新聞』は、質問のファクスが届いていないということでしたので再送しました。回答が届いたら、後日掲載します。
 以下に、本誌の質問と各社の回答を掲載します。各社の考え方の相違や防衛庁とのやりとりが浮かび上がっています。
 注意深く見ていただきたい点がもう一つあります。前回(1週間前)のアンケートで本誌は下記の質問をしていました。《30日に陸上幕僚監部が提示した「暫定立ち入り取材申請書」のほかに、同様な取材申請書を出す要求は自衛隊からありましたでしょうか。また、その要求に対してどのように対応されましたでしょうか》
 これに対し、「ありません」などと回答していた社で、今回のクウェートでどうだったかという質問に「(誓約書を)提出しました」と答えた社があります。誓約書を提出したことを誤魔化したのか、それとも誓約書の提出は現地の記者の判断で行なったために本社の担当者が知らなかったのかはこれだけではわかりませんが、矛盾した回答です。

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【マスコミ各社への質問】
1)クウェート国アリアルサレム空軍基地内の取材において、1月20日に防衛庁側が提出を求めてきた防衛庁長官官房広報課長宛ての「誓約書」を提出しましたか。

2)その際、空軍基地内で撮影したビデオ映像や写真について基地を出る前に防衛庁側がチェックし、不適と判断されればデータの消去に応じるよう防衛庁側が求めてきましたが、そのことに同意しましたか。また、同意した場合、なぜ同意したのですか。

3)イラク現地における自衛隊の取材に係わるルールづくりについて、防衛庁と話し合うため日本新聞協会と日本民間放送連盟が2月10日、委員会を設置しました。イラク報道の今後のあり方を規定する、極めて重要な動きだと思いますが、なぜ報道しなかったのですか。

【マスコミ各社の回答】
●新聞社
《朝日新聞》
1)提出しました。基地内ではクウェート軍、米軍の規制があり、それについてのクウェート軍の要請が航空自衛隊を通じて、当日に限ったものとして回ってきたと判断して、提出しました。
2)はっきりと同意を求める形ではなく、従って、こちらから積極的に同意の意思は示していません。結果的にも、カメラのチェックなどは受けませんでした。
3)3者が話し合いを始めていることは、13日付の弊紙朝刊第二社会面で報じています。内容については、話し合いが始まったばかりですので、今後の推移を見て判断し、報じていきたいと思います。

《毎日新聞》
ファクスが届かなかったというので、質問を再送信中。回答が届いたら後日、掲載します。

《読売新聞》
1)誓約書を提出しました。
2)同意していません。
3)個々の記事の掲載理由等については、従来からお答えしていません。

《産経新聞》
1)2)については、産経新聞はクウェートの空軍基地内での取材をしておりません。
3)については、「取材にかかわるルールづくり」の話し合いが終了するのを待って、紙面で報告する考えでおります。

《日本経済新聞》
1)提出しました。
2)同意していません。
3)引き続き、適切な時期に適宜報道していく考えです。

《東京新聞》
1)
2)同意していない。
3)
新聞協会と防衛庁が協議中のため、今回は(2)しかお答えできません。

●通信社
《共同通信》
1)提出していません。
2)同意していません。
3)協議終了まで、途中経過は報道しないことで合意しているためです。

《時事通信》
1)「米軍基地での取材となるため」などと言われたため、提出しました。
2)話し合いが紛糾し、実際にはチェックは行われていないと聞いています。
3)取材ルールづくりの協議はこれまで防衛記者会が窓口となって防衛庁側と行っていましたが、その窓口が委員会に変更になっただけのことです。

●放送局
《NHK》
1)、2)質問のようなことを求められた事実はありません。
3)編集上のことであり、回答は差し控えます。

《日本テレビ》
1)提出しました。
2)自衛隊側はC130輸送機到着の際の生中継にあたり「原稿を提出してほしい」と要求してきましたが、日本テレビ側は「できない」と伝えました。結果的には、事前に映像・原稿を見せることはありませんでした。
3)ニュースの編集方針についてのコメントは控えさせていただいております。

《TBS》
1)「誓約書」は提出していません。
2)アリアルサレム空軍基地内での取材で、検閲めいたことに応じるよう要求された事実を承知していません。よって、そもそも同意などしていません。
3)取材のルールづくりは当初、防衛記者会を現場にして各社が話し合っていましたが、議論のスピードアップのため新聞協会と民放連が引き取った経緯があります。このように一連の流れでの出来事であり、委員会を設置した時点でこれをニュースにする考えはありませんでした。

《フジテレビ》
1)提出しておりません。
2)同意しておりません。
3)

《テレビ朝日》
回答なし

《テレビ東京》
1)
2)
3)重要なニュースであることは承知しています。しかし、スペースの問題と、あくまでプロセスであるという捉え方から、これを立ててニュースにしませんでした。

※編集部注:テレビ東京はイラクに自社の記者を派遣していないため、(1)(2)は未回答。