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兼題「惜春」__金曜俳句への投句一覧(4月29日号掲載=2016年3月31日締切)

櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2016年4月29日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【惜春】
知床の短き春を惜しみけり
畝飾る花も散り終え春惜しむ
惜春のきつと死にたい時がある
惜春や子との和解の見えぬまま
春惜しむ地の階へゆるやかに
たおやかに過ごし暮らして春惜しむ
惜春や一座は荷物まとめをり
手相見の消へし街角春惜しむ
惜春の困つてしまう鯉の口
春惜むそろそろ父の忌の頃と
惜春や行李捨てるに捨てられず
卒業の思い出数多春惜しむ
惜春や約せし友を飲んで待つ
鳥鳴けり膝さすりつつ春惜しむ
春惜しむ時止めたまま父母の墓
惜春の古城柔和な風を受く
惜春や喪章に腕の重きまま
惜春の男点前や茶釜鳴る
惜春や夫婦茶碗に小さき罅
惜春のサドルとペダルと片足と
本籍は見知らぬ遠地春惜しむ
惜春や小さな嘘であと少し
惜春や法事の経の始れり
惜春やマンション群に干すシーツ
惜春の使い切つたるポールペン
潮待ちや古き湊に春惜しむ
春惜しむパステル色のシャツを着て
春惜しむ色褪せ朽ちた花弁採り
惜春や冷めたコーヒー啜る父
春惜しむ音だけ聞こえヘリコプター
弥生尽菩薩の顔の愁ひかな
集落は春惜しむらし鳥の声
便座よりぬくもり去りて春惜しむ
惜春の飛ばずよろめくスズメかな
惜春の情消し難く旅に出ん
春惜しむ青春と言ふ宝物
春惜しむ国に品格ありし頃
通勤に眼鏡曇りて春惜しむ
左手を貴方に預け春惜しむ
春惜しむもゆる紅花身をやつす
惜春や鎌倉の戸の早仕舞
惜春の日輪雲の中流る
万物に命育てし春惜しむ
春惜しむ孫の叫びや泣き声や
惜春の旅右往左往して北へ
春惜しむ国旗傾くオムライス
辻ヶ花晴れ着をたたみ春惜しむ
網棚の信玄餅や春惜しむ
惜春や駅間歩く二つ三つ
惜春に風は岬を越えて来る
惜春の貨物船より手をふりぬ
補聴器も杖も頼らず春惜む
レンゲ草摘み手も知らず春惜しむ
惜春や水仙の葉結われおり
惜春や果てしなき空にな雲なびく
惜春や楽器と立てり女学生
惜春や水ある星に住めばこそ
道なりに瀬音繋がり春惜しむ
行く春とまた見む春を惜しみけり
惜春の残滓のひかる金盥
春惜しみ乙女椿がぽとり落つ
惜春や波音遠き啄木碑
惜春や城址へゆるき坂つづく
旅に出て春惜しむらん茅の家
惜春や起伏生まれる河の音
一湾の真つ平なり春惜しむ
去る人の残り香記憶し惜春
惜春や燐寸擦られる跡しろき
戯れるメジロは来ぬか惜しむ春
春惜しむ恋の行方は儚くて
惜春の紀伊國屋書店ブックカバー
出会いあり別れもありか春惜しむ
毛づくろひして惜春の猫となる
惜春や腹裂かれたる手術台
しのぶれど惜春の情あさからず
卵かけご飯あたたか春惜しむ
惜春の光を散らす河口域
春惜しむ肥大化傾向の腹と
惜春やスプリンクラーの軋む音
スカーフの手洗いもして春惜しむ
雨の音猫の和毛や春惜しむ
惜春の欄干朽ちし朱(あけ)の色
春惜しむ歩く速さで漕ぐペダル
惜春やブラスバンドの音乱れ
惜春の情もて遠き春悼む
三口目のおにぎりぽとと春惜しむ
惜春や飛行機雲のまだ伸びる
春惜しむ幼き顔の君巣立つ
惜春やあると限らぬ翌の空
惜春や祖母に頬寄せ母涙
母泣けり惜春の頃去年のこと
惜春の夕日背にある東西屋
惜春の虫入り琥珀流れ着く
春惜しむ刺したるままの折れ針かな
惜春の犬用骨型ビスケット
童歌ついと途切れて春惜しむ
黒板と大きな窓と春惜しむ
迷いなき飛行機雲や春惜しむ
乗り換えず各駅停車春惜しむ
惜春や新聞に切る足のつめ
惜春の黒々とした木陰かな
到着を告ぐる汽笛や春惜しむ
老いてなお惜春の情濃かりけり
多忙言ふ終電車より春惜しむ
惜春や妻の面影いつまでも
肘まくら遺影の父と春惜しむ
春惜しむ間に熱湯をこぼす夜
掌で包む頬のほてりや春惜しむ
惜春や飛行機よりも列車旅
惜春の鳥啼きゆくを眺めをり
また妻に叱られたくて春惜しむ
惜春や本に飛び出すアリスいて
押しピンの余る教室春惜しむ
春惜しむ中味はトロリタコ焼きと
惜春のカーブにカーブ続く道
知らぬ子も乗りてシーソー春惜しむ
笹子いま春惜しむよう高く鳴き
惜春やさいならの後振り返り
噛み痕の残る鉛筆弥生尽
惜春や底の抜けたる伝馬舟
火口湖の水は緑に春惜しむ
春惜しむ掴めぬままに我を過ぐ
湖といふ大地の瞳春惜しむ
島巡る舟の舳先に春惜しむ
斜めさす陽を背に受けて春惜しむ
惜春や街はベージュに染まりをり
惜春や空気の抜けた一輪車
惜春や孫来て帰る劇のごと
惜春や工場は人吐き続け
惜春の色鉛筆の転げ落つ
春惜しみ妻に酌する夕べかな
春惜しむタコ焼き並べ紅ショウガ
春惜しむ今夜はタコ焼き食べ放題
夕餉まで空をみており惜春忌
鶯の江戸屋猫八春惜しむ
惜春やエステサロンのハイヒール
自画像を未完のままに春惜む
惜春や埃降り積むワイン瓶
若き声一列と為り春惜しむ
金平糖口にころがし春惜しむ
春惜しむ円みを増して三上山
惜春や青の字入れてみたき夜半
みちのくの小さき社や春惜しむ
出会いあり別れもありと春惜しむ
春惜しみ友集けるうたげかな
遠くへと行く人の背に春惜しむ
惜春や玻璃に映さば街古色
春惜しむ知らない人に声かける
春惜しむとみに白髪の増えにけり
春惜しむ小川の瀬には陽のはしゃぐ
惜春の線路乗り継ぎ図ること
春惜む行き交う姿君に似て
瀞と瀬を繰り返す川春惜しむ
惜春や妻を想いてひとり酒
惜春や又読み返す『若菜集』
たおやかに過ぎ行く暮し春惜しみ
日差増惜春遠山唯浮遊
惜春や夕餉の緑濃くなりて
惜春や皆過ぎ去れば新あり
惜春や友は来たりて論じ飲む
旅先の傘の音にも春惜しむ
惜春の犬型ロボットの尻尾
春惜しみ鳥の囀静まれり
惜春や海辺のカフェの一人席
春惜しむあと何年の余生哉
消息に君の名ありて春惜しむ
いざ発たむ惜春の旅当て所なく
ひたすらに頭が群れて春惜しむ