きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「吾亦紅」__金曜俳句への投句一覧
(9月30日号掲載=2016年8月31日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2016年9月30日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【吾亦紅】
耳病みて親しくなりし吾亦紅
吾亦紅暮色に溶けむ粒の焦げ
湧き起こる風に吾亦紅の意地
吾亦紅揺れて言いたきことを言ふ
傍らに石積む人や吾亦紅
吾亦紅の朱錆に閉ぢし野の絵巻
野苺を食べて実とする吾亦紅
吾亦紅改札濡らす片思い
群れ咲いて暮れるがよろし吾亦紅
吾亦紅寡黙な父はクリスチャン
吾亦紅浅間にけぶり立つ日かな
吾亦紅終の棲家のありとせば
わかりやすい発した言葉は美辞麗句
吾亦紅朝の小雨の厩だし
畦道に色加えたる吾亦紅
哀しさもやり過ごしてや吾亦紅
宰相にそろそろ倦きし吾亦紅
串団子もつ赤子の手吾亦紅
吾亦紅ピアノ弾くごと指メール
迂回路の曲線あまた吾亦紅
山頭火僧衣に触れなん吾亦紅
吾亦紅かつて遊郭在りし街
揺れるほど風も無き世の吾亦紅
二王子(にのうじ)岳へ行く先々に吾亦紅
石仏や気付かずにあり吾亦紅
わさわさと吾も吾もと吾亦紅
男にも女ごころよ吾亦紅
知らずとも吾亦紅なり人信ず
吾亦紅来るはずもなき人を待つ
家系図のほんの途中の吾亦紅
空青し色に染まらず吾亦紅
吾亦紅沿うがごとくに国境(くにざかい)
退職に貰ひて軽き吾亦紅
自然石の寺の階段吾亦紅
この土地に行きよとばかり吾亦紅
ワレモコウサキマシタソラミテイマス
濃き赤は毒毒しくて吾亦紅
暮際に瑪瑙となりぬ吾亦紅
吾亦紅直ぐに分かればハッピーで
絹糸の光るそのさき吾亦紅
泣き疲れ涙乾きし吾亦紅
湯の宿の花の名の部屋吾亦紅
まん中の子の声聞かず吾亦紅
吾亦紅放り出されて泣いた道
山遠く群青の空吾亦紅
廃線に浮かびし紅や吾亦紅
われわれの代で終はりと吾亦紅
いづこへか吾亦紅の名告げしより
此れは花実なのかと吾亦紅
われもこうスキップごとについて来て
吾亦紅父母に供えし独り言
心中の分け入る野辺や吾亦紅
幼稚園バスを見送る吾亦紅
吾亦紅の粒焦がさるや山の日に
母よりも生きて黄昏吾亦紅
八方に人ゐぬせつな吾亦紅
草笛に浅間揺るゝや吾亦紅
齢数え女怠る吾亦紅
吾亦紅ふるさとひとつのみならず
人知れず女子会に吾亦紅あり
吾亦紅愛し寂しく揺れている
吾亦紅どの先つぽに止まらうか
山ガール初山道の吾亦紅
歳時記の索引の取り吾亦紅
吾亦紅猫覗き込む老眼鏡
背を掻かれ笑みし地蔵や吾亦紅
吾亦紅太き眉毛の子に摘まれ
吾亦紅束ねられなほ広がれり
峠とは風の抜け道吾亦紅
山夕焼微かに揺れて吾亦紅
ペットボトルに挿して持ち来し吾亦紅
無人駅誰の挿したる吾亦紅
吾亦紅納骨堂を仰いでも
セメントの割れ目吾亦紅伸びる
吾亦紅養父かりかり短歌かき
死に順を数へてゐたる吾亦紅
吾亦紅人影消えし別荘地
吾亦紅ぽつりと仔犬見上げたる
吾亦紅腰をかがめて見ておりぬ
夫なれど別れる定め吾亦紅
母のゆく岸の向こうへ吾亦紅
日の暮れて侘しさつのる吾亦紅
パンドラの箱開けて見たし吾亦紅
武蔵野の夕日の幕間吾亦紅
山祇のいたずら吾亦紅の咲く
絵手紙の上級なるや吾亦紅
先祖から子孫へ続く吾亦紅
手庇の影濃く長く吾亦紅
一揆てふ松明のごと吾亦紅
富士重ね宿屋の活けし吾亦紅
空港の空真直ぐなり吾亦紅
風に背を押されつ歩む吾亦紅
吾亦紅彼の地の記憶古りゆけど
一群に離れてありぬ吾亦紅
吾亦紅夜想曲へと風替わり
ひと本を活けてため息吾亦紅
卓上に高原あるや吾亦紅
吾亦紅乗りて左右に揺られたし
喧噪に取り残されて吾亦紅
白壁にj影は音符に吾亦紅
落日に色も消えたり吾亦紅
来し方の思い出数多吾亦紅
傷跡の濃く固まりぬ吾亦紅
吾亦紅挿みし太宰斜陽かな
吾亦紅てんてん点を描きけり
我もこう生きてきたぞよ吾亦紅
宍道湖の朝日の帯と吾亦紅
かんばせの見えて隠れて吾亦紅
花束に少し入れたる吾亦紅
吾亦紅吾もをみなぞ歳経ても
定年の父やつくづく吾亦紅
末つ子の声変はりして吾亦紅
パラセールの恋の名残や吾亦紅
吾亦紅旧姓のままメール打ち
高原にひっそり群れる吾亦紅
吾亦紅同士の会話運ぶ風
手の甲に試す口紅吾亦紅
俗名の読めぬ位牌や吾亦紅
ありなしの卓布の影や吾亦紅
山野行照る日の影や吾亦紅
十字路の北は坂道吾亦紅
不確かな大気にすくと吾亦紅
心音のやがて確かに吾亦紅
吾亦紅インチキオジサンだけの舞ひ
目標の石探しけり吾亦紅
吾亦紅父の乳首(にゅうしゅ)の硬さかな
吾亦紅の眼に移りたる空の色
吾亦紅路地に小さき自転車屋
野菜のせ軽トラが来る吾亦紅
吾亦紅立憲主義に孤高せる
雲の影走る裾野や吾亦紅
むずかしいことは言わない吾亦紅
眩しみてわが老いの恋吾亦紅
志野壺に挿す雨の日の吾亦紅
風の声うなずいてをり吾亦紅
身を任す風のうねりに吾亦紅
吾亦紅一夜でくづれることもあり
魂の音符並びし吾亦紅
本郷に残る下宿屋吾亦紅
ささくれていたなあの頃吾亦紅
吾亦紅路上へ傾ぎ茎折れず
枯れてなお聞こゆる気のす吾亦紅
吾亦紅蝶止まり居て揺れ止まず
寡婦たちの尽きぬ話や吾亦紅
雪の野を知ることも無き吾亦紅
温度差のありてふたりの吾亦紅
雲叩く丈まで少し吾亦紅
湯畑を離るる宿り吾亦紅
吾亦紅水玉探し歩けば岩陰に
友逝けりその品格や吾亦紅
同じ山同じ風見る吾亦紅
気鬱なる日の雨らしく吾亦紅
十分のトイレ休憩吾亦紅
さみしもよたださみしもよ吾亦紅
吾亦紅その地味な色奥ゆかし
亡きひとの息てふ風や吾亦紅
お局の死語となりたる吾亦紅