きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

[この国のゆくえ30……透明感のない、2011年の秋]

<北村肇の「多角多面」(49)>

「秋の色」は何色だろう。春ならピンク、夏は黄色、冬は白と、すぐに思い浮かぶ。でも秋の色は難しい。他の季節と違い、透明感がある。雨上がりの朝など、街はすっかり「秋の色」に包まれ、そこには澄み切った世界がある。つまり「無色」なのだ。

 秋はまた「黄昏」にも喩えられる。誕生の春、活動期の夏を終えて訪れる成熟、静寂の季節はまた、老境のとば口でもある。ただ、それは必ずしも、厳寒の冬を控えているという後ろ向きの喩えではない。すべてが活発に動く若い時期は、なかなか澄み切った視線でものを見ることが難しい。さまざまな体験を経て初めて、透明感を身につけることができるのだ。

 だが、成熟したはずのこの国には、なかなか「秋」が訪れない。どんよりとした墨色の雲に覆われているかのようだ。「3.11」から7カ月近くてたって初めて、文部科学省は「福島原発から約45キロ離れた福島県飯舘村を含む同県内6カ所の土壌から、プルトニウム238(半減期88.8年)が検出された」と発表した。事故当初、東電は「プルトニウムは重いので遠くまで飛散することはない」と言っていた。微細な粒子になって風に乗って飛ぶ、いわゆるホットパーティクルの危険性が指摘されていたにもかかわらずだ。

 また、今回の調査ではプルトニウム239(半減期2万4000年)も検出された。しかし事故の影響かどうかは特定できないという。過去の大気圏核実験時に飛来した可能性もあるというのが理由だ。それなら「プルトニウムは重いから遠くに飛ばない」は初めからウソだったと言うことではないか。開いた口がふさがらない。

 政府や東電が、真実を隠蔽したり、事実を歪曲して発表していることはもはや疑いようがない。そんな状態で「事故収束」とか「復興」とか打ち出したところで信用できない。まずは、すべてを包み隠さず明らかにすることだ。そして、「何が間違っていたのか」「誰に責任があるのか」を明確にすべきだ。ことさらに犯人捜しをしようと主張しているわけではない。でも、そこの霧が晴れない限り、真実は見えてこないし、将来に向けての教訓にもならない。

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)問題も一向に透明感がない。この協定は経済に関わることだけではなく、さまざまな規制緩和圧力を伴う。たとえば、GM作物(遺伝子組換え作物)が全面的に解禁される危険性もある。しかし、こうした重要な論点は覆い隠されたままだ。いつにもまして、透明感の欠けた2011年秋。(2011/10/14)