「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

今回の兼題のひとつは「十薬」でした。十薬はどくだみとも呼ばれ、特異な臭気を持っています。薬効が多いことから十薬と呼ばれています。さて、どんな句が寄せられたでしょうか。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０１８年６月２９日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【十薬】
十薬や清廉潔白といふ病
十薬の気配残して終い風呂
十薬の纏ふ衣や笊うどん
十薬が思い出させる黒い雨
柚の木へと続き十薬の花の列
十薬で軟膏作る母の伝
十薬やけふも有給休暇とり
十薬を干し百薬の長を干す
雨に濡れどくだみの花暮残り
十薬もわれも日陰に暮らしけり
十薬や白よりほかに色はなく
十薬を束ねる子等の十の説
白壁の窓なる十薬の花瓶
十薬やその根性に学びたし
笑ひつつ十薬アスファルト破る
十薬や洗濯板に暴かれて
廃屋の十薬ばかり咲き匂ひ
採血管十薬の茎の色に充ち
輪廻して転生で咲く十薬よ
十薬の五弁一つは北をさす
どくだみの花見つめれど手は胸に
十薬のひとつひとつの濡れてをり
十薬に幅寄せしたる乳母車
十薬をちぎる諸手に正午の陽
十薬やピアスを知らぬ耳朶と舌
どくだみや静脈茎に浮かばせて
真つ白は怪奇なり十薬の蘂
十薬や迷路を猫に案内され
十薬は認知症にも効きますか
十薬や子は小さき闇隠し持つ
十薬を無造作に抜く男たち
母厳し十薬飲めば飯食わす
十薬や愚痴を育てる四畳半
雨降って十薬の庭となりにけり
絵手紙の十薬に香のありにけり
十薬のはびこる先に父母の墓
十薬や妾宅いつも半日陰
十薬の突き出る花芯黄色帯び
どくだみや空き家の垣根縁取りぬ
臭突の風車きしきしどくだみ咲く
十薬や魔法の汁と諭されて
「根気よく」てふよき言葉十薬抜く
十薬の香に子どもらのしかめ面
十薬や犬の背振い二度三度
十薬や雲も動かぬ雨催
十薬の茫茫イオン駐車場
どくどみやいつも二人で汲取り車
十薬や風わたりゆく孔子廟
毒だみや我れ痛恨の一日あり
空襲警報鳴る十薬の昼
十薬やガラツと空気入れ替はり
雑草の如き十薬別所持つ
十薬や伴侶を持たぬ朝ぼらけ
十薬に沈む黒猫獣めき
十薬のしつかり夜を摑みけり
十薬を見てゐるだけで治るなら
十薬に近づきすぎる夫婦かな
十薬や灯ともしごろの湖の色
十薬の闇に浮かんでしまひけり
どくだみや土をあまねく隠しをり
釣り池のほぼ十薬の香にみちて
十薬や舅に貰ふ熱き白湯
ドクダミや毒には毒といふ例へ
十薬のはびこつてゐる留守居かな
十薬や小さくありがとうの手話
十薬の吊されている懺悔室
どくだみの花や花嫁は幸福
十薬や田舎の駅にAED
十薬や親から子へと口伝へ
蔓延りし十薬踏みて里帰り
どくだみをカバンの隅に入れてをり
雨樋の修理どくたみ踏み分けて
指傷に十薬焼きて母の塗る
十薬を抜かぬままにしこぼれ落ち
十薬の香さへ届かぬ痴呆かな
どくだみは知れど十薬知らぬひと
十薬を刈る父の真意が知りたくて
裏庭の十薬剪って吊す軒
石段の十薬煙草吸う女
雨に濡れ十薬の香のひろがれる
十薬や本丸跡に傾ぐ杭
十薬や余生静かな老婦人
ありさうなところ奔放などくだみ
石置き場十薬隙間無く埋め
祖母言へり苦きほどよく効く十薬ぞ
十薬は粗末にできぬ罰当たり
十薬や付ける薬もなき齢
どくだみよ効き目あるやも其れ飲まぬ
気まぐれに十薬を摘み持てあます
十薬を避け辻馬車の停留場
十薬を軒端に吊す古家かな
十薬を気長に煎りし機上へと
どくだみや日中ぷらぷら映画など
どくだみや暗き抜け路地病院へ
鎌の刃に十薬におう夕べかな
ゆくりなし咲く十薬に癒される
十薬をつまむ指節くれだちて
十薬とベトナムフォーの朝眩し
十薬の干されしままの疎屋かな
十薬を採って干しての祖母の指
十薬の茂る町内会倉庫
十薬やランナー多き城下町
裏山の高み十薬蕊高し
蕺草の咲いて下肥といふ死語
十薬と同じ重さの夜が来る
十薬のにほひ遠方より電話
どくだみや少し見ぬ間の垣根かな
十薬のまことに白く鼻高く
十薬の雨に打たれて白さます
十薬は強いその性（さが）この身にも
原発の朽ちて十薬かをりけり
十薬を一輪挿して塵も無し
十薬を抜けば香りの責めるごと
ドクダミの闇を濃くして咲きにけり
十薬の縦横無尽融通無礙
十薬の僅かな白さを憎みけり
十薬を摘むや便所の換気扇
十薬の散らばつてゐる廃墟かな
十薬や軒下に居眠りの猫
十薬や狭庭さながら薬草園
十薬を踏みて佇む通夜の客
十薬の森の深くに蛭吐息
十薬や机上に飾る人もあり
十薬や穢土に咲いても穢れなく
十薬の道を抜けたら星の駅
十薬を迂回してゆく鬼ごつこ
十薬を好敵手として出迎える
十薬や癖ありながら頼れる人
十薬をむしり強き香手に残り
どくだみを残して終へむ草?り
十薬の香もまた佳しと六部かな
十薬や茶室まで右に左に
十薬や人の記憶は褪せやすく
束の間の陽に十薬の戦ぎおり
十薬を刈る別に他意など無いけれど
母の老ひ十薬を抜く気力なき
十薬や移動パン屋の客一人
どくだみの花に入籍する気配
祟るごとにほふ十薬抜きし夜は
十薬の抜けども抜けども生えに生え
城址覆ふ十薬も国宝となり
十薬の昏き昏きへなだれをり
十薬を意識しつつも通り過ぐ
三日見ぬ間にいちめんの十薬よ
十薬やエンタツ・アチャコ花紀京
どくだみやもう咲いたから抜いてやる
黒々と十薬繁る星抱き
どくだみの花や塵紙のなき厠
草むしりまず十薬を引抜けり
どくだみの花夕闇に雨匂ひ
十薬や坂道多き漁師町
十薬が咲いて月末豪雨かな
十薬の終日さわさわ揺れ止まず
どくだみの花裏庭に無人の家
十薬や路地の名店縄のれん
十薬の匂ひの雨や本籍地
十薬の十字の覚めて雨来る
十薬が陰ではびこる実験棟
十薬の茎も葉裏も紅きかな
十薬や花と香りを身に入れる
切られても十薬のまたワサワサと
十薬や遠きあの頃薬売り
十薬やスタートライン引き直す
十薬は祖母の面影そのにおい
十薬や風に飛ぶ夢萎みけり
十薬のここまでならば大丈夫
十薬や魔女の如きも優し祖母
どくだみの濁音のごと根の強し
十薬の恍惚として根を張れり
髪ぬれて十薬そよぐ夜の窓
十薬に孫購ひし除草剤
滑舌は拙し十薬は苦し
雨上り十薬どもが勢ぞろい
十薬やいまさらながらお説教
国境に並ぶ十薬静謐に
十薬や矢のごとく降る鳥の声
十薬やをみな独りの昼支度
十薬を咲かせ空き家の勝手口
十薬の境界杭を包囲せり
裏庭の夜を十薬ひしめきて
十薬や風の便りを確信す
十薬の芯に細かく雨の粒
十薬やいつかは空に帰るのか
十薬や先祖代々育てをり
十薬の生えたる庭に座らぬ子
十薬やナイチンゲール降り立ちぬ

【その他】
麻酔覚む夾竹桃の赤が揺れ
夾竹桃咲いて不穏の朝かな
夾竹桃４五角に睨まれて
夾竹桃指の眼鏡で見る閻王
悪き人夾竹桃の下で待つ