きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「とろろ汁」__金曜俳句への投句一覧
(10月28日号掲載=2016年9月30日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2016年10月28日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
『週刊金曜日』の購入方法はこちらです

amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。

予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。

【とろろ汁】
とろろ汁商う店の古めきて
お替りの声次々にとろろ汁
とろろ汁啜るくちびる今日の愚痴
寺社めぐりとろろ汁にて切上げぬ
すり鉢をつかみ母見しとろろ汁
コンビニのとろろ蕎麦にも薫りあり
母の出す至上の馳走とろろ汁
好きなれど吾子まだ言へぬとろろ汁
背を見せてとろろ汁吸う男あり
とろろ汁長さ誇りし祖父の笑み
若き日の夢は革命とろろ汁
縫跡の目立つ腹へととろろ汁
裏山はもうまつ暗やとろろ汁
とろろ汁寿命の伸びる粘りっ気
とろろ汁卓袱台の距離懐かしく
競ひ合ひてはらからの膳とろろ汁
すり鉢に添える手小さきとろろ汁
母が盛る心思いしとろろ汁
一之間の虎のふすま絵とろろ汁
それだけで馳走になりてとろろ汁
甘辛も苦さもなくてとろろ汁
出番待つ楽屋の忠治とろろ汁
自信なき己を笑うとろろ汁
男達皆なとろろ汁所望せり
股座にしゃくれすりこ木とろろ汁
母の味父の味ありとろろ汁
藷蕷汁食後のうつらうつらかな
とろろ汁我老斑の隠れなき
雲間より富士の高嶺やとろろ汁
とろろ汁顔映るかと探しおり
喉越しと痒さの記憶とろろ汁
美しき名の地に在りてとろろ汁
はなむけの一本締やとろろ汁
むらさきを丸く描きてとろろ食う
わが命浅ましきやなとろろ汁
摺粉木に握り艶ありとろろ汁
とろろ汁体のなかを流れ行く
歯を失して寄する身もなくとろろ汁
お玉高く掲げて掬ふとろろ汁
二人とも無口のままにとろろ汁
とろろ擦り言伝とせん夜の卓
国産みの儀式の如くとろろ汁
亡きひとの好みふと思ふとろろ汁
力とは無縁な仕事とろろ汁
正論は負けてばかりやとろろ汁
とろろ汁つくづく人は己が好き
とろろ汁わさびたつぷりすりおろし
獅子鼻も長命も似し麦とろろ
白米を研ぐ水光りとろろ汁
ある時はとろろ汁食べ風と成る
似た顔の夫婦となりてとろろ汁
いも汁に垂らす醤油や恋みくじ
潮風に朽ちし山門とろろ汁
とろゝ汁母の嫌ひし髭を拭き
とろろ汁摺る余命減らすがごとく
旬の味愛を振る舞うとろろ汁
風急に天高くしてとろろ汁
卓上の大擂鉢やとろろ汁
ポスターの目の中に摺るとろろ汁
仮住みの長住みの世やととろ汁
鞠子なるとろろ汁とはかけ離れ
とろろ汁摺るや柱の見えぬ家
記憶いよよ鶏めいてとろろ汁
食細る母に擂りたるとろろ汁
病む友と小さき旅のとろろ汁
灰汁強き人が苦手やとろろ汁
宿坊の膳にとろろと熱き飯
強張りのふとゆるやかにとろろ汁
浮世絵や馬子のかっこむとろろ飯
とろろ汁夕餉の席は熊模様
とろろ汁木星のよく見えている
とろろ汁ひとりに多き嵩なりき
ああ昭和すり鉢すり棒とろろ汁
白き夢ヴィシソワーズやとろろ汁
三杯も食べてしまったとろろ汁
百姓の矜持大事にとろろ汁
とろろ汁痒さ忘れる美味いでき
痒かりし母の手想うとろろ汁
命まで吸い込まんとすとろろ汁
虎とらも川よしも無くとろろ汁
とろろ汁青海苔の青卵の黄
ひややかに喉落ちゆくやとろろ汁
素直さが身体流れるとろろ汁
懐胎の気配濃厚とろろ汁
擦り棒を上げ下げしたるとろろ汁
ふる里の土の香残るとろろ汁
とろろ汁皿少し欠け外へ行く
新妻が一筋こぼすとろろ汁
このために青海苔を買ふとろろ汁
とろろ汁もちて入所の母のもと
何にでもかける麺つゆとろろ汁
黒光りの廊下幾重やとろろ茶屋
溜息をすり抜けてゆくとろろ汁
初めての漱石講座とろろ汁
とろろ汁ひとりの食のわびしかり
鉄骨の日々に高さや麦とろろ
だし割は病にあはせとろろ汁
黙し食ぶ露人ワシコフ麦とろろ
とろろ汁おかわりのさき母は居ず
テレビ今盗塁成攻とろろ汁
とろろ汁七人家族でありし頃
木天蓼の擂粉木を継ぐとろろ汁
前掛けの濡れて色濃きとろろ汁
まだ知らずまりこの宿のとろろ汁
父と子と黙りてすするとろろ汁
退院の母ゆつくりと麦とろろ
山ふたつ越ゆれば生家とろろ飯
麦とろろ傷めし声の深響き
お互ひに音を気遣ふとろろ汁
とろろ汁真白(ましろ)が良きは解るけど
とろろ汁秘伝のたれのあるらしき
母亡きあとの父の長生きとろろ汁
とろろ汁それいっぴんで輝きし
四段目を思い出しつつとろろ汁
とろろ汁擂粉木にぎる小さき手
とろろする亡き祖母と同じ仕種にて
麦とろや村一番の子だくさん
新宿のビル街にいてとろろ汁
シエアハウス予定貼り出しとろろ汁
山々の堂々としてとろろ汁
密約を孕みてをりぬとろろ飯
麦飯のおかわり御免とろろ汁
サーカスの果てて道化のとろろ汁
とろろ汁山ふところの灯の暗し
とろろ汁魚一尾が加えられ
伊万里より唐津が似合うとろろ汁
新米にとろろ汁かけ手を合わす
空腹の胃の腑こそばゆとろろ汁
物質も物体も皆とろろ汁
とろろ汁話す間もなく食ひ終はる
歩くのも食ふのも速しとろろ汁
さっぱりとひげね落としてとろろ汁
擂りすぎし独りの昼のとろろ汁
ひととせを閉じ込めてをりとろろ汁
擂鉢に馴染む擂粉木とろろ汁
とろろ汁腹十三分すすりおり
すり鉢に涙一筋とろろ汁
飯にかけ祖母の手想うとろろ汁
模擬店の最後の客やとろろ汁
山路来て麦とろろあるうれしさよ
とろろ汁啜りて漏れる国訛
麦とろや割り箸口にエトランゼ
諍いし妻と和解のとろろ汁
喉仏どくんと動きとろろ汁
星出づる宇宙の初めとろろ汁
講釈を垂れてから摺るとろろ汁
ごはん粒のど跳ねてゆくとろろ汁
何時もよりうまい夫のとろろ汁
言ひ分は親にも子にもとろろ汁
噛むやうに愛するやうにとろろ汁
啜る音大きさ競ふとろろ汁
とろろ汁海苔と山葵で旨味増し
質草の流るるごとしとろろ汁
とろろ汁遠くの風の音聞けり
新米と楽しむばかりとろろ汁
とろろ汁喉頭に立つ山の香(かが)
白身ごと挟むごとくにとろろ汁
とろろ汁ゆるめになるもそれも良し