きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

ブナ帯からの反撃

 標高1000メートルを超える朝日連峰の山中に突然、“山岳観光道路”が現れる。しかも、道路を行くと唐突に行き止まりとなる――かねてから訪ねてみたいと思っていた現場にたつことができました。ここは、大規模林道「朝日―小国」区間(約64・2km)の一部分です。山形新幹線の赤湯駅から列車で北へ約1時間、そこから車に乗り換え、未舗装の林道を1時間あまり走ってようやくたどりつけます。

 道路が唐突に行き止まりとなるのは、この林道建設が1998年に中止されたからです。一度、動き始めると絶対に止まらないと言われていた国の公共事業が止まった背景には、地元の人たちの粘り強い反対運動と、問題点を広く報道したマスコミの活躍がありました。
むだな公共事業の典型がこの大規模林道なのです。

 地元の白鷹町で86年に自然保護団体、「葉山の自然を守る会」を結成し、中止を求めてきた町職員の原敬一さんによると、この一帯の積雪量は10メートルほどに達し、冬は通行が不可能になります。また、積雪量が6メートルを超えると杉を植林してもうまく育たないという研究結果が出ていたにもかかわらず、大規模林道建設前からこの一帯で植林を進めたそうです。確かに植えられてから30年経っているというのに、高さ5メートルにも達しない杉が散在しているだけです。

 このように林業振興の役にもたたず、環境を破壊すると批判が強い大規模林道は、1969年に発表された新全国総合開発計画で指定された「大規模林業圏」の基幹道路です。全国で32路線が計画されていますが、総延長約2200キロメートルに達する計画のうち、工事中止が決まったのは、この山形県の朝日―小国区間など一部にとどまっているのです。

 このため、6月14、15日に山形県長井市で開かれた第11回大規模林道問題全国集会(葉山の自然を守る会など主催)では、「とっくの昔に中止させなければならない大規模林道の建設が続き、(毎年開かれる)この集会が11回目を迎えたのは、私たちの力がまだまだ足りなかったからだ」(藤原信・宇都宮大学名誉教授)という反省の言葉も出ました。

 10年前とちがって、公共工事を見直すのはすでに当たり前の世論となっています。そして、見直しを阻むカラクリもすでに見えてきました。その一つが、国の補助金制度です。集会で基調講演した田中康夫・長野県知事は、次のように指摘しました。

「国の補助金制度によって県営ダム建設でも県の財政負担は27.5%しかありません。だから、公共事業を進めようとの主張が出てきます。しかし、地元の建設会社には、県負担より少ない工事費の20%しか払われず、80%は県外の大手建設会社に還流しているのです。だからこそ、地方自治体に税源を移し、住民が望む事業を行なうことが大切なのです」

 みちのくのブナ帯に住む人々は、かつて「まつろはぬ民」として大和朝廷に対し命を賭して闘ったといいます。不当な権力に対し反撃の声を挙げ続ける必要を、朝日連峰を眺めながらしみじみと考えました。