きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「温石(をんじやく)」__金曜俳句への投句一覧
(1月26日号掲載=1月4日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2018年1月26日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【温石】
川渡り案じ温石棺に添え
温石やコンビニ前の人溜まり
温石や熱き人ほど早く死す
六十路より八十の温石懐かしき
温石の冷めぬ間に打つメールかな
温石やこのひとときを愛しむ
温石や遺品に仄か明治の香
ただの石ころが温石になります
待ち人は来らず温石さめゆく
温石や首筋からの風邪とばす
温石の温もり滲みる丹田へ
温石を抱き大寺の長廊下
温石に使ひ込まれし窪みあり
日本海眺めて温石みすぼらし
温石の冷えきつてゐる重さかな
温石や電話ボックス並ぶ街
温石を抱けば孔雀が沖へとぶ
ひとつなる温石を子とわかちあふ
温石になる石ならぬ石のあり
温石のぬるみて臨む沖ノ島
温石に眠れぬ夜のひとりごと
温石を渡され礼を言う別れ
サウナ室の温石ひとつ拝借し
温石やちぢまり寝るはいつからか
温石を抱いて蓋する墓穴かな
魚の種を問はれて温石輝けり
温石とカイロをしのばせ親子旅
温石やお局様の遺品とか
温石の下にゐるやら何処ゐるやら
温石のくぼみに触れて電話鳴る
温石や葉書一枚ポストまで
温石にひとつ火の粉の吸ひ込まる
温石の石へと還る舞台あと
竈より温めの石を選びをり
隕石を温石にして旅立ちぬ
抱き癖の付きし温石柔らかき
全身の温石車椅子の君
温石を冷ましてならぬ人の待つ
温石や孵す小鳥の心地して
龍馬像真似て温石抱きけり
妻専用の温石をハンマーで割る
温石の冷めて終りぬ村芝居
ぬるき温石厳めしき父親
使ひ捨てカイロは「燃えるごみ」であり
温石や同行二人とは違ふ
温石はゆつくり石に戻りゆく
温石を妻と同様持て余す
温石の懐中に在る頼もしさ
温石のまつたり暖の消えてゆく
足裏のぬくみ片寄る懐炉かな
満州のいくさ温石語らすに
温石や一人旅行に啓かれる
舟降りる頃に温石冷めてをり
つげ義春の真似をして温石を売る
温石や明治知る人百六歳
ほの赤くよき塩梅の温石や
温石をそつと差し出す修道女
温石を抱きて奇岩の道下る
温石や産土の友便りあり
温石を渡す手のしわひとつひとつ
温石の熱すぎたるや布の焦げ
よく晴れて抱へし温石持て余す
母の香の温石抱きしめ丸まりぬ
チンしたり温石いま様変わり
温石を抱きて書き継ぐ日記かな
温石を町家の女房温めたり
暮れてゆくころ温石の冷え初むる
温石はラーゲリからの土産てふ
温石のぬくみにすがる雨の通夜
温石やきのふもけふも早寝して
丹田を離れ温石女手へ
捨てられぬ温石ひとつ文机に
温石と思へば妻の温かし
翌朝の硬直使ひ捨てカイロ
温石の丸みに指の掛けどころ
温石のぬるきを譲り星眺む
温石を抱きて広場に象の芸
温石の冷めて夕日の紙芝居
草鞋編む婆や温石懐に
太陽てふ温石いだく宇宙かな
温石のかはたれどきに夭折す
温石の置かるる母の手のやうに
温石や祖父の懐奥の奥
温石に思い馳せれば江戸の庶民(たみ)
温石につくづく思ふ行く末を
譲られし父の懐炉と釣道具
温石や胎児のごとく眠りをり
温石の腰にほどよき丸みかな
紙懐炉土産に貰ふ里帰り
温石の孔や火箸にかほうつる
かすかなる油の匂う懐炉かな
温石を抱きしめ眠る風強し
懐炉持ち横一列の夜釣かな
温石を抱きて痴呆の母は待つ
温石を抱いて孔雀の腹をみる
温石の重さ知つたる土踏まず
温石や三代触れし肌光る
扱ひを知らぬ白金懐炉かな
温石や今宵の夢は青き海
心にも硬き温石偲ばせて
温石を抱き山路の心地良き
温石とおぼしき二つ仏間より
温石の芯の強さを隠しけり
温石をなんとなく手巾でつつむ
温石や袂の砂糖菓子は消へ
温石や何事も丁度がよくて
温石の袋に母の晴着縫ふ
温石に思はず触れるダンテかな
厄年を終へ温石のまだ残る
温石の懐深く思案顔
温石に触るれば心楽しけれ
温石や火が消えるまで歓談す
温石や往き交う人の急ぎ足
熱気球降りて温石重きかな
生れたての温石少しなだめけり
温石や鐘はおそらく永平寺
子沢山温石に足寄せ合いし
仏壇の奥に温石ひかりけり
温石を懐にまた旅人に
温石を父祖辿るごとはらわたに
温石が肩腰膝で競いあい
温石の冷えて孤高の石となる
温石や一夜あければ重石に
シベリアの温石父と復員す
温石の火傷痕だと笑う祖父
ポケットに白金懐炉ゴッホ展