きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

◆エセ強者に負けるわけにはいかない◆

<北村肇の「多角多面」(108)>
 暗澹、混迷、絶望……新年になると決まって後ろ向きの言葉が頭をよぎる。そして、自分を激励する。あきらめるな、前を向け、進め! いつからこんなことになったのか。それすら、もう忘れた。

 でも、今年はかなり違う。細胞のひとつひとつにやる気の炎が宿っている。何しろ、例を見ないタカ派政権とそれをささえるいくつかの政党が国会を牛耳っているのだ。放っておいたらこの国は「茶色の朝」を迎えることになる。ここで声をあげずにいつあげるのか。

 正念場の戦いで勝利するためには、まず「敵」を知らなくてはならない。とともに、「敵」に一票を入れた有権者の心の中をのぞかなくてはならない。カギになる言葉は「衰弱」だ。

 安倍晋三、石原慎太郎、橋下徹の三氏に共通するのは「強さ」と言われる。小泉純一郎氏もそうだった。猪瀬直樹氏も同類か。もちろん、彼らの「強さ」は見せかけだ。そして実は、ニセモノだからこそ多くの市民にうけたのである。

 年代、性別を問わず現代人の多くは衰弱している。心が疲れたときは、イライラするし誰かにあたりたくなる。精神的疲労に追い込まれるとつい怒鳴ったり叫んだりしてしまう経験はだれもがもっているだろう。しかし、とことん衰弱するとその気力さえも失われる。そんなときにエセ強者の言葉が内面に届いてしまうのだ。

 石原氏らの特徴は「自分で考えろ」と言わないことだ。「気に入らないヤツをオレがやっつけてやる。黙ってついて来い」と叫ぶだけだ。弱り切った人にはそれが心地よく響く。真の強者、つまりやさしさと人権感覚を持ち合わせた人間は、一方的に「引き上げてあげる」とは言わない。自分で考え、自分の足で立ち上がれるように支え、見守り、言葉を掛ける。残念なことに、そうした姿勢は「偉そうなエリート」と見られがちだ。まともな言葉はときとして、うざったい対象になる。これは私自身の反省でもある。正論を述べるばかりで、本当に弱った人への寄り添いがかけていたのではないかと。

 ではどうしたらいいのだろう。一つ提案したい。気力がある人は、身の回りの衰弱した人々の手を握ろう。肩を抱こう。そして、その温かみで凍えきった心がぬくみ始めたら、「一緒に歩きませんか。あの明かりを目指して」と囁こう。血の通わないまがまがしい言葉に勝つには、人間らしいおだやかな鼓動と体温が一番だ。まどろっこしいかもしれない。でも、ささやかな実践こそ大きな力を生む。(2013/1/11)

都知事選の選択――「やさしさ」なのか「つよさ」なのか

<北村肇の「多角多面」(104)>
「やさしさ」と「つよさ」のたたかい。29日告示された東京都知事選をそうとらえてみる。石原慎太郎前知事は常に「つよさ」を全面に掲げた。あえて解説するまでもなく、本当の「つよさ」ではない。だが、困ったことにこの戦略は功を奏してしまった。あれだけの暴言、放言を連発しながら高い支持率を保ったのは、傍若無人ぶりを「つよさ」に見せかける戦略があたったからだ。

「やさしさ」で思い出すのは美濃部亮吉氏だ。1967年から3期の都知事時代、老人医療費無料化や高齢住民の都営交通無料化といった福祉政策を次々と実践、絶大な人気を誇った。だが、都財政が悪化するにつれ、「バラマキ政策のつけだ」と激しい批判にさらされた。確かに財政悪化は事実だ。しかしオイルショックという避けられない要因もあった。それより何より、「やさしさの政策」を実現するために収支バランスをとるのが官僚の仕事。私には、バラマキを可能にするための知恵を出さなかった官僚のサボタージュとして映る。

 民主党政権もまたバラマキ批判の洗礼を受けた。「コンクリートから人へ」という「やさしさ」は財政悪化の前にこなごなに踏みにじられた。ここにも官僚の不作為がある気がしてならない。本格稼働への道筋がまったくたっていない高速増殖炉「もんじゅ」には、1日5千万円の税金が注ぎ込まれている。こうした無駄遣いこそ本当のバラマキだ。「宝の山」はあるはずだ。政権が「この政策は必ず実施する。そのためのカネを生み出せ」と指示すれば、官僚は必ずアイディアを持ってきただろう。要は、足下を見られていたのである。

「つよさ」を打ち出す政党や候補者は、「やさしさ」を訴える候補者に対し「現実味のない政策だ」と攻撃する。それこそ根拠のない中傷だ。皮肉ではなく、都庁の官僚は極めて優秀である。都政の基本理念が「やさしさ」ということになれば、それに即した政策をいくらでも具現化するだろう。

「つよさ」に憧れる有権者の方に言いたい。この国はいま、奴隷制に侵されている。歴史を振り返れば、権力者は、奴隷の中に階級をつくり奴隷同士で反目させることで反乱を抑止した。現代社会の「勝ち組1%」も同じ手を使う。「生活保護をもらってぜいたくしているのは許せない」という風潮など最たるものだ。さらには、「敵」をつくりその「敵」と戦わせることで存在を承認するという手法も変わらない。ただ過去と異なるのはムチを使わないことだ。もっとたくみに情報を使って人々の心に入り込み支配する。人間を駒としか扱わない「つよい人」に従うのか、いのちを尊重する「やさしい人」と一緒に、暮らしやすい街をつくるのか。都知事選は私たちにその選択を迫る。(2012/11/30)

ふってわいた都知事選、これはもう勝つしかないでしょう

<北村肇の「多角多面」(101)>

 いい国なんだろうなあ、日本は。自由で、寛容で。ただし、一部の人間にとってのことだけど。ご存知、石原慎太郎氏などは、その恩恵をまるごと受けている一人。びっくりしましたよ。任期途中で東京都知事を辞める理由は「もうちょっと大事で大きな仕事をしようとしている」とか。会見で「放り出すのか」と聞かれると、「放り出すわけじゃない。東京のために国政でいいことをやらなくちゃいけないと思っている。そういう質問が出てくること自体が心外だな」ときた。第三極の結集で100議席を目指すそうだ。ここまで有権者をバカにした発言も珍しい。さらには、そのことに新聞やテレビが烈火の如く怒らなかったのも、まか不思議だ。なぜかマスメディアはこの人に寛容である。

 こんなに言いたい放題、やりたい放題の都知事は初めてだ。“意地悪ばあさん”の青島幸男氏でさえ、知事就任後は別人のようにおとなしかった。もっとも、青島氏の場合はもっと暴れてもらったほうがよかった。結局、都市博をつぶしただけで、後は「らしさ」がなく、都庁官僚のいいなり。庶民感覚を都政に活かしてくれるのではないかと淡い期待を持っていただけに、大いに不満を感じた。

 石原氏に話しを戻そう。首長になれば少しは行儀がよくなるかと思ったら、とんでもない。相も変わらず、暴言のオンパレード。政策面でも、築地移転、新銀行東京設立、オリンピック誘致ときて、最後は尖閣諸島の都有化。まさに、しっちゃかめっちゃか。橋下徹氏が大阪府知事に就任したとき、江戸っ子にはほろ苦いギャグがはやった。「さすがに大阪」と揶揄された大阪府民が「石原知事の都民に言われたくない」と切り返す――。

 さて、こんな愚痴を繰り返していても事態は好転しない。せっかく、都知事選がふってわいてきたのだ。今度こそ、「江戸の親分はこんなに凄いぞ」と胸を張ってみたい。時間はない。でも、それはそれで好都合。およそカネには縁のない市民が自分たちの候補者を立て、勝つためには、なるべく選挙期間の短いほうがいいからだ。

 そもそも、今回の都知事選はいままでとは違う。「原発反対」を掲げた個人(特定の組織や団体に属さないという意味で)が、数万人、あるいは十万人規模で官邸前に集まった。多くの識者や文化人が「革命」と評価した。従来の価値観や社会構造の大転換につながる可能性がそこに見えるからだ。このような「力」や「熱」が選挙に影響しないわけはない。青島氏が当選した時以上の驚きが永田町や霞ヶ関を走る――。はっきりした根拠はない。だが、私にはその様子が目に浮かぶ。批判しか思いつかない石原氏だが、この機会をくれたことに対しては言っておこう。「ありがとう」と。(2012/11/9)

石原都知事の名指し攻撃になぜかおとなしい『朝日新聞』

                                         
 石原慎太郎・東京都知事の記者会見の内容を、東京都のホームページが「正確に反映していない」ことを前回のブログ「石原都知事の発言を正確に伝えない東京都ホームページの不思議」で指摘しました。

 南京大虐殺めぐって石原都知事は、「昔、本多勝一ってバカがいたんだよ、『朝日新聞』の」と2月24日の会見で話しているのですが、都のホームページにある「都知事の部屋」(http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/index.htm)では、「昔、本多勝一(ジャーナリスト)というやつがいたんだよ」となっている問題です。

 この発言に続けて石原都知事は次のように話しています。
「結局、彼は最後に修正したけど、南京の占領の間だけで40万の人を殺せるわけがない」

 小誌連載「貧困なる精神――石原慎太郎東京都知事に訂正・謝罪を求める」で本多勝一編集委員が指摘しているように、本多編集委員は『朝日記者』時代もその後も「40万人説」を唱えたことはありません。そして、唱えていないのだから、もちろん「修正した」こともありません。

 では、当の朝日新聞社はこの石原都知事の「ウソ」発言についてどのように考えているのでしょうか。そこで下記の質問状を朝日新聞社に送りました。

(ここから引用)
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「南京大虐殺」について石原都知事が次のような発言をしています。

「昔、本多勝一ってバカがいたんだよ、『朝日新聞』の。結局彼は最後に修正したけどね。あんな南京占領の間に40万人を殺せるわけはないんだ」(2月24日)、
「彼の論では40万人もの虐殺という数字が論拠がないものだからね」、(本多氏は人数を書いていないという指摘に)「『朝日』も書いて、あちこちで書いている」(3月2日)。
 
  そこで次のことをお聞きします。

1)本多勝一氏の記事(見解)、もしくは別の朝日新聞記者の記事(見解)として、いわゆる「南京大虐殺」の死者(犠牲者)が40万人とする記事を掲載したことがありますか。

2)いわゆる「南京大虐殺」の死者数についてはどのような掲載をしていますか。

3)『朝日新聞』が犠牲者数を40万人とする記事を掲載していないとすれば、石原都知事の記者会見での発言は事実と異なると考えてよろしいでしょうか。

4)都知事の記者会見はインターネットやテレビなどで生中継され、また録画視聴が可能です。石原都知事の発言が「虚偽」だとしたら、訂正の申し入れなど貴社としてなんらかの対応を取られるお考えはありますか。また、すでになんらかの対応を取られている場合は、その内容をお教え下さい。
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(引用ここまで)

 続いて朝日新聞社広報部からの回答を掲載します。

(ここから引用)
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 いただいたご質問の「1」から「4」についてまとめてお答えします。

 南京事件での死者数について、朝日新聞はこれまで、様々な説があることを報じてきました。なお、お尋ねの件に限らず、個々の記者会見の内容について、紙面などで報じる以外に論評することは差し控えます。

回答は以上です。よろしくお願いいたします。
                               草々
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(引用ここまで)

 では『朝日新聞』は、今回の石原発言をどのように「紙面などで報じ」ているのでしょうか。私がさがした範囲では2月25日(土)の第3社会面に2段見出しで次のように報道している1本(写真参照)だけでした。河村たかし名古屋市長発言とその波紋については詳報し、3月8日には社説「河村市長発言 日中の大局を忘れるな」を掲載しているのと比べ、極端に扱いが少ないようにみえます。では、その記事の内容を見てみましょう。

(ここから引用)
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河村市長の南京発言、石原都知事「正しい」

 東京都の石原慎太郎知事は24日の会見で、名古屋市の河村たかし市長が南京虐殺を否定する発言をしたことについて「正しい。彼を弁護したい」と述べた。

 石原知事は、南京陥落の数日後に現地に入った評論家らから聞いた話として、「死体はあったけど、山と積むような死体は見たことがなかった」と指摘。「相手も無抵抗に近かっただろうけど、あれだけの(旧日本軍の)装備、期間で40万の人を物理的に絶対殺せっこない」と話した。

 石原知事は衆院議員時代の90年に米誌のインタビューで南京虐殺を「中国人が作り上げたうそだ」と発言している。
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(引用ここまで)

 いやぁ、驚きました。善意に解釈すると「南京大虐殺があったことを前提としているので石原発言の紹介だけでよい」と考えているのかもしれませんが、『朝日新聞』が攻撃されているのに、あまりにも及び腰だと感じるのは私だけでしょうか。

石原都知事の発言を正確に伝えない東京都ホームページの不思議

記者会見する石原慎太郎都知事
記者会見する石原慎太郎都知事

 石原慎太郎・東京都知事の記者会見は原則として毎週金曜日午後3時から都庁の会見場で開かれます。会見はインターネットで生中継されます。そして都のホームページにある「都知事の部屋」(http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/index.htm)の「過去会見」欄に「録画映像」とそれを”文字起こしした”「テキスト版」が掲載されます。この「テキスト版」が都知事の発言を正確には反映していないことをご存じでしょうか。

 たとえば2012年2月24日の会見。「テキスト版」では南京大虐殺をめぐって下記のような質疑があったと掲載されています。
http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2012/120224.htm


(ここから引用)
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【記者】先日、愛知県の市長が問題発言というか。


【知事】南京ね。あれは、河村(たかし)君の言うことが正しいと思います。色々な問題があるんだけど、昔、本多勝一(ジャーナリスト)というやつがいたんだよ。結局、彼は最後に修正したけど、南京の占領の間だけで40万の人を殺せるわけがない。あの時、陥落した2日後か3日後に、大宅壮一と石川達雄と林芙美子という、代表的な日本の識者が報道班員で入っているんです。林さんは、私はあまり親しくなかった、すれ違いで亡くなっちゃったんだけども、石川達雄というのはどちらかというと反体制的な人でしょう。大宅壮一だって非常に、シビアな評論家でしたよ。この人たちに聞いたら、「死体はあったけれど、山と積むような死体なんか見たことない。あれはけげんな話だな」と言っていました、彼らの滞在中も。本多君は、広州湾に上陸してから、南京に攻め込むまで40万人、中国側で被害が出たというけど、これもちょっと数字としてまゆつばなんだけど、少なくとも、あれだけの装備しかない日本軍が、敗れて、残った連中だから、無抵抗に近かっただろうけれども、あれだけの期間に40万の人なんて殺せるわけ、絶対にない、物理的に。それだけはっきりしておきたい。ただ、ああいう戦争のどさくさですから、無辜(むこ)な人を殺した数字もあったかもしれない。しかし、それをもって、大虐殺という、その裏打ちで40万人と推算されるのは、私は心外だと思うし、違うと思いますね。さんざん我々は検証してきたんだから。河村というのは、私の後輩で粗暴な男だから、何の根拠があってそう言ったかは知らないけれども、私は、それについては彼を弁護したいね。はい。
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(引用ここまで)


 ところが、「録画映像」では、このようなやりとりなのです。(文字起こしは小誌編集部、違っている主な部分を【】で強調しました)


(ここから引用)
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(前略)昔、本多勝一って【バカ】がいたんだよ、【『朝日新聞』の】。(中略)
【シナ】側で被害が出たと言うけれど(後略)
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(引用ここまで)


 作家の「石川達三」氏が、「石川達雄」になっているのはおそらく単純な間違いでしょう。
 さて、石原都知事発言の問題点については、本多勝一・本誌編集委員が連載「貧困なる精神」で批判を続けているので、ここでは別の問題を取り上げます。
 そもそも都のHPは都知事発言を「正確に記録する」べきではないでしょうか。そこで下記の質問を東京都知事本局に送りました。


(ここから引用)
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1)知事会見の「テキスト版」では、知事の発言を忠実に記録し、公開する必要があるとお考えでしょうか。
2)知事の発言の一部を修正したり、省略したりして「テキスト版」を掲載することは、「都民の知る権利」に応える観点から許されるとお考えでしょうか。
3)「許される」とお考えの場合、どういう事例、どのような理由によって可能なのか具体的にお教え下さい。
4)2月24日の会見で、石原都知事は「昔、本多勝一ってバカがいたんだよ、『朝日新聞』の」「シナ側で被害が出たというけど」と発言されています。これがテキスト版では「昔、本多勝一(ジャーナリスト)というやつがいたんだよ」「中国側で……」となっております。「バカ」を「やつ」に、「シナ」を「中国」に変えた理由と、『朝日新聞』を省略した理由について具体的にお教え下さい。
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(引用ここまで)


 この質問に対する東京都の回答が届いたので以下に全文を公開します。


(ここから引用)
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 定例記者会見については、会見終了後速やかに、会見映像をそのまま東京都ホームページに掲載しております。定例記者会見のテキスト版は、この会見映像に加えて、広く都民の皆様に、会見内容を分かりやすく伝えるため、掲載しているものです。
 その際、文章として読みやすくするため、話し言葉や俗語、一般的でない分かりにくい言葉などについて、文脈を損なわない範囲内で、文言修正や補足説明を行っております。
 また、特定の会社・団体等に何らかの影響を及ぼすことが想定される恐れがある場合、文脈を損なわない範囲内で、具体的な会社名・団体名を削除しております。
 お尋ねの2月24日の会見分についても、同様の考え方に基づき、文言修正等を行っております。
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(引用ここまで)


 つまり、「バカ」「朝日新聞」「シナ」という石原都知事の発言は、東京都によると、「話し言葉や俗語、一般的でない分かりにくい言葉」であるか、「特定の会社・団体等に何らかの影響を及ぼすことが想定される恐れがある」ので「文言修正」した、ということなのでしょうね。石原都知事発言を東京都職員がどのように判断しているかが浮かび上がったのではないでしょうか。

[この国のゆくえ37……勝者・橋下徹氏はいずれポイ捨てされる。問題はその後だ]

<北村肇の「多角多面」(56)>

 大阪知事選・市長選の結果に、多くの知人からいつもながらの愚痴を聞かされた。「ノックを知事にする大阪だからなあ。いやいや、東京も石原慎太郎だった。日本は終わりだ!」。その気分、よくわかる。でも、愚痴っていただけでは何も始まらない。まずは、冷静に現状を分析する必要がある。

 橋下徹氏はタレント弁護士、平松邦夫氏は元民放アナウンサー。一部のメディアは選挙前から「タレント同士の争い」と評していた。そうした一面はある。しかし、かつてNHKの宮田輝氏が浮動票をごっそり獲得したころとは意味が違う。橋下氏の最大の勝因は「テレビで有名だった」ことではない。小泉純一郎元首相のときから続いている、「既得権ぶっ壊し」路線をさらに先鋭化したことで圧勝劇は生まれたのだ。

 これまでの常識からすると、民主党、自民党が手を結べば、首長選での敗退はありえない。今回も普通に戦っていればこれほどの差は付かなかったはずだ。ところが、既成政党は、「既得権ぶっ壊し」への恐怖から、橋下氏に「強者」の幻影を見てしまった。そのため、表面的には共産党までが同じ船に乗り、水面下では一部の国会議員が橋下氏に接触するという“ねじれ”が生じた。言うまでもなく、来たる総選挙のほうが首長選より大事と考えた議員は、大阪維新の会との全面対決を避けたかったのだ。

 公明党が自主投票にしたのも、衆議院選挙を視野に入れていたからだろう。つまり、有権者の「既存政党離れ」におたおたした各政党は、「橋下氏に勝ってはほしくない。でも、敵に回したくない」と腰が定まらなかった。それでなくとも閉塞状況が続く中で変化を求めている市民が、ふらつく既存政党に魅力を感じるはずがない。

 選挙前に橋下氏の出自をめぐる醜聞が週刊誌を賑わした。結果的には橋下氏の票を増やしたのではないか。「生まれたときには人生が決まっている」社会への怒りが充満している中では、橋下氏が貶められるたびに共感が生まれていく。「独裁を許すな」キャンペーンも逆の風を吹かせた。独裁的な政治が好ましいはずはない。だが、独裁をほしいままにしてきたのは与党や経済界である。その反省もなしに橋下氏をなじっても上滑りするだけだ。

 勝者・橋下氏は、小泉氏と同様、幻影の「強者」、幻影の「弱者の味方」である。現実を動かす具体的政策や将来展望を持っているわけではない。いずれまた有権者にポイ捨てされるだろう。その先にある「深化したニヒリズム」にどう対処するのか。これこそが、すべての市民・国民に課せられた、とんでもなく重い課題である。(2011/12/2)

[この国のゆくえ7…最悪だった都知事選。でも戦いが終わったわけではない]

<北村肇の「多角多面」(26)>
 どさくさ紛れの東京都知事選。選挙運動も自粛とあっては、現職有利に働くのは当然。世紀の後出しジャンケン、しかも「天罰発言」で批判を受けた石原慎太郎知事がゆうゆうと当選した。最悪の結果! だが、あきらめることはない。まだまだ勝負の場面はある。石原知事のこと、いずれ“舌禍事件”が起きるだろう。新銀行東京、築地市場の移転、東京五輪誘致に続く“とんでも政策”も出てくるだろう。その時こそ「リコール」運動だ。勝算はある。

 今回、石原知事の得票数は261万余票。これに対し、東国原英夫、渡辺美樹、小池晃氏の合計得票は332万余票。過去の選挙のような圧勝ではない。そもそも投票率は57.8%だから、石原氏を支持した有権者は4人に1人にすぎない。

 投票日直前のブログやツイッターをみていて、ある“事実”に気づいた。かなりの人が「石原氏には投票したくない。でも、誰に入れていいかわからない」と嘆いていたのだ。つまり、有力三候補に投票した人や棄権した人の中には、「石原氏だけは嫌」という人が相当程度、いたのだろう。

 新聞社の出口調査によると、中高年以上に石原氏支持が多く、若い世代では「反石原氏」の傾向が強かった。インターネット上の言説も含めて考えると、この国の未来を背負う人々の多くは、すでに、「石原知事」に愛想をつかしているのだ。

 石原氏に投票した人々に、あえて問いたい。これほど、「弱い立場」の人を蔑ろにし、彼ら、彼女らの痛みに鈍感な人を尊敬できるのですか。社会的、世間的しがらみを抜きに、この知事を心から支持できるのですか。

 実は、1年以上前から、都知事選に市民代表候補を立てるべく、何人かで集まり議論してきた。最終的には力不足で実現できなかったが、「ぜひ都知事にしたい」と思える人に出会うことができた。この“成果”は大きな意味を持つ。私は、最悪の結果を前にしても絶望はしていない。

 見せかけの強いリーダーは、もういらない。芯は強く、しかし心根はやさしい。そして、常に弱い立場の人に寄り添う。こういう知事が必要なのだ。東北大震災の被災者の痛みを感じとる「想像力」をもち、命を最優先にする都市づくりの「創造力」をもつ。必ずや訪れるだろう「リコール」までに、そんな候補者を探そう。(2011/4/15)

東京都青少年健全育成条例の改正案について

改正案、旧改正案との比較表 (提供/渋井哲也さん)

ライターの渋井哲也さんから、都条例改正案の比較表を送っていただいたので掲載します。

内容については今後精査しますが、渋井さんとも「前回の改正案よりもひどくなっている」ことで一致しました。とりいそぎ、資料としてブログに掲載することを最優先します。かすれて読みづらいところもありますが、ご容赦を。今後とも問題点の分析、批判に尽力したいと思います。

「非実在青少年」を規制する東京都条例改正案

三月一五日、東京都庁で開かれた反対記者会見には里中満智子、ちばてつや、永井豪、竹宮恵子の各氏(右から)など著名漫画家が出席した。(撮影/平井康嗣・編集部)

3月15日、東京都庁で開かれた反対記者会見には里中満智子、ちばてつや、永井豪、竹宮恵子の各氏(右から)など著名漫画家が出席した。(撮影/平井康嗣・編集部)

 アニメやマンガ、ゲームなどに登場する18歳未満のキャラクターを「非実在青少年」として、性的描写などの内容によっては不健全図書に指定し、青少年への販売・閲覧を禁じる「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(青少年育成条例)改正案が東京都議会で審議されています。

『週刊金曜日』では3月19日発売号のメディア欄で、条例案の問題点を取り上げます。が、都議会総務委員会ので採決も19日の予定。そこで、記事を執筆したライターの山崎龍さんが、第一線で活躍するクリエイターの方々4人に取材した結果を、このブログで先行公開します。

 ぜひ、お読みいただき、一緒に反対の声をあげましょう。

(さらに…)

東京 = ヘッジファンド新銀行東京、國本衛さんの葬式に全生園

最新号の3月28日号は400億円の追加出資をした「石原銀行」こと新銀行東京を特集した。

この一件では新銀行東京側が融資先リストなどを開示せず、各報道機関は四苦八苦して信用機関などを駆使して、どぶ板をしていたようだ。
その密室性と巨額の資金運用から、モルガン出身の大久保勉議員(民主党)など金融通は新銀行東京のことを「ヘッジファンド東京」「オフショアファンド東京」と揶揄する。

(さらに…)