きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

マネーロンダリング規制法強化に悩む弁護士

10月×日、日本弁護士連合会(日弁連)のマネーロンダリング(マネロン)規制法の勉強会に出席した。マネロンとは、そのまま言えば違法なカネの洗濯のこと。たとえば、違法行為をする企業の資金をいろいろな会社を経由することできれいなカネにするのがマネーロンダリングだ。ハリウッド映画では、しばしばタックスヘイブン(税金がない、もしくはべらぼうに安い国のこと)のケイマン島に本社を置くあくどい企業などが描かれている。これは、すでに日本でも現実になりつつある話になってきたようだ。

さて、将来的に国際経済取引に国境がなくなればなくなるほど、いろいろな素性の資金が日本にも入ってくる。そうした中で、国際的な経済犯罪も増えていく。それを規制するために、1999年8月に組織的犯罪対策三法案が成立した。これは盗聴法(通信傍受法)が、世間的には有名だったが、三法の一つにはマネロン規制法が含まれていた。一部では盗聴法より問題だという人もいたほど重要な法律である。施行以来、銀行窓口では海外への送金には身分証明書を提示しろだのと、張り紙も増えた。

一方、なぜ今、弁護士の中で議論が出ているかというと、OECDのFATA(金融活動作業部会)などから国際的な圧力が高まっており、規制強化が検討されている。テロ資金の問題も追い風だ。今後は企業が犯罪収益を上げていると疑いをもっただけで、弁護士は当局に通報する義務が課せられかねないのだ(日本ならば金融庁)。どこか一国でも協力しない国が出るとそこが抜け穴にあり、違法なカネが集まってしまうのだ。

ちなみに、どこの企業でも法的な問題を専門家に相談する必要が日常的に発生するので、顧問弁護士を抱えている。金融業が発達しているスイスでは、金融取引をする専門の資格を持つ弁護士がいるほどだ。

そもそも、弁護士は倫理義務を持っているが、それに照らしても違法な行為を通報することはしない。しかし、強硬派はカネの流れに疑いを持つだけで調査して通報しろという。通報の義務化に加えて、調査まで義務化しようとしている。それは、弁護士を当事者の味方の位置づけから、対犯罪対策として裁判所の一部としてとらえようとする位置づけに変えようという立場である。今、非常に大きな転換期にさしかかっている。ただ、そのような強硬論もカナダなど各国の反発を受け、譲歩してきてはいる。とはいえ、日本が抜け穴になることは避けなければならないこともあり、少なからぬ弁護士がある程度はマネロン規制に協力せざるを得ないと思っているようだ。

「自由と正義」を高らかに掲げてきた弁護士という職業が今、瀬戸際に立たされている。
(平井康嗣)