きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

記者クラブ改革

 森喜朗首相(当時)の「日本は天皇を中心とする神の国」発言が問題になった2000年5月、森首相の釈明記者会見に参加したいと「内閣記者会」(首相官邸記者クラブ)に申し込んだことがあります。内閣記者会の答えは、当然のことながら「ノー」でした。物理的に入るスペースがないことが“参加拒否”の理由でしたが、「閉鎖性・排他性」を強く感じました。

 この釈明会見の時には、会見の内容について森首相に忠告する「指南書」が記者室のコピー機下で見つかり、取材先と記者との癒着が表面化しました。しかし内閣記者会は、事実解明を求める公開質問状にも対応しないことを決めるなど、不明朗な対応に終始しました。

 このように新聞やテレビなど日本の報道システムを考えるうえで、避けては通れない「記者クラブ制度」(本誌374号〔2001年8月3日〕、378号〔同年9月7日〕参照)を改革し、風通しをよくしようとする動きが急です。2月15日号の「金曜アンテナ」でもふれましたが、この欄でさらに詳しく報告します。

 全国の新聞、通信、放送各社などでつくる日本新聞協会(会長・渡邉恒雄読売新聞社社長、155社)の編集委員会は1月17日、全国の記者クラブの基本的指針となる見解を4年ぶりに改定しました。この見解は23日に開かれた日本新聞協会理事会の了承を得て、会員各社、全国公共機関(中央官庁、都道府県ならびに警察本部など)、各記者クラブなどに連絡されています。

 日本新聞協会の新見解のポイントは、記者クラブを「取材・報道のための自主的な組織とした」うえで、「報道活動に長く携わり一定の実績を有するジャーナリストにも門戸は開かれるべきとした」点です。(詳しくは、新聞協会のホームページ、http://www.pressnet.or.jp/に載っています)

 一方、新聞や通信社の労働組合でつくる新聞労連(畑衆委員長、85組合約3万2000人)も2月8日に記者クラブ改革案を発表しています。日本新聞協会よりも、大幅な開放策となっているのが特徴です。

 新聞労連の改革案では、中央省庁や経済団体、地方自治体などの一室に設置されている記者室の名称を「取材センター」(仮称)とし、組織としての記者クラブとは別の存在としたうえで、(1)取材センター(仮称)はすべての取材者が平等に利用できる、(2)記者会見への参加は、記者クラブ参加の有無を問わず、取材者のすべてに開かれる、(3)記者クラブへの参加は、原則として希望する取材者のすべてに開かれる――などとしています。

 新聞労連のホームページ(http://www.shinbunroren.or.jp/)には2月13日現在、改革案が掲載されていませんので、改革案の骨子全文を文末に掲載します。

 日本新聞協会の見解は、経営者組織の決定であるだけに、各記者クラブへの影響は大きいものがあります。一方、新聞労連の提言はあくまでも「改革案」ではあるものの、現場の記者たちの多くが組合員であるだけに、その持つ意味は重いと考えます。

 いずれにせよ、記者クラブへの批判((1)閉鎖性・排他性、(2)公権力や取材対象からの便宜供与、(3)取材先との実質的な癒着など)の高まりを背景に、労使双方とも現在の記者クラブ体制では、読者・視聴者の理解は得られないと判断したのでしょう。田中康夫・長野県知事が昨年5月に発表した「脱・記者クラブ」宣言(http://www.pref.nagano.jp/hisyo/press/kisya.htm)の影響も見過ごせません。

 明治はじめに誕生してからおよそ100年の歴史を持つ日本の記者クラブ制度が、これらの新見解や改革案で、即座に生まれ変わるとは思えません。記者クラブ制度が今後、どうなるか、注目し続けたいと思います。

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【新聞労連・記者クラブ改革案の骨子】

1 取材者

●報道を通じて市民の「知る権利」に奉仕する者(取材者)は、公権力と直接対峙し、市民の「知る権利」に応える情報を引き出す役割を担う。

2 取材センター

●取材センター(仮称)は、取材者が公権力をその内側から監視するための公共のスペースであり、使用にあたっての制限があってはならない。また、希望する取材者が恒常的に使用することも阻まない。

●取材センター(仮称)では、公共のスペースとして機能するために必要な最低限の設備等を除き、それを超える日常経費(ランニングコスト)については、取材者の自己負担とする。

3 記者会見

●取材者ならびに記者クラブは、公権力に対して記者会見を要求できる。また、記者クラブは、市民の「知る権利」に応えるため、公権力に対し記者会見を開かせる役割を果たさなければならない。

●記者会見への参加は、記者クラブ参加の有無を問わず、取材者のすべてに開かれる。

4 オフレコ懇談

●記者クラブに対するオフレコ懇談は原則、認めない。

5 黒板協定(しばり)

●公権力が記者クラブに対して求める、いわゆる「黒板協定(しばり)」については、原則廃止する。

6 制裁措置

●報道を理由にした記者クラブによる取材者、特定社への制裁は認めない。

7 懇親会等

●記者クラブを対象とした懇親会は原則廃止し、餞別や贈答などはいっさい受け取らない。

8 記者クラブ

●記者クラブは、報道を通じ、公権力を継続して監視する取材者が集う組織であり、その運営は自主的に行う。

●記者クラブへの参加は、原則として希望する取材者のすべてに開かれる。

9 規約改正

●この記者クラブ改革を実現させるため、各記者クラブには、提言に沿ったクラブ規約の改正を求める。

以 上