きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

Xデーと広告

 皇太子妃の「ご出産」つまり、おそらくは次の次の皇位継承者の話題でマスコミは過熱寸前だ(注)。今後予想される騒ぎは『週刊新潮』11月22日号によれば「今年後半の話題を完全に独占することになる世紀の大フィーバー」である。

 各メディアは、裏に回れば何日がXデーになるかと予想屋と化している。Xデーともなれば新聞・テレビ・雑誌問わず、特集を組まなければならないからだ。おまけに別冊も売れる。さんざんダンスを踊った米国テロ“バブル”も「終戦ムード」。ワイドショーや女性週刊誌を筆頭に「世継ぎ」報道は絶好のネタとなるに違いない。次は皇太子妃と赤ちゃんの「慶事」で盛り上がり続けることだろう。いずれにせよ大勢は11月中の出産を予定して、新たな“バブル”の特集を用意している。ためている情報が翌日からあふれ出すだろう。

 そうえいば1989年1月の「天皇崩御」のときは、「各社の記者が雨の日も風の日も四六時中皇居にはりつき、給料を上回るほどの残業時間を自慢していた」と当時を知る全国紙記者はあきれる。いつともしれないXデーとはいえ今回はメディアの対応構造が少々違うようだ。

 さて、もちろん出産日を当てるのが本報告の目的ではない。この出来事がいかに企業や経済に影響を与えるかの一端でも知りたいと思った。Xデーに際してどのような企業がどのようなCMを流し、新聞広告をだすのか、ということだ。当日の様子はまだわからないが、あるテレビマンはこう語る。

「まずは、速報で記者会見を入れることになるでしょう。そして事前に用意してあった2時間枠の特別番組をXデーにCMなしで流します。そして翌日にはCMの入った、つまりスポンサーつきの2時間番組を流す予定です。広告大手Dは当日もCMを入れさせてくれと言ってきますが、面倒なのでXデー当日はスポンサーを入れないでしょう。ただ、翌日の特別番組は枠をDが丸ごと買いとって企業に売りさばきたいらしいですけどね」

 実際、自社がスポンサーをしている番組がXデー特別枠で「とぶ」ことを嫌がる企業もある。だが、テロに不況のご時世だ、祝賀CMを流したい企業ももちろん多い。東条英機をヒーローとして描き、歴史を歪めたと批判された戦争賛美映画『プライド 運命の瞬間』のスポンサーとして一部で有名になった東日本ハウス(注2)もその一つだという。結局、局側が難色を示し東日本ハウスの夢は断たれたらしいが。

 そういえば今回の懐妊報道で言えば、4月16日の懐妊の兆候があらわれたときには、育児・マタニティ用品で有名なピジョン(株)がストップ高をつけた。その後、出産が近づく10月くらいから「マタニティ関連銘柄」は値上がりを続けている。コンビなども同じで9月から5割上がっている。出産翌日の株価なども注目したいところだ。

 皇太子妃の「慶事」で思い出すのは1993年6月9日の「ご成婚パレード」だ。このときは、あらかじめ日取りがわかっていたので、新聞・テレビそして広告業界も万全の準備で臨んだだろう。パレードには19万人集まったし、各地で餅つきや花火も上がったというが、今回はどうなるのだろう。

 テレビの検証は難しいので、当時の『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『日経新聞』を見てみよう。テレビCMに関して少しだけ言えば、93年6月9日付『朝日新聞』の小特集「皇室報道」によれば10時4分に始まった「ご成婚の儀」の後、11時8分に「テレビ朝日」で「ご結婚おめでとう」と二重橋をバックにした約20の企業名が並んだCMが流れたという。

 当時の新聞の一面広告で皆勤賞を果たしている企業は兵庫県にある老舗のおかきや「株式会社 播磨屋本店」と「松竹梅」で知られる「宝酒造 株式会社」だ。「播磨屋」に関しては意外な印象を受けたが、かなり真面目なマニュフェストを主人が広告に寄せている。そういえば、私はこちらの「播磨焼き」にかつてはまったことがあった。

 また、おめでたいといえば酒、日本ではやはり日本酒、とういうわけか宝酒造は酒樽を掲げた渡哲也氏を使用し一面広告を出している。

 当時の広告費は定かではないが、現在たとえば『朝日新聞』で第1全面に1回限りの単独出稿で定価4000万円程度。当時の播磨屋のように4紙だけでも1億6000万円。それでも広告主の企業にとっては惜しくはない金額ということだ。新聞では今回はおそらく「新宮さま ご誕生 おめでとうございます」という文句が踊るだろう。

 さて当時に戻って、そのほかの新聞広告を見てみると「6月の花嫁」などブライダル系が目につく。当時、ご成婚に併せて6月9日に結婚をしたカップルは少なからずいるようで、『読売新聞』ではカップルの声を集めて新聞記事の一面を占めている。とはいえ、今回は「11月のマタニティ」へ向け調整するのは結婚より難しいがどうだろう。「新宮さま」の名前にあやかる人が出てくる可能性は十分ありうるが。

 各社のご成婚関連広告占有率を見てみる。

『読売』は15段32ページの合計480段のうち131段がご成婚がらみの広告だった。そして別刷8ページのうち、49段分が同じく広告で合計180段、約30%の占有率。

ほか同様に計算すると『毎日』は31%、『日経』は24%、『朝日』約20%だった。

主要4紙の1週間の記事を検証したリポート「大新聞は何を伝えているのか」(『週刊金曜日』366号、渡邉正裕/著)によれば「新聞に占める広告の比率は53・7%を占める」というから、一昔前はまだましだったといえるのか。

そして、今回も新聞は広告費を稼ぎまくり、ニュースを「とばし」まくるのであった。

そして、おそらく本誌には1ページも広告は載らないだろう。

(注1)皇室典範

皇室典範第1条では「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と規定しているので、現行法では女子の場合なら皇位継承の資格がない。そこで、自民党は今年5月「皇室典範」改正を検討することを表明していた。

(注2)東日本ハウス

岩手県を中心にホテル事業ほか関連事業も手広くてがける。同社創業者である中村功同社会長は、関連会社のひとつ地ビール会社「銀河高原ビール」社長でもあり、「極右」と言われる「青年自由党」党首でもある。中村氏は日本人の誇り(プライド?)を取り戻すために「日の丸・君が代」を重視し、社員教育にはスパルタ方式を施した。また、98年公開の『プライド』は東日本ハウス創業30周年企画であったが、今年にはインドネシア独立戦争時の日本兵の「活躍」を描いた『ムルデカ』(東宝)に資金提供した。

(後記)

ヤマが消える

 先日、ドキュメンタリー映画などを地道に上映し続けている映画館「BOX東中野」(東京都)に『闇を掘る』という北海道の炭鉱のドキュメンタリー映画を観に行った。

 映画は北海道の炭鉱を舞台にじん肺、閉山、リストラ、事故など厳しい話をテーマにしている。だが、登場する炭鉱(ヤマ)のひとびとは不思議とヤマを嫌うことはない。むしろ、ヤマのことを愛おしそうに語る。これは制作者の意図というより、ヤマに関わるものの本音と受けとめたい。かくゆう私も何時の頃かヤマが気になり、閉山を訪ねたり本や写真集を見たりしている。ヤマの持つ空気や生い立ちがなにやらひきつけるのだ。

 映画を観た後、ロビーでたまたま池島炭鉱に勤めていた男性と話す機会があったが、長崎県の池島炭鉱は今月29日の閉山が確定している。また最後の炭鉱である太平洋炭砿(北海道)も来年1月を目途に閉山する方針だという。日本の1つの歴史が終わるということだろう。

 『闇を掘る』は今後、大阪、苫小牧、函館、神戸で上映する予定だそうだ。
(平井康嗣)