きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「湯豆腐」__金曜俳句への投句一覧
(12月25日号掲載=11月30日締切)

寒い夜は、湯豆腐など鍋が恋しいですね。湯豆腐と言えば久保田万太郎の〈湯豆腐やいのちの果てのうすあかり〉をよく思い出します。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2020年12月25日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです

電子版も発行しています

amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。

【湯豆腐】
湯豆腐の土鍋を猫も覗きけり
湯豆腐にレモン醤油の香りけり
湯豆腐のにはかに大き泡浮き来
すのつくまで湯豆腐煮込み待つをんな
湯豆腐やさいしょだけ強気な男
湯豆腐や掬ひ上手の寡婦集ふ
湯豆腐の水減れば水すこし足す
湯豆腐の穴に詩想がしみ込んで
湯豆腐や問はず語りの失恋譚
湯豆腐やことりと揺らぐ一欠片
湯豆腐の湯気残りたる六畳間
湯豆腐の酔ひに仮面を剥がさるる
湯豆腐や母胎に眠りたる心地
湯豆腐の初めの箸の白かりし
寒風に湯豆腐今や首座占める
湯豆腐を囲み四人の同期会
湯豆腐の暖の手足の先にまで
病む身には湯豆腐をあとひとすくひ
湯豆腐に御持たせの京七味添ふ
湯豆腐にカレースパイス反抗期
湯豆腐の抵抗なんかやめなされ
湯豆腐に作法はいらず箸でつく
湯豆腐はポン酢と七味ぬる燗で
云いわけを誤魔化し口の湯豆腐や
湯豆腐や少し傾く石の庭
湯豆腐に妻の育てし柚子絞る
湯豆腐のいのちときどき休みたり
湯豆腐やたわわに実る姫リンゴ
湯豆腐の湯気立ち込める狭き店
湯豆腐や妻の一言ふともらす
湯豆腐に忍ぶ幼なの大家族
湯豆腐の湯気越しに聞く回顧談
湯豆腐や軒端をかけるリスの音
湯豆腐の煙の沖に口がある
湯豆腐の降りてはらわた近きなり
急がずに生きて湯豆腐杯事
湯豆腐の沸きて見とれる独居かな
湯豆腐の湯気に汗かく窓硝子
湯豆腐のレシピいろいろ一人鍋
湯豆腐やつどえぬ夜の独り酒
湯豆腐の肌理に沁み込む熱さかな
湯豆腐や話題こと欠く差向ひ
湯気の中湯豆腐眼鏡が曇りけり
湯豆腐の豆腐明るし御影堂
湯豆腐を忘れて酒と炭いじり
馬路村のぽん酢へ湯豆腐ダイブ
湯豆腐や達観主義もよきものよ
湯豆腐を囲みて友となりにけり
しんしんと鍋の湯豆腐に魅せられ
湯豆腐にほどよき夜の冷え来たる
湯豆腐や利尻昆布の出汁の良き
湯豆腐をひとり食ふ日の来ぬことを
湯豆腐の欠片を掬ひ残り酒
幸せは半月おぼろ湯豆腐かな
湯豆腐や昆布の出自を確かめる
おふくろの湯豆腐が待つ家路かな
湯豆腐や文字の褪せたるラブレター
湯豆腐にあかの輝き網じゃくし
湯豆腐や酒追加してもう一丁
湯豆腐や社長は少し不満顔
湯豆腐や薬味で食べる文士殿
湯豆腐やありふれた夜の中にあり
湯豆腐や四角が揃う鍋の中
別鍋でも会えただけでもいい湯豆腐
太宰語らふ湯豆腐は鍋の底
湯豆腐の湯の音のある町屋かな
湯豆腐や優しくなれる二人鍋
湯豆腐や土産話は京巡り
湯豆腐や男女のつかる露天風呂
湯豆腐や予報通りに午後は雪
湯豆腐のラップの如く歌ひだす
湯豆腐や厨より立つこんぶの香
湯豆腐のぬくみ病後の腹に落つ
重さうに動く湯豆腐掬い取る
湯豆腐の落ち着きのなき男かな
湯豆腐や虹はマカイに日はマウカ(* マカイ:ハワイ語で山側、マウカ:ハワイ語で海側)
説教終ゆ湯豆腐煮えてをりにけり
湯豆腐をつつき潮待つ夫婦かな
湯の揺れてたおやかなるは絹豆腐
湯豆腐やまだ温かき父の頬
湯豆腐や浮世の憂さは忘れたり
湯豆腐や母を介して喋る父
真夜中の厨ゆどうふ一人鍋
湯豆腐や忙しき明日が待ちており
湯豆腐のどれも崩れて小糠雨
湯豆腐と大きな声で小銭置く
湯豆腐に代わる代わるの主張かな
湯豆腐をつつき小声をやり過ごす
湯豆腐の勘定数える店の隅
湯豆腐や箸で刺される鍋奉行
湯豆腐や窓にぼんやり川明り
一丁の湯豆腐ぺろりベジタリアン
湯豆腐や旅の終はりの渡月橋
湯豆腐の崩るる角の静けさや
湯豆腐や今夜も彼は警備員
湯豆腐や煮あがるまでの無心かな
湯豆腐に備前の猪口の客間かな
湯豆腐や土鍋で踊る湯の熱さ
新婚の妻と湯豆腐京言葉
湯豆腐や今日の反省瞑想し
ひと切れに残りし湯豆腐ゆずり合い
湯豆腐や底の昆布は死者のもの
湯豆腐や道ならぬ恋おじけづく
湯豆腐や向ひの考と酌み交わす
湯豆腐の湯気よ微睡みの刹那よ
湯豆腐のまんなかあたり揺れにけり
湯豆腐や野ウサギ描く跡紋様
湯豆腐やここにも一人不忠者
湯豆腐の箸の先から零れ落つ
湯豆腐に左利き用蓮華添え
湯豆腐や都会育ちは舌を巻き
湯豆腐やアリバイ崩す名推理
湯豆腐や有耶から無耶へ小さき角
清水の舞台の下の湯豆腐屋
湯豆腐や半丁で足る独り鍋
湯豆腐や無口な野郎よくしやべり
湯豆腐や庭木傾き夕日射す
湯豆腐やラジオの奏でハワイアン
湯豆腐の煮えて話は立ち消えに
湯豆腐の朱塗の箸にくづれけり
湯豆腐や矩を踰えずに生きてきし
齢重ね湯豆腐の季にまた出会ふ
湯豆腐の昼酒とせし妻の留守
湯豆腐の通過電車に暫し黙
湯豆腐や京の男の標準語
湯豆腐や白湯を味はふ里に来て
湯豆腐の湯気に家族の笑みの数
湯豆腐の湯気立ち昇り風の音
湯豆腐や静かに利礼昆布揺る
湯豆腐の平和泳ぐやアルミ鍋
湯豆腐を囲みし友や無音なり
人の子は笑ひ湯豆腐まだ踊り
断面の白さに湯豆腐のいのち
湯豆腐や使途を問われぬ領収書
核心を言はず向き合ひ豆腐鍋
湯豆腐や松下竜一思ひ出し
献立は湯豆腐にして角立たず
湯豆腐や温(ぬく)めて清し富士の水
湯豆腐の湯気無点句のことばかり
湯豆腐や嵯峨野の闇の深みゆく
湯豆腐に飽いて振り掛けご飯の子
湯豆腐やせうゆとあわすライムの香
湯豆腐や話もせずに舌を焼く
湯豆腐や満足のゆく今日は暮れ
湯豆腐の鍋北極の海かもね
湯豆腐のくずとる銀の掬ひ網
鬼の居ぬ夜や湯豆腐と酒二合
昭和史を論じ湯豆腐煮えつまる
湯豆腐の炎の青き嵯峨野かな
湯豆腐に熱燗付けて寒さ除け
背を丸め湯豆腐のこと考ゆる
湯豆腐動くのっしのっしと重そうに
湯豆腐や薬味八種に迷ひ箸
湯豆腐の土鍋の底の昆布こげ
湯豆腐やメープルリーフと遊ぶ猫
嬉野の今朝の湯豆腐湯気の膳
身構えて湯豆腐突き諦めり
崩れないもの湯豆腐にありにけり
湯豆腐や荒江戸隅田川月下
湯豆腐や昆布の下なる海の闇
湯豆腐の土鍋気づけば新しき
湯豆腐や蛍光灯を替へるころ
家籠もりひとり湯豆腐窓曇る
まだ文句言はぬ湯豆腐三日出て
湯豆腐の愚痴めく音を掬ひけり
湯豆腐のぐらっときたる刹那かな
湯豆腐を一匙食べて母逝きぬ
湯豆腐に座敷童の交じるとか
湯豆腐や彼の譲らぬ理想論
帰宅遅し婿湯豆腐の日に限り
湯豆腐の老舗込合ふ嵯峨野かな
湯豆腐や湯気に戯るはひふへほ
湯豆腐の煮えて二人の間柄
湯豆腐や食欲なき日の胃に優し
湯豆腐のここが潮時かもしれぬ
湯豆腐やつつきも添わぬうちが花
湯豆腐動き囲む家族の顔緩む
湯豆腐や床屋に行ってから食べる
湯豆腐や雪折れの音針のごと
湯豆腐の熱さに負けぬ詩の心
新しき入れ歯や湯豆腐の滲みる
湯豆腐の看板の立つ古刹かな
雨降る夜豆腐の白溶けてゆく
食卓に一人湯豆腐鍋二つ
湯豆腐の切り口白き時間かな
湯豆腐に探すいのちのうすあかり
車椅子嵯峨野の店に湯豆腐食ぶ
湯豆腐のぬくもりさみし四畳半
湯豆腐や化粧せぬまま過ぎし日々
湯豆腐の湯気の向こうに見舞いの書
湯豆腐に寝そびれている漢かな
ミステリー劇場湯豆腐食べながら
湯豆腐に紋甲烏賊や我家風
湯豆腐や一人暮しの昼の酒
湯豆腐や日銭を稼げ堂々と
ふたりして聞く湯豆腐の煮ゆる音
湯豆腐のうつらうつらを掬ひをり
湯豆腐の湯気の向かふに亡き父母が
湯豆腐の影ゆらゆらと手酌酒
真四角の泳ぐ湯豆腐すくい上げ
湯豆腐を吹く口先の嘘ばかり
湯豆腐や炭火囁く水こんろ
湯豆腐の角こそ凛とまろき月
のれん分け湯豆腐をくれの一言
湯豆腐を温め直す午前二時
湯豆腐や月に地球ののぼる頃
湯豆腐の小さな鍋に火を点す
湯豆腐や昆布敷きたるささ濁り

【不明】
悠々と鷹の羽広げて天昇る
急降下鷹の眼尖る野兎獲る
鷹匠の腕に喰い込む爪の跡