きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

散歩しながらうたう唄

 アンケートで読者からの要望が強かった漫画の新連載を、4月11日号から始めました。毎月第2週(5月は2日号が休刊なので16日号)に掲載する予定です。

 新連載にあたり、実は編集部員5人で漫画班を設置し、「どういう方にどんな漫画を書いてもらうか」をずっと話し合ってきました。分厚い漫画雑誌とちがって、『週刊金曜日』は全部で68ページしかありません。どんなに多くても1回8ページが限度でしょう。ページ数の制約なども視野に入れ、いろいろな方の名前が挙がったなかで、最終的には私が強く推した森雅之さんに頼むこととなり、森さんも快諾して下さいました。

 森さんの紹介は編集後記の「金曜日から」でも書きましたが、新しい情報を加えてもう少し詳しく書きます。作品はそれ自体がすべてで、無駄な解説は蛇足だという考えもあるでしょうが、昔からのファンですので少しつきあって下さい。

 マンガ・コラムニスト、夏目房之介さんは、森さんの作品を次のように批評しています。(原文はURL http://www.nature-n.com/manga/index-j.htm

「森雅之の風景は、何でもないように描かれているけれど、何でもなさに触感がある。(中略)絵は、単純に見えるから情報量が少ないわけではないという見本のようなものだ」
「記号的でありながら自然を感じさせる絵と、切り詰めた言葉。ここには、戦後日本マンガが切り開いた物語マンガの散文構造とは別種の、ただそこに置かれた器や切り花のように端正な表現がある」
「森雅之のマンガは、絵と言葉で描かれるけど、本当は“音”なんじゃないかと思う。音のつくる絵や言葉。(中略)ふだん、私などが散歩をするとき、本当は音で構成している空間もたくさんあるのに、目の記憶ですりかえてしまっているんじゃないか。そんな風に思わせるのだ」

 1976年にデビューした森さんには多くの単行本がありますが、ほとんどは入手困難です。それが今年冬、北海道立文学館で開かれた原画展(注)を機に『夜と薔薇』『散歩しながらうたう唄』『mf(メゾフォルテ)』の三点が「ふゅーじょんぷろだくと」(東京)より復刻されました。『散歩しながらうたう唄』のあとがきから一部を引用します。

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僕は今、「歩く漫画」をかいていこうと思います。
例えば、朝早くの山道を。
夕方の港を。
夜の校庭を。
ひとりで彼方を思いながら歩く時の、その胸の中に
冷たいドロップスの一粒のように、良い匂いでしみ込む物語を
僕は書きたいと思います。
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 本誌を読んで森さんの作品が気に入られた方は、単行本もぜひ探してみて下さい。