「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

「春深し」とは、桜も散って、春も盛りを過ぎた感じをいいます。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０２０年３月２７日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【春深し】
栄転を祝われぬまま春深し
春深し無人でまはる観覧車
春深しあくびをこらえ猫は伸び
デジャビュの尾握りそこねて春深し
春深しメトロの風にピアス揺れ
沖縄の駄菓子を食めば春深し
自転車に白きカバーや春深む
田吾作の春深ければ帽子とる
引越の荷解きもせず春深し
人の目のさまざまを向き春深し
春深しつかのま影と交代す
春深し子と競る土手の放物線
アルバムの上のアルバム春深し
春深し睫毛のうえのつけ睫毛
春深しざるそば麺は細めとす
春深し指をまろめて遠めがね
ゆっくりと開くまなぶた春深し
病床の窓開かす陽や春深し
春深し未踏の山で目を覚ます
春深し障子を開けて針仕事
春深しむかしなつかしフォークソング
交番は空っぽですよ春深し
戦乱のむかしを偲び春深し
春深し誕辰の夜の一人酒
春深し永遠の思索の弥勒像
春深し物見遊山に飽き足らず
春深し路地の奥まで咲上手
廃城の石垣に猫春深し
竜伏せる茶畑の朝春深し
子の名呼ぶ母の声して春深し
人気なき古道うねうね春深く
極太の長田焼きそば春深し
春深し地下一階の古本屋
額縁のガラスのくもり春深し
春深しボトルシップの未完成
駄菓子屋の籤付きラムネ春深し
妻は実家耳かきと春探しけり
口開ける音のする鯉春深し
春深し喪服の黒のただ一色
仏見てまぶた重ねて春深む
春深し単舎利別の泡の音
春深し猫語辞典を買いに行く
庭箒の先に荒草春深む
ハンマーでノジュールを割る春深し
春深し三角蓋の糊使ふ
春深しひとり旅よりふたり旅
ありふれた水の匂い哉春深し
春深き清音ふゆる鴉かな
うつうつと野道歩めば春深し
友達のベッドの硬さ春深し
ランドセルさまになりつつ春深し
校庭や森に深度の高き春
雑草を自認に生きて春深し
春更けて五人待ちたる大福屋
春深し出船の汽笛長々と
カーテンの向こうにやさしく春深し
春深し人疲れして寝込みをり
春深しひつくり返すおもちや箱
春深し絢爛として骨袋
修復の縦穴住居春深し
遠い島見ゆる雲梯春深し
被災地のひとごとごとく春深く
円空の仏の鉈目春深し
海の潮満ちたる音す春深し
春深しキャンパス内に人疎ら
珈琲の香残る書斎春深し
坂の上の雲の白さや春深し
磯桶に流れ藻絡み春深し
春深しされど野が凍つ震災地
春深しマシュマロのごと雲ふたつ
春深し条件法と前未来
春更けて埃まみれの部員共
春深し仮眠長引くトレーラー
日直の号令まろし春深し
うたた寝にひきこまれせう春深し
父祖の地を捨つる決断春深し
春深し心は花に花は実に
春深し卵積む手のおぼつかな
石を蹴り春の深さを確かめる
満貫の牌の手触り春深む
無人駅マニアひしめき春深し
春深しドロップの缶逆さにす
天領のかすていら食む春深し
手作りのアルバム届き春深し
春深む一会に桜＝に等し
犬も猿も雉も鬼も春深し
春深し千曲の流れいや清く
春深し海を隔てて絹の道
面影に面影重ね春深し
水音の豊かに高く春深し
春深しふたりの形決めるころ
春闌けて咲かない花と散る花と
春深し連れ合い待たせて飾り窓
春深し屋敷祠の油揚げ
焼印の読めぬどら焼春深し
局面は後手の優勢春深し
化粧品の売り場素通り春深し
春深しあくびのあとのかたえくぼ
錠剤はシートに二列春深し
育苗の本圃均して春深し
憧れは悩みに似たり春深し
ワイパーで払ふ花粉や春深し
駅前に無料の足湯春深し
誰もゐぬ公園の昼春深し
春深し嬶座の脇の猫つぐら
いつまでも近づかぬ船春深し
花過ぎて青が目立つや春深し
金継ぎの金の曇りや春深し
春深し夢の出口に切符出す
留守電に笑ひこゑだけ春深し
春深しぬるくなりたる茶を啜る
春深し自転車通勤自慢の日
面白き人の世に老い春深む
春深し田毎の月は幾重にも
春深し夜も止まらぬ花時計
春探し私は花を子は虫を
生徒達休み始めて春深し
寄合は蕎麦屋の二階春深し
春深し薄墨の手のやはらかく
くらがりに段差のありて春深し
春深し亡き子を描く絵に楽譜
春深し稚魚放流の川光る
靴下という名の猫や春深し
鞘当てに負けて頬杖春深し
老人斑隠すひまし油探す春
からくりの人形舞ひて春深し
春深し踵の厚きスニーカー
父懐かし坑口跡を春闌けて
春深し陽だまりで聴くモーツァルト
エンゲージリングを外し春深し
閉館の料理旅館や春深し
雨けぶる京のはづれの春深し
前髪を切り過ぎる癖春深し
春深しライ麦パンを噛みしめて
ブラウスの胸元緩め春深し
春探す人なき道でマスク越し
遅咲きの母校の校庭春深し
水盤に来ては去る鳥春深し
どら焼きの餡ほろほろと春深し
デモ行くや春の深さと思慮深さ
埃舞ふ春深ければ石を蹴る
目薬の一滴溢れ春深む
春深し飛ぶ夢覚めて朝湯かな
春深き蒼穹震うバイオリン
春深しメガネを洗う超音波
春深しオタマジャクシのおちょぼ口
迂回路を七里が浜へ春深し
春深し瞼の中の万華鏡
春深し道端の花一輪に
しみじみとひとりぼつちや春深し
春深し電子辞書より鳥の声
春探しひと月早く梅が咲く
春深し厨に乳の濃き匂ひ
春深しペプシの缶が錆びてゐる
春深し踵を返す丸木橋
どの家もにじむ灯火春深し
春深し新幹線の通路側
春深し晴れぬ思いは恋なるか
春深し川の水輪の楕円形
春深む増毛連峰眺むれば
春深し天衣無縫のピアニスト
春深し思慕つのる日のうらめしく
口開けて寝る人の口春深し
春深し京に疎くて京の路地
チョコレート媚びるかに割れ春深し
春深し手のつけられぬ居留守かな
春深し知り人に夢語りをり
春深し見えない物に怯えけり
だんまりと狸寝入りや春深む
半跏思惟像深まる春の倦むかたち
春深し山の緑が濃く見えり
髪にかざす光や風や春深し
ここかつてサナトリウムや春深し
其処此処に飛び交う号外春深し
エプロンのまま菜園へ春深し
春深む視線が合ひし花に蝶
春深し小川が細くなつてゆく
最古なるカラー写真や春深し
同じ絵を見上ぐるふたり春深し
拾ひたる青きビー玉春深し
春深しヴイヴアルデイの四季を奏す
春深し思ひ出遠し君遠し
鉱毒の山の廃墟に春深し
考えが行動になる頃春深し
釣竿が並ぶ釣具屋春深し
春深し泥にまみれたヘルメット
春深きハッピーエンドのピカレスク
行動を起こす風吹け春深し
春深し路上に赤きチョークの絵
週末のデート重ねて春深し
グールドの幻想曲や春深し
春深し池濁りたるこの雨に
春深し家電の裏は蟹のよう
春深し試験に出ない四字熟語
春深し自転車でいく興福寺
春深し押問答の果しなく
春深し古書店巡りどこと決め
盤上の形勢読めず春深し
春深し乙女の心ルージュ塗る
風除けのとれた二輪車春深し
春深し闇に漲る生気かな
春深し尾の先丸い猫を追う
爪切つてひとりぽつちや春深し
春深し友の自画像手に取りて
女子にだけ優しき教師春深し
バス停にもう乗らぬバス春深し
春深し部屋から去らぬ羽の音
春深し菩薩の思惟沈みゆく
春深し何かとどまり何かゆく
春深し道路工事の昼休み
天金の埃拭ひて春深し
お局の眉尻上がり春深む
春深し方位分からぬ池袋
春深む俳句弾圧不忘の碑
虫死せるガラスブロック春深し
春深し空には轍飛行機雲