きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「春浅し」__金曜俳句への投句一覧
(1月31日号掲載=1月5日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

今年は暖冬なだけに、「春浅し」という感覚もどこか遠い気がします。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2020年1月31日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【春浅し】
春浅しみじかし畝を跨ぎをり
春浅しドロップ匂ふモノレール
それでも生きる他なくて春浅し
浅春や古き駅舎の時計塔
春浅き海光映しレストラン
風に逆らひ自転車漕げば春浅き
干されたるシーツの端の春浅し
春浅し真鴨飛び立つ堀の朝
春浅し試し歩きの通学路
ビー玉の色ばら撒いて浅き春
春浅し北前船の寄りしてう
喉飴を放り込みたる春浅し
春浅し尾崎豊を口ずさむ
マフラーを外せば浅き春の風
出逢ひすべて過ちであり春浅し
春浅し猫と見あぐる空の色
荒波は虚空を呪ひ春浅し
風下のたちまち変はり春浅し
城跡を君と歩けば春浅し
手の振りは大きい走者春浅し
春浅し赤き帽子が跳ねてゆく
学食に老人わずか春浅き
春浅き光を零す水車かな
はかない恋眠りは浅し春浅し
浅春の杣をけものとしての我
春浅し集団就職てうありき
春浅しウォーキングの人と会ふ
春浅しカフェの木の椅子まだ固し
春浅し風にわずかな温もりが
春浅し香炉の灰を均す僧
春浅き早瀬に脈の疾くなりぬ
解体を待つビルの群れ春浅し
ホスピスにいのち穏やか春浅し
消しゴムの角を汚して春浅し
春浅し尾根道に出て大き富士山
振り過ぎの胡椒にくしやみ春浅し
春浅しヘ音記号の背負ふ点
薄日差す父の骨壺春浅し
髪なびく気象予報士春浅し
春浅し霜焼けむずむず耳朶よ
浅春の全車指定の新車両
石鹸の乾き具合も浅き春
浅き春ゴム手袋の「赤」の映ゆ
春浅し制服掛けたり畳んだり
春浅し臙脂の車輛来て停まる
春浅し床より出づるに逡巡し
春浅し幹の下這ふ枝の影
浅き春小さき希望は小さきまま
小石蹴る音の遅れて浅き春
春浅し万歩計をポケットに
春浅し障子紙を張り替える
春浅しウッドデッキの端に猫
春浅しチップロードに熊の鐘
信号を渡らざる日の浅き春
春浅しNASAの土産の宇宙食
カフェのママ出勤いまだ春浅し
春浅しハンマーの音軽くなる
スカイツリーの見える丘なり春浅し
むず痒くなる列島や春浅し
春浅し「クレヨン」といふ糸えらぶ
赴任地を地球儀で指す春浅し
怪鳥のごとロープウェイ春浅し
代筆で違えた名前春浅し
浅春や夢で殴った人かしら
春浅し決断の要る問ひの来し
金継に金塗り足して春浅し
終着の駅の白樺末(うれ)淡き
居酒屋のランチメニューの春浅し
妻の囲碁やっと初級や春浅し
春浅しカバは時をり人喰らふ
カエル起きすぐ眠る季節春浅し
唐国のポストの緑春浅し
春浅し雲浮かべたる潦
球根に土割る磁力春近し
春浅し裏ごしされてゆくからだ
浅春の少女の脱皮する闇夜
縁石を白々歩く春浅し
藻のうへに魚の影をり春浅し
春浅し村営バスで一巡り
春浅し少雨決行だと知りぬ
故郷の山連なりて春浅し
襟立ててバスを待つ列春浅し
ガイド誌に彼の地の旅や春浅し
火葬場の御空や浅き春の窓
鍵の無い貸自転車や春浅し
棚飾るゲーテの詩集浅き春
枝渡る小鳥の群れや春浅し
眉上げて珈琲すする浅き春
静脈を探しあぐぬる春浅し
春浅しトランスジェンダーの目線
震災も九度目の忌や春浅し
春浅し新聞奥の生返事
浅き春オレンジ色のコンテナー
商店の黒きシャッター春浅し
春浅し少し熱めのミルクティー
春まぢか制服の裾伸ばしけり
衣に惑ふみちのくの旅春浅き
春浅し軒に手拭干してあり
たそがれは軍手の香り春浅し
春浅し軽くならざる旅鞄
春浅き和式トイレの広さかな
春浅し二百グラムのスニーカー
秘仏なら春浅きうち開帳す
春浅し月の声呼ぶ子守唄
春浅し越えられぬのは水溜まり
日のあたる父の座椅子や春浅し
春浅し馬の鬣からまりて
川に石落す遊びも浅き春
枝先の空青めきて春浅し
母残す庭のままなる春浅し
街灯の見ゆる病室春浅し
人失せし間藤の駅や春浅き
春浅し肩に届かぬやうに切る
春淡し棚上げの「永遠」そのままに
春浅し海辺のカフェに二人きり
春浅し座席の予約できぬまま
春浅し貝のかたちの菓子を食み
あの頃の吾のいとほし春浅し
山道は誰にも会わず春浅し
立ち昇る珈琲の香や春浅し
カーペットの下のポスター春浅し
春浅し畳の縁によろめきぬ
行くあてのあるのかないのか浅春
窓ごしに笛の音かすか春浅し
再会は明日に持ち越し春浅し
春浅し眠れるメリーゴーランド
氷瀑布に滴動ける春近し
木彫りの熊の少し痩せたか春浅し
とび箱を五段軽々春浅し
浅春や発句恩師の命日へ
春浅し花のまごころ伝わって
春浅しゾンビ映画を観る日暮れ
春浅し渚冷たく靴濡らす
春浅し九条根付けアフガンに
春浅し何処に行こうか旅支度
車庫線をぬつとひかりが春浅し
火葬場の建てつけ悪し春浅し
溪流の音高くして春浅し
岩槻の玄奘塔や春浅し
春浅し雪白の手に花の色
君付けのおおかた廃れ春浅し
浅春やバスを待つただバスを待つ
春浅し勝手口とは暗きもの
春浅し桜通じる夢枕
春浅し呼べば小さく猫のこゑ
君の赤の混じりたる浅春の夜明けは紫
春浅し夢にうつりて落椿
母の吐く息の音あはれ春浅し
夜の明け荒野は明るい春浅し
春浅し空の青さをいぶかしむ
春浅き街の教会懺悔室
浅春のやがて滾りとなる雫
春浅しおなかにねまる病猫(やまいねこ)
土曜だけ空くスケジュール浅き春
訳もなく春浅きころが好きです
春浅し母に内緒のキスマーク
シャンプーを肩に流して春浅し
春浅し疎林を透けるディーゼル車
春浅しそろつて傾ぐ夕煙
春浅し足場のなかに駅眠る
春浅し旅する心初心あれ
春浅し双眼鏡の中の鳥
春浅し水陽炎は弁財天
浅春やうすむらさきに煙るゑだ
春浅し海面白き東京湾
春浅し混浴露天風呂ひとり
看護師の若葉マークや春浅し
指輪外した薬指春浅し
春近し指で耳朶弾く癖
失敗はしたけどいいさ春浅し
勤行の鉦と太鼓と春浅し
ご近所の猛るピアノや春浅し
春浅しレシピ通りなはずなのに
出不精を記す日記や春浅し