きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

冗談のような「安倍総裁誕生」は、冗談のようだから怖い

<北村肇の「多角多面」(96)>
 少し時間を遡るが、「安倍晋三自民党総裁誕生」翌日の新聞社説。大手紙はそろいもそろって、何か奥歯に物がはさまったように歯切れが悪かった。

『朝日新聞』は一応、安倍氏のタカ派ぶりにクギを刺した。「ナショナリズムにアクセルを踏み込むような主張は、一部の保守層に根強い考え方だ。だが、総選挙後にもし安倍政権ができて、これらを実行に移すとなればどうなるか。大きな不安を禁じ得ない」。だが、全体としては、批判しているのか期待しているのか曖昧模糊としていた。

 一方、『読売新聞』は、安倍氏が憲法改正や「河野談話」見直しに前向きなことについて「いずれも妥当な考え方である。実現に向けて、具体的な道筋を示してもらいたい」と賛意を示し、同氏が原発推進論者であることを踏まえ「安全な原発は活用し、電力を安定供給できるエネルギー政策について党内で議論を深め、責任ある対策を打ち出すべきである」と求めた。しかし「待望の安倍総裁」というトーンはまったく感じられない。もともと石原伸晃氏へのラブコールが目立っていた同紙としては、「安倍勝利」は意外な結果だったのかもしれない。

『毎日新聞』の社説見出しは「『古い自民』に引き返すな」。1面の政治部長による解説の見出しは「民主より『まし』なのか」。これだけ見ると批判的な感じがあるのだが、記事そのものはどちらも一般論に終始していて、はっきりしなかった。福島原発事故以降、権力批判の記事が増えた『東京新聞』だけは、1面の見出しからして「民も自も『タカ派』」だったし、社説では安倍新総裁の危うさを指摘していた。

 全国紙の大半が煮え切らない論調だった一つの理由は、「安倍総裁」が想定外だったことにある。立候補時も「えっ、まさか」という感じだったし、複数の政治部記者から「一度、総理の椅子を投げ出した安倍氏が勝つはずはない」と聞かされていた。それが、あれよあれよという間に本命となり、総裁選後半には「安倍で間違いない」という情報が次々と飛び込んできた。

 橋下徹氏の場合も、いちタレント首長がいつの間にか「首相に最も近い男」になっていた。軽い冗談のつもりが冗談でなくなる――このような「流れ」が怖いのだ。不条理劇や小説によくあるパターンで、足下から底なし沼に引きづり込まれるような恐怖感がある。こういうときこそ曖昧模糊な態度をとってはだめだ。憲法の息を止めようとする連中を徹底的に批判し、表舞台から降ろさなくてはならない。(2012/10/5)