きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「炭」__金曜俳句への投句一覧
(11月29日号掲載=10月31日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2019年11月29日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

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【炭】
花炭やあえかな吐息聞きしとき
炭赤しテントも要らぬ星の夜
全休符並ぶ五線譜炭赫し
知らぬ国知らぬ料理の炭火かな
口惜しくて火箸で炭火弄ぶ
消炭に魚の脂つきしまま
消炭に塔の影濃き夕べかな
炭継ぐや明日は受験日母寡黙
問いかけに言葉濁して炭をつぐ
炭つぐや父シベリアのことぼそり
炭を継ぐ火箸の先に揺れる情
ありし日の炭つぐ母の叱咤かな
俵開けカリンコリンと炭の音
炭火受け顔だけ火照り脚重ね
炭をつぐ父の無骨なふとき指
崩れたる音して炭の硬さかな
馬引きし女も炭を背負いけり
源家とは名乗れぬ源氏鞍馬炭
炭籠や深き手のしわ親しめり
重なりて濃淡広ぐ炭火かな
備長炭まづはその音を確かむる
かんかんと鳴らし火起こす備長炭
更けし夜の眠気を誘う炭の灰
番屋の灯低く点して炭を継ぐ
亡き叔母の逸話は尽きず炭白し
風呂の炭置場所変はり本置ける
ステンレス製品の上に炭置かれ
金色の火の粉あげたる炭火かな
仄赤く燃えたる炭に手を翳す
消し炭や一役終えて壺の中
ラジオから神話の学び炭火吹く
炭を挽くはじめて炭を焼くをとこ
埋火や温き燗酌む義兄弟
里山の炭の香守る煙かな
直売所添へし炭火の熾し方
花炭の炭色の奥の花の色
少しづつ炎の赤に炭をつぐ
疎開先母が背負った炭三俵
炭組みて儀式始まるやうな午後
売炭翁思ふ夜寒の膝を抱く
煩悩を燃やし尽くせと熾る炭
炭熾す下に縄文人眠る
炭俵山と積まれて空気清む
茶会なり炭あつらえて客の座に
黒き炭二度目は白く焼けて完
打ち鳴らす面ふと晴れて炭を継ぐ
炭つぐや妻の寝息の美しく
天寿まだ尽きぬ炭火に炭をつぐ
火消壺アルミホイルで補修せり
床の間に炭を飾りて清き部屋
今さらの懺悔なんぞと炭くづる
炭の香を焼べつぐ風の恋歌かな
教科書で習はぬ炭の軽さかな
ひとひとり広間ひっそり冷えた炭
猪口を持つ手を変へ炭を継ぎにけり
昼暗き炭屋の納屋のかくれんぼ
母の炭行き所なく眠りおり
断末魔じゃじゅじゅじゅじゅじゅうと炭に消え
南蛮人形焼きし陶工炭をつぐ
海渡るマングローブの炭俵
炭詰めし澄み切る音のおうまどき
炭尽きてついに彼女の手を握る
炉で爆ぜる炭赤々と香り立つ
言葉など要らずたがひに炭つげば
息吹く毎に炭火怒る怒る怒る
炭ついで封せぬ手紙ありにけり
炭焚いて山小屋軽い煙だし
やつと着くゲストハウスに炭明し
うづみ火やつなぐ手闇に見失ふ
炭火一途街の風景焼き鳥屋
炭で炭打てばあかるき音に割れ
砕かれて炭はアンパンマンになる
炭消えて天井のねずみ眠り入る
大和路は炭火ストーブ棲むところ
真夜中に炭を継ぎ足す女将かな
雨樋を雨流れたる炭火かな
交番に届けられたる炭俵
炭足して炉を囲みけり喪屋の客
「そいがんね」「ほう、そいがかね」と炭をつぐ
火の色は心の叫び炭はぜる
星の夜の炭火親しくかをるなり
炭をつぐ手元危うき里の母
炭つぐやゆったり動く水墨画
特上の肉へ打ちたる炭の音
妖精の首うす黒く炭火かな
旅先の厠で出逢ふ炭二本
弟が生まれし知らせ炭を焚く
埋火や母の妬心の恐ろしき
消壺のほのあたたかく炭寝入る
よき炭の灰もとどめず燃えにけり
走り炭父と息子の諍う夜
炭をつぐ村の名守る覚悟なる
拍子木のごと炭打てば清き音
深夜の火事の消へて現る炭の杭
炭割つて二畳一間に西東
俯きて諦めといふ炭をつぐ
馬描いて炭売る女にほめらるる
寡黙といふ巧者な口説き炭爆ぜる
備長炭落ちるたれの香吉祥寺
炭に風奪はれさうな齢かな
探し出す炭火に強き鋳物鍋
炭背負う馬引く女山下り来
堅炭で柝頭打ちて夜は果てり
焼きし炭もつて帰るといふ少女
防災に七輪練炭捨てず置く
うつむきて炭つぐ母の眼に涙
焔の揺れて浮かんで揺れて炭の上
うづみ火は消えて欲しいと思つてゐる
埋火へ心の澱の流れ出づ
炭小屋の隅に煤けしトムソーヤ
炭売れて晴れ晴れ笑う女かな
旅先の厠で出逢ふ隅の炭
炭をつぐ母の手慣れし火箸かな
炭足して自慢話の聞き役に
炭の香の暗がりでしかせぬ不思議
戯れに炭起こしけり母の声
菊炭を焼きて和泉も奥深し
炭団行火(たどんあんか)配る母の手陽の匂ふ
泥炭の炎と匂ひ目が痛く
炭つぐや玻璃器の豆を食らひつつ
木炭を載せし木炭バス来けり
炭寄せて路地を詠みたる人のこと
火吹き竹這い蹲って炭起し
館長の訛り途切れて炭跳ぬる
炭小屋の小さき言ひ合ひ列の過ぐ
もてなしの炭の弾ける音細し
炭の火が祖母との記憶を回帰させ
もう一度同じこと言ふ燻炭
麓からカレーの匂ひ炭ぞ挽く
炭の香や祖父母健やかなりし頃
炭火照る炎の赤さ遠き恋
炭挽きし顔に前歯の白さ哉
割炭や百枚の火の舌を出す
炭の火を見つめて居れば回心し
物置に久し一袋母の炭
枝炭のかたち崩さず白く果つ
跳ね炭の睡り覚まさる温さかな
かざす手やのぞく顔さす炭火かな
炭と炭叩いて焚べる焼鳥屋
炭触りその手触りを記憶する
埋火を執念く弄る火箸かな
炭の香の部屋にほのかに女の香
炭はぜる渥美清がラジオより
熾りたる炭の赤きを怖るる児
燃ゆる炭色鮮やかに爆ぜて散る
徹夜して炭は無言で白い灰
人間はみんな混血炭煌々
炭売りの馬も女も今は見ず
炭の香を知らぬ子に炭熾しやる
炭挽かば屠らる際の牛の声
炭ついでついでに見合い話かな
母がゐてまだ父もゐて炭熾す
熾る炭おおと宿屋に異国人
燻したる炭を砕きて埋めたり
深更や炭折る音の響くなり