きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

新政権と公共性の構造転換

シジフォスの希望(35)

 おそらくは誰か知恵袋がいて、意識してやっているのだろう。事業仕分け、CO2の25%削減、八ッ場ダム、高速道路無料化など、その着地点と実現性はともかくとして、民主党の発想は、ドイツの哲学者で憲法愛国主義のユルゲン・ハーバーマスのいう「公共性の構造転換」あるいは「公共の再生」を模索しているように見える。

 自民党的政治には政官財の癒着と米国への隷属という2つの厚い岩盤があった。癒着によって「公共」と「公益」は歪められ、隷属によって9条に象徴される平和主義は侵食された。公明党がそれを補完した。「癒着と隷属」の磁場に富が吸い上げられ、格差と貧困が広がる中、多くの人はそうした自民党的「公共」の転換を民主党に求めたようだ。では、民主党はその「癒着と隷属」の厚い岩盤をどれだけ崩せるのか。

 公開で実施された、「コンクリートから人へ」(10月26日の鳩山由紀夫首相の所信表明演説より)のための事業仕分けは、それまで市民・国民の目に触れずに決められてきた予算や事業のあり方をめぐって一石を投じた。しかし、この程度では岩盤に亀裂が入ることはない。爪を立てた程度ではないか。象徴的な事例が、軍事・防衛に関わる「仕分け」だった。

 在日米軍駐留経費を日本側が負担している「思いやり予算」については本来、日米地位協定第24条に基づいて米国がその全額を負担すべきところ、行政刷新会議の事業仕分けでは、基地従業員の給与などの見直しを求めた(11月26日)。要するに、「コンクリート」(この場合は米国や兵器購入など)に斬り込まずに、「人」に犠牲を求めた形だ。理念と逆行するのではないか。

 さらに言えば、本気で「公共」をめぐる構造を転換させるには、来年50年となる日米安保体制や天皇制にまで踏み込むことが不可欠だろうが、皇室や宮内庁の予算の仕分けについてはやはりタブーのようだ。官房機密費をめぐる平野博文官房長官や鳩山首相の発言を見ても、外交機密費や警察の捜査機密費を含めて、国民の税金でありながらブラックボックスに入っている裏ガネの使途を公表するまでには至らないだろう。となると、とてもじゃないが、「公共性の構造転換」にはほど遠い。(2009年11月27日・片岡伸行)