きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

「尖閣ビデオ流失」事件で解明すべきことは、「政府が外交をわからない理由」だ

<北村肇の多角多面6>

「尖閣ビデオ流失」事件は、とりあえず「容疑者」が名乗り出たことで、後は動機の解明に焦点が移りつつある。だが、本当に解明すべきことは、一個人の「犯行」ではなく、別にある。

 ネット上の映像を見たとき最も衝撃を受けたのは、中国漁船の予想外の動きだ。明らかに、タイミングを見計らいながら海上保安庁の巡視船に衝突している。たまたまとか、衝動的にとかではない。何らかの「意図」をもって行動しているように見える。

 その瞬間の海保の対応も、中国漁船の行動がいかに「予想外」だったかをうかがわせている。職員の言葉には、「えっ」「まさか」といった驚きの色が含まれていた。尖閣諸島(鈞魚島)周辺では、中国漁船と海保の巡視船が遭遇することは珍しくなく、大抵は、海保が警告し漁船が帰って行くことで事なきをえていたと言われる。

 なぜ、今回に限って中国漁船は過激な行動に出たのか。真相はわからない。ただ、背景に、中国の国家としての思惑が潜んでいた可能性はある。日本政府がビデオを「封印」したのは、政治的な匂いが濃厚だったからではないのか。

 多くの識者が指摘するように、中国共産党内では、軍部を中心にした外交強硬派が発言力を増しつつある。最近では、台湾・チベット・新彊ウイグル自治区の主権問題同様、南シナ海の海洋権益を「核心的利益」とするほどだ。その流れに乗って、尖閣諸島についても「自国の領土」というキャンペーンを展開したとみられる。

 日本側はこうした事態を背景にした事件に対し、次のように考えたのではないか。
(1)これ以上、外交強硬派に力をつけさせるのは得策ではない。ビデオ公開は、かえって同派の「反日」運動をあおることになる危険性がある。
(2)胡錦涛主席が外交強硬派への対応に悩んでいる現状では、ビデオは外交カードに使える。

 もしそうならば、船長を直ちに強制送還すべきだった。拘束が長引けば、強硬派の思う壺だからだ。送還しておいてビデオを「人質」にしたほうが効果的である。そうした外交が正しいかどうかは別にして、なぜ日本政府がこれほど「単純なドジ」を踏んだのかがわからない。海保が暴走したのか、司令塔がいないのか、前原誠司外相のパフォーマンスか。いずれにしても、情報漏洩の罰則強化などを持ち出すヒマがあるなら、内閣で「外交とは何か」の勉強会でも開いたほうがいいのでは。(2010/11/12)