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兼題「朝桜」「夜桜」「夕桜」金曜俳句への投句一覧(4月26日号掲載=3月末締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』4月26日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

(当季雑詠は募集しておりませんが、ここにまとめて掲載します。またいつもは兼題ごとに分けて掲載しますが、時刻による桜の読みわけが課題ですので全句を掲載します)

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【朝桜】
今生の別れとなりぬ朝桜
戸一枚あけて眺むる朝櫻
朝桜むかし隠棲数多あり
封筒より手紙のぞきぬ朝ざくら
朝桜バス待つ人の無表情
山宿の重き空気や朝桜
まだ幹の濡れてをるなり朝桜
朝桜空が蒼すぎはしないか
朝桜見たき通勤回り道
寝台車国境越え朝桜
菜畑から見やぐ里やま朝桜
朝桜海に呼ばれているやうな
朝桜これより先は山路かな
朝桜錦帯五橋渡りけり
向学心静かに燃えて朝桜
海峡に船見えはじめ朝桜
柴犬のお座りしたる朝桜
朝桜眺めて小牧山登る
深呼吸して迫り来る朝桜
朝桜愛でて旅路の終わりとす
露のせて紅こく光る朝桜
新調の背広のくぐる朝桜
揺るるともまだ影持たず朝桜
母の頬風と寄り添う朝桜
鎌倉に名刹多し朝桜
一列に同い年の子朝桜
朝桜ふるさとは伝ありてこそ
崖線の道の小石の濡れて朝桜
幼きは腹をあらはに朝桜
朝桜掠り始発のバス発ちぬ
大和人褒めて思やまぬ朝桜
朝桜見おさめて立つ過疎の里
スクランブルエッグゆるめに朝桜
朝桜毛虫一匹ぶらさがる
制服にましろきリボン朝桜
息をする姿勢の一樹朝桜
朝の色一気に変へて山桜
やつとこさ定年の日の朝桜
寄する波の舟屋の傍に朝桜
朝桜散るは儚き淡さかな
何事もなかつたやうに朝桜
うみどりの来る校庭の朝桜
顔洗う冷たき水や朝桜
聖堂に鍵かけぬこと朝桜
朝桜初回授業のチョークかな
雨の名残の山気に触れぬ朝桜
朝桜無骨の指の繰る聖書
犬連れていつもの散歩朝桜
朝桜芝生に露が残りけり
もう頬杖はつかないと言ふ朝桜
独り占め得たる公園朝桜
朝ざくらキューピー一人砂の中
朝桜ぴんと立ちたる馬の耳
生き死にも須臾の間のこと朝桜
咲くちから老ひて試すや朝桜
朝桜蜘蛛の死骸をまとひつく
トラクターの上から眺む朝桜
幼子の両手広げる朝桜
奥吉野一気に明けて朝桜
朝桜お茶碗一つ欠けちゃった
朝桜駆けれど懸けれど朝桜
教科書に載る朝桜きな臭し
料理ならわりと得意よ朝桜
再会のすぐに打ち解け朝桜
朝櫻稜線遠くありにけり
朝桜露の重みをもてあます
朝桜オープンカフェの白き椅子
朝桜引き返せない道の辺に
朝桜白に黄色に夜色に
早すぎし逝去を聞くや朝桜
公園のラジオ体操朝桜
おさげして妻といふ友朝桜
やわらかき陽差しが包む朝桜
店閉じる寡黙な里の朝桜
朝桜一点物の帯締めて
朝桜ゆふべは過去となりにけり
朝桜ベンチに座る古夫婦
朝桜窓染む宿や二階部屋
朝桜揺るがせ放つティーショット
朝桜吹雪ける中の初出社
誇るべき長寿の村や朝桜
昨晩はお疲れさまと朝桜
校庭に子等の影なく朝桜
その下で仔犬戯れ合ふ朝桜

【夜桜】
夜桜にまた彼の人を探しをり
夜桜や手毬あつめた形して
夜桜や五臓六腑を温めて
風の夜の谷戸の桜の散るまじと
夜桜や城門内に民の酔ふ
夜桜が境界を為す我が心
夜桜震えいつのまにか四月
きらいだよ散る夜桜で浮かぶ彼(ひと)
夜桜や古代史の謎肴にす
夜桜や時代小説読み続く
夜桜の電気工事や父の職
夜桜の向かうに夜の動物園
夜桜や闇の底より人の湧く
夜桜の明るさならむあの辺り
夜桜に色づく灯り桜色
唐傘の踊り出しだる夜の櫻
夜桜や豆腐屋の灯のすでに消ゆ
夜桜の聴いてゐるなり死者の声
櫻の夜横顔ばかり並びけり
夜桜を特攻服の背に散らす
夜桜の影踏む小径小走りに
夜桜の下渡り来る御霊かな
酔眼に夜桜女のごと迫る
夜桜や改札出ればシャッター街
夜櫻の咲ける囁きかへす如
あしたから無職六十歳夜桜
夜桜や隅田公園人の波
夜桜や舳は漆の闇を分く
夜の森駅の夜桜皓々と
残業の我に夜桜母のごと
電脳に人智あらんや夜の桜
夜桜に肌寒くして酒勧む
夜桜に電気の並ぶ岡の上
幻影のふくらんでゆく夜の櫻
夜桜の絡まりていて糸口はどこ
夜桜や丸ノ内線乗っ取られる
夜桜の色して油断ならぬ猫
父と居て夜桜は風素通しに
夜桜やニュータウンのいまむかし
夜桜や名画座前にある脚立
夜桜や湯上がりの襟くつろげる
夜桜のほろ酔い冷ます火縄虫
夜桜に見え隠れする喧嘩人
俳壇の夜桜お七櫂未知子
夜桜の影を跨いで家路かな
夜桜やテレビ鬼平犯科帳
夜桜や風の中から咳はらひ
夜桜や毛氈苔が生えてゐる
夜桜や酒種あんぱん屋が閉まる
あやしくも胸内のさわぐ夜の櫻
身の内の不埒浮き立つ夜桜へ
おんぶして夜桜見たや孫二十才(はたち)
夜の桜合祀拒否者の魂に
夜桜や枯れ枝には灯の届かざる
夜桜や数多行き交ふ屋形船
夜桜の下鉄棒を一回転
夜桜や切能果てし深き闇
夜桜や塾帰りの児はしやぎをり
夜桜や靴音のみな異なりて
夜桜や迷うことなき灘の酒
夜桜や五線紙めくる指長く
夜桜に抱かれ石灯籠密か
夜桜は終りゴミ持つ人の波
宣伝のぼんぼり見つつ花見つつ
我が問ひに答へなかりし桜の夜
夜桜といふ立ち方になる一本
夜桜や一枚のコート取りあえり
夜桜はほとんど白きうすくれない
夜桜や熱い男女のお二人が
夜桜やベンチに酔漢ひとりなり
夜桜や池に映えるや人の波
夜桜の向こうに黒く動物園
夜桜やサクスファン吹く少女ゐて
夜桜を旅の心の連れ歩く
公園のベンチ夜桜一人占め
夜桜や缶酎ハイの泡の音

【夕桜】
城山に人多きかな夕桜
夕桜退社時間のふとそろう
夕桜空気がひどく濃密で
東京はけふで終はりや夕桜
一葉の棲みし菊坂夕桜
翌年に亡き此の夕桜散りぬ
勤続四十二年定年退職夕桜
霊園へ曲がる三叉路夕桜
ひとひらの行方知れざる夕桜
夕桜始まる前にデパートへ
山宿の迎へは白き夕桜
夕桜ぐんぐん街が消えてゆく
夕桜酔いの黄昏鴇羽色
夕桜光の当たる二三本
七分咲き眺める人や夕桜
夕ざくら太宰の入水せしあたり
借景にチェロのお返し夕桜
うたた寝の夕に及びて桜かな
淡き山和む黄昏夕桜
夕桜二階の庇隠しけり
図書館に本は返せず夕桜
艶消しの夕桜なほ艶やかに
LED未だ馴染めぬ夕桜
鬼泣いて缶蹴り終わる夕桜
夕桜鯉の安らぐ影つくる
小公園一刻の賑わい夕桜
山国を暮れかねさせる夕桜
夕桜北の新地の女たち
ゆるゆると雨中の煙夕桜
場所取りの男がひとり夕桜
母でなく妻でもない日夕桜
夕桜ももくり三年かき八年
太き幹樹齢あらはに夕桜
夕桜ピザ屋ほわほわ光りおり
夕桜山に明かりの点りけり
ごはごはと書紙畳まれて夕桜
夕桜山うつすらと紅く燃へ
かたまりて虚空に昇る夕桜
鳩は飛び同じ位置来る夕桜
人の息犬の息して夕ざくら
レースに手飛び立つ鳩や夕桜
夕桜携帯ゲームする子かな
夕桜児あやす揺れのやや早く
山遥か淡い黄昏夕桜
蝋石の欠片落つ道夕桜
潜りより覗く美童や夕桜
夕ざくら水面に窪みある如し
夕桜むかしの川を隠しをり
夕桜孤り校庭に球蹴る子
問ひ重しもだして仰ぐ夕桜
山並みを掠めて雨の夕桜
大和人詠みて詩やまぬ夕桜
夕桜一斉につく家路かな
濃き紅に染め直されて夕桜
辻々の人の笑顔や花の暮
酒のまだぬるき屋台や夕桜
琴糸を責むる高音や夕桜
夕桜矢切りを渡る櫓ぎ舟
失恋の遠き思い出夕桜
百段の尽きて城跡夕桜
ひらひらと鳶の飛びゐる夕桜
夕桜観光バスの人の波

【(不明)】
昼桜眩しすぎる教会の鐘
桜満つ抱えきれない程の闇
古びたる水や岸辺の昼櫻
昼櫻岸へ沖へと散りにける
その先に写楽の視線江戸桜
惜春や音なく花の散りしきる
桜満つ婚礼の歌高らかに
懐石と変わりし麺包(パン)を抱く春朝(あさ)
里桜枝越しに見るマイホーム
ずいどうを抜けて鮮やか山桜
汗ばめば尾根駆け上がる花吹雪