きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

回転寿司化するニュース

シジフォスの希望(10)

 かつてに比べてネタも新鮮で安い「回転寿司」を、私もときどき利用するのだが、次から次へとクルクルと運ばれてくるお皿の行列を見ていると、目で見て食欲をそそられるものと本当に食べたいものとが混在し、根が食いしん坊なだけに、まるで養殖ブロイラーになったような気分に陥ることがある。決して回転寿司業界を敵に回そうというのではない。日々垂れ流されるニュースの報じ方について、そのネタの掘り下げ方と「回転」の仕方をめぐり、ある種の深刻な共通性を感じるのである。ニュースが「回転寿司化」していないか。

 道路特定財源や日銀総裁人事が目下のところ国会の焦点となっているが、ついこの間まで新聞・テレビを騒がせた戦争支援ガソリン給油や防衛利権、政治家の事務所費不正などはもはや跡形なく消え去っている。沖縄をめぐる「集団自決」教科書問題や米兵による少女暴行事件、イージス艦の漁船追突事件なども三浦和義・元社長のサイパンでの逮捕・裁判のニュースなどにほとんどかき消された。これだけ「貧困」が問題となっているのに、これだけ医療や福祉の現場が荒廃しているのに、2000億円以上の「思いやり予算」は何の議論もなく契約更新し米軍に献金され、さらに米軍再編に3兆円をも用意するという。

 挙げれば切りがない。中国毒餃子事件もそのうち忘れられていきそうだし、薬害肝炎や「消えた年金」の責任追及もうやむやになりそうだ。5年前にイラク侵略戦争をいち早く支持した首相コイズミの詐欺的な言動も(そのためにつぎ込まれた莫大な税金の中身も)問題にされず、今や「政界再編に動くのか」などと持ち上げるような報じ方を見るにつけ、この国のメディアの犯罪的な底の浅さに唖然とするばかりだ。

 国の根幹を揺るがすような重要なニュースもそうでないものも、コンビニの廃棄弁当でもあるまいし、一定の賞味期限が来ると一様に捨てられ、翌日にはまた新しいパッケージが棚に並ぶ。この国と、広い意味での私たちの暮らしに重大な影響を与える物事の本質が軽んじられ、単に「新鮮で安い」という、つまり目移りする興味本位や事の軽重を取り違えた偽装パッケージによって次から次へと報じられる。私たちの日常における社会や世界に対する認識と判断力は、こうしたニュースによって日々養殖されているのである。 (片岡 伸行)
                                                             (2008年3月15日)