きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「葛湯(くずゆ)」__金曜俳句への投句一覧
(12月21日号掲載=11月30日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

みなさんは「葛湯」を飲んだことがありますか。葛粉に砂糖と少量の水を入れ、よくかき混ぜながら熱湯を加えた飲み物です。
体を温め、消化も良い冬の飲み物ですが、最近は葛粉の入手が難しいかもしれませんね。奈良県吉野など産地に行くと売っていますよ。

さて、どんな句が寄せられたでしょう。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2018年12月21日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【葛湯】
葛湯吹く口のほくろをぢつとみる
まづ匙をていねいになめたる葛湯
悔恨も嘘も忘れた葛湯かな
陶磁器の匙のやさしき葛湯かな
雨しとど町屋カフェの葛湯かな
思い出をあたたむ親子葛湯かな
葛湯吹く老いの二人の無言かな
真夜中の葛湯ねむれぬ男かな
実家より戻りし妻に練る葛湯
木の匙のなき我が家かな葛湯練る
こんとんを産みの母錬る葛湯かな
薄雲の晴れるがごとく葛湯溶く
釘作る職人ありき葛湯吹く
ふうふうと葛湯をふきて独りの夜
信太より狐出で来よ葛湯の夜
葛湯から母のおもかげうっすらと
嫁ぐ娘に葛湯差し出す母の顔
葛湯溶く納期明朝個人業
うすあまき葛湯にひらく真夜の口
夜の湖に風吹くごとく葛湯ふく
葛湯の者今際の人を包みおり
十分の一の余生や葛湯吹く
喉元に葛湯とろりと流れゆき
夫の笑み優しく憩ふ葛湯かな
六道の悪女に貰ふ葛湯かな
治りさう葛湯つくりてゐるだけで
水仕終へ手にあたたかき葛湯かな
煎餅はハートのかたち葛湯呑む
はふはふと舌でころがす葛湯かな
葛湯溶く風で板戸の軋む夜に
朝の雲あつまりて吹く葛湯かな
晩婚の所望せずとも葛湯かな
「銀の匙」幾度読みしか葛湯とく
十年の思ひ溶かせず葛湯かな
ファックスに届く葛湯のレシピかな
漣の寄せつ戻りつ葛湯吹く
七色のあられ散らせし葛湯かな
葛湯溶く曖昧なるや今日明日
母の練る手のあかぎれや葛湯吹く
頑弟に軽信の癖葛湯吹く
ぼんやりと葛湯に微熱あづけをり
舌に置く肌理細やかな葛湯かな
葛湯など旨き齢となりにけり
葛湯飲む老いたる母は湯気の内
花の香に少し緩めの葛湯かな
便り読む傍の葛湯の冷めしこと
君のキスかぞえるように葛湯とく
葛湯吹き燈は部屋の隅々に
葛湯飲む吾にも少女の頃ありき
葛湯吹く旅の疲れをいやしけり
ふうふうと必ず吹いて葛湯かな
コップ底の汚れ見つめて葛湯かな
葛湯吹く相談ごとのその前に
葛湯して妻の対面に坐ります
休養日どろりと甘き葛湯かな
強がりに疲れし日なり葛湯吹く
葛湯吹く無言のままに通ず仲
ずぶ濡れの鳥と目が合ふ葛湯かな
マルクスを二頁(ページ)読み継ぎ葛湯かな
掌に包む葛湯の温みかな
うそ寒や賴り無き身の葛湯かな
葛湯掻く音の幽けき厨かな
葛湯吹く湯気のむこうはサスペンス
一人居の口さみしさに葛湯かな
あつさりと別れし後の葛湯かな
煩悩を一匙掬う葛湯かな
今朝の夢思ひ出せずに葛湯かな
癌の子の痛み鎮まれ葛湯溶く
妻の愚痴聞き流しつつ葛湯溶く
また何か察せし君と葛湯かな
葛湯吹く今夜の窓の結露かな
けふよりの妻が吹きたる葛湯かな
葛湯にも玉子酒にもあるネット
おいしいと涙目の母葛湯すする
シンガポールへ旅立つ友に葛湯立て
行間の白さ眼に染む葛湯かな
曇天をひとり見上げて葛湯かな
葛湯吹き自虐話の止めどなく
むかしむかし祖父手作りの葛湯飲み
癌などに吾子渡すまじ葛湯溶く
葛湯して夢二の女猫を抱く
ふよふよの葛湯とわれの夜更けかな
葛湯吹きドラマの続き観てをりぬ
夕暮れの有刺鉄線葛湯飲む
透き通る肌もよろしき葛湯かな
吉野より届きし葛湯かぜ見舞い
立ち飲みに疲れて葛湯吹かしけり
教科書を避けて葛湯の置かれけり
室生寺に鹿の声あり葛湯吹く
ひと匙ののちは冷めゆく葛湯かな
扉あきゆつくり葛湯寄つてくる
泣き言も愚痴も溶けゆく葛湯かな
夜を徹し読みたき書あり葛湯溶く
湯の沸きて独り夜中の葛湯かな
このままでいいぢやないかと葛湯かな
効能を告げながら練る葛湯かな
葛湯吹く隣はペアルックの夫婦
割り切りて愚痴聞く役の葛湯かな
大和なる吉野の里の本葛湯
足早に去る母の居て葛湯立つ
出張の夜の葛湯を吹きゐたる
葛湯かくムーンストーンになるやうに
葛湯吹くこころの襞を吹くように
病人扱いするなと母は葛湯すする
澱を混ぜそしらぬ顔で葛湯掻く
あまりにもうすめすぎたるくずゆかな
雑踏の去りし吉野の葛湯かな
葛湯など知らぬと言いし男かな
会社休む冷えて重たき葛湯かな
行平に少し残りし葛湯かな
くず湯てふ母語のやさしややはらかや
葛湯して両手に包むマグカップ
たつぷりの葛湯に会津塗の匙
吉野なる本葛ときて夜を更かす
目を細め葛湯一服至福なり
葛湯吹く青息吐息獣めき
葛湯してユーチューブより三代目
母の手に似てきし葛湯とくうちに
葛湯飲み却つて寝られぬ歴史読む
貧しき日吹き払ふかに葛湯吹く
一匙の煩悩一匙の葛湯
父を忌み母を慕ふ日葛湯飲む
葛湯してマニキュアの剥げ見つめをり
高窓に枝の大揺れ葛湯吹く
葛の湯や香と艶にみな感嘆符
さざなみの一重ばかりの葛湯かな
葛湯せし明治の祖母は町育ち
口の前もう一度吹く葛湯かな
半衿と真反対なる葛湯かな
朝光に葛湯の湯気の平和かな
電報てふものの来さうな葛湯の夜
励ましの言葉ひとこと葛湯かな
鉄瓶の湯を注ぎつつ葛湯かく
永遠の刻の流れと葛湯かな
一心に吹く貌浮かぶ葛湯かな
葛湯飲むわたしはきっと反政府
かき混ぜる匙の重さや葛湯かな
酒呑みし父も喜ぶ葛湯かな
夢叶ふことなく過ぎて葛湯かな
朱き椀に湯気の粒細かき葛湯
葛湯吹く何か一言言ひしこと
武家の出と嘯くをとこ葛湯溶く
北朝に無き風合の葛湯かな
ほかほかと胸温めて葛湯かな
レジ横に葛湯の素やお饅屋さん
葛湯とく蛍光灯の輪を廻し
温かし君のやさしさ葛湯ゆえ
葛湯溶き透けるの待って砂糖入れ
目掻きつつ他人のための葛湯かな
特養のひと匙づつの葛湯かな
俤の花の吉野の葛湯かな
欧風の味もまたよし葛湯かな
淤能碁呂の島ともならず葛湯練る
だま出来ぬ湯加減ありて葛湯練る
阿諛強いる人受け流し葛湯吹く
親ごころ秘めたくず湯の椀並ぶ
葛湯吹き昼の喧嘩を薄めけり