きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「葛切」__金曜俳句への投句一覧
(8月27日号掲載=7月31日締切)

葛切は夏に似つかわしいですね。葛粉に砂糖、湯を加えて練り固めてから、うどんのように細く切り、ゆであげたものです。蜜をつけて食べます。さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2021年8月27日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【葛切】
葛切や母の歪んだ膝思ふ
葛切や口あけたまま母逝けり
葛切や隣の客の江戸言葉
葛切やひと箸ごとの過去の事
葛切や無垢なる時の短くて
語尾伸ばすごと葛切を啜りけり
懸案を片付けほっと葛切りへ
葛切やあまりに透けてゐる眠気
海よりも濃し葛切をのせし皿
葛切りや茶房の梁の太きこと
葛切や肩で風切る恋もなく
葛切や物知り顔に話しをり
竹林へ雨葛切の昏き水
二人して掬う葛切り中々に
どこまでも葛切の空ひろがれり
葛切を掬い損ねて蜜の音
葛切りを急いで食べて寺巡る
葛切とミカド珈琲光り合ふ
葛切や黄粉を零し指で拭く
くずきりや残らず掬い箸をなめ
葛切の太きほそきや三姉妹
葛切を食べませんかと誘われる
寄席はねてまづは葛きり昼下がり
葛切と器と氷透きとほる
とり上げた葛切になお暗い蜜
葛切や食べず嫌ひのをとこの目
葛切をゆで上げ冷ます暑さかな
竹を風きて葛切の日暮かな
葛切や蛸薬師から葭屋町
葛切りのひらひらと嘘一つ吐く
葛切や吉野におはす憤怒像
葛切や泣き疲れたる子のねむり
三十分迷ひし末に葛切に
葛切や風の暮れ行く先斗町
葛切や奈良には古都の水のあり
ギヤマンに出来たての葛切と蜜
葛切りや向かひ合せのぎこちなく
葛切や吉野を抜けし風の色
葛切に蜜たつぷりと旅疲れ
葛切と風をはこびてくれた人
黒蜜をかけて現るくずきりや
新刊を開く葛切後にして
くずきりの行方眩ます切り口よ
葛切や吉野の風はふと止みぬ
葛切にみやこの闇の深さかな
葛切や密教呪文ごとに喉
葛切を若狭箸もて掬いあぐ
葛切の時間は贅沢に過ぎて
葛切や和解せぬまま母逝かす
葛切や白磁器の水の底
葛切りに故国の匂い探す椀
葛切のさらに涼呼ぶ箸使ひ
葛切や俎上に載らぬ片思い
葛切や三代続き婿を取る
頃合いを見て葛切を練り始む
葛切や白ソックスの女学生
葛切に嘘を押し戻されしかな
葛切や磨き込まれし梁太し
葛切を食べて器の軽きかな
葛切や朽ちかけてきて犬矢来
葛切や愛宕山道みちしるべ
葛餅や商家の構へ残す筋
無口なひとと葛切食べるつめたさや
葛切やみなみづいろの雨雫
葛切を食べやはらかき身となりぬ
病みて食む葛切りの椀空遠し
遠き日の葛切にけふ逢ひにゆく
葛切や月裏見たりアルミ椀
葛切やもう合へぬ人と向き合ひて
うらめしく箸を泳がす葛切りや
葛切や吉野土産をひと煮立ち
葛餅の焦げたるところ弾けけり
葛切の香りは海に届きをり
待ち合はせ妻は葛切食べてをり
葛切りや半透明の夢の中
旗めくは幟「くずきり」ひとり旅
葛切りや呉服男子に京女
葛切や朱塗の鳥居走り抜け
仙人も葛切を召す地下喫茶
葛切や乗車時刻に合はせ食ぶ
葛切や信濃は生成色の空
葛切やパトロンとゆく演芸場
葛切やすっとした顔になりたる
葛切や些事といふ名の大事あり
ぺらぺらの葛切きな粉たつぷりと
手にて為す何事もなし葛切や
葛切りや吉野の山の風運び
葛切にたつぷり吸はす山の風
葛切や病院食になきと母
葛切りや黒蜜黒く透き通る
葛切りのぺろんと舌とまぐわいぬ
葛切の甘味処も代替わり
葛切や一念坂は細き路地
葛切りが通り過ぎたる喉仏
葛切や小屋根の上の鍾馗さん
透明の葛切澄みし水の中
葛切や行儀よき子は深爪に
葛切や外明るくて外を見る
葛切や井戸水恋し里の家
葛切や父の目尻のやわらかに
葛切や喪服の友のうつくしき
葛切や鋭きもののひとつに眼
葛切や喉へツルツル奈良吉野
ゲリラ雨避けていつもの葛切を
葛切のガラスに透くや乳の色
風そよぎ暑さ忘れる葛切や
葛切や広さ余して京畳
葛切や浮かれる人が前を過ぐ
葛切や透明感に旨味まし
葛切や順番待ちに惹かれたり
葛切や優等生をやめられず
葛切や眠たきやうな京言葉
葛切や生き方の些事さしおきて
葛切や指切りしたる旧友と
幻燈のお歯黒瞳葛切や
葛切や若い人らと相席に
葛切や金峰山寺の門前に
葛切を塗りの器で八坂前
葛切や女の美しき別れ際
葛切やその眼差しの気高きを
葛切やいたたたたたとたちあがる
葛切や思ひ起こせし絡む蔓
葛切や昼の舞妓の幼顔
葛切を乗せる小皿の蒼さかな
葛切りの蜜捨て難く余りけり
葛切や雨縞小紋柳腰
葛切や箸休めには例のもの
葛切や京はいけずもはんなりと
葛切の少女をみやる野球帽
葛切や琥珀めきたる遅き午後
一椀の葛切りに盛る水と風
葛切や手吹硝子器使ひ込む
店店に葛切を出すところ多し
葛切や予備校時代の店に入る
葛切りの蜜くちびるを奪いおり
葛切や吉野杉なる店造り
葛切りや旅籠の影に迅る足
葛切や奈良の吉野の老夫婦
むっちりと妻楊枝呑み葛切や
葛切の昏きを掬ふ祇園かな
葛切を食べてやさしくなりにけり
葛切や茶店に音も風も無く
葛切を啜つてみても良ひかしら
葛切や結髪の姉はすぐ帰る
葛切のつるりと過ぐる母忌日
葛切のいまもむかしもありません
葛餅の雨とはならぬ薄曇
葛切や大人の恋のたゆたひて
七条へ甘味処へ葛切へ
葛切や昼の芸姑のシャツ姿
葛切や三角関係なき人生
葛切やはびこる葛に抗いて