兼題「手袋」__金曜俳句への投句一覧
(1月26日号掲載=1月4日締切)
2018年1月19日5:32PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2018年1月26日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【手袋】
困憊は脱ぎし手套の方に濃く
手袋の一指は空を指して干す
心にも手袋欲しや雨と風
意志失せし片手袋の踏まれをり
鹿革の黒き手袋コルト撃つ
手袋の一方またも遁走す
温もる容五本指の手袋
手袋の握手なにかが欠けてゐる
フレークやシリアル手袋要らないわ
手袋の干物のごとく売られをり
手袋をはづし握手の別れかな
手袋に片あし入れる子猫かな
裸身に革手袋の肌触り
ボロ市や手袋外し捲る古書
手袋を脱ぎて勝利の手を振りぬ
買わなきゃね小さき手袋子にさせて
捜しものけふは手袋片手より
手袋を嵌めて見直す己が指
狛犬のところで手袋を脱ごう
手袋を描き仕上がる貴婦人像
手袋をして握る手と応援歌
新しい手袋はめてさあ散歩
上等な手袋つける手を持たず
おにぎりの火傷を手袋で隠す
片っぽになり手袋の愛おしく
手袋をはめ戻りたる野性かな
手袋はいつもかたっぽ落ちてをり
手袋とともに南へ成田発
手袋の握手の中を読む目元
あたたかや妻の編みたる手袋は
手袋の先より降りる北の駅
新妻の指輪しつくり手袋に
ほっそりと君の手袋美しき
手袋を脱いで服喪といたしけり
フランスの革手袋の品の良さ
ぼろミトン骨無し母のしのびぐさ
筐底にある手袋の真赤かな
シュプレヒコールそっと手袋脱ぎにけり
あの思いすり込まれたる手袋よ
手袋が片方なくて心細
指切りの指大切に手袋に
菓子パンの匂ひ閉じ込め手袋す
遺言のごとく手袋置かれあり
お互いに手袋のまんまで握手
暮れのこる手袋君に強く振る
好きじゃない証拠手袋する女
手袋を嵌めて小さき旅に出ん
手袋の片方落ちている舗道
手袋の左あなたに右わたし
手袋のグー突き上ぐるサッカー場
船長の革手袋の雄弁さ
落ちている横断歩道の手袋
メスを置き手袋外し一礼す
手袋の両手で頬を抑えけり
気忙しの朝手袋も支度せり
どちらかと言えば右の手袋落とします
手袋の人形芝居泣き止ます
手袋の幾つもありていつも素手
いにしへのぼっこ手袋ほっこりこ
手袋の小指の穴も細きかな
手袋をとつて着席映画館
手袋を脱ぎて記帳の列にをり
あの椅子に片手袋はまだあるも
伊方止み手袋外して喜びぬ
失くすのが嫌で手袋しない友
虚空をば掴む形に置き手套
手袋を嵌めて執筆抑留記
人招くかたちに手套脱ぎ置かる
人妻の手袋を脱ぎ指輪外し
右手だけやもめ手袋空の下
手袋の出てる指先スマホ打つ
手袋や今宵北極星見えず
手袋や喪服の多い六本木
シャッターを下ろし手袋労れり
次々に指の畝立つ手套かな
手袋を脱いでスマホのロック解く
手袋に陽の光ある暗渠かな
手袋の手なら触れてもいいと言ふ
手袋を着用のまま土を掘る
手袋や曲がった小指入れ難し
手袋と手紙郵便受けのなか
手袋の拍手迎へし新任地
文庫本手袋のまま立ち読みす
手袋と言へばオードリーヘップバーン
手袋の赤白黄色登校児
千手観音手袋いくついるのだらう
手袋のまま訃報記事二度三度
手袋とよちよち歩く毛糸帽
手袋を嵌めてみる蹼が邪魔
落ちて居る手袋ラメがきらきらし
手袋の指揮者消防音楽隊
皸の指を包みし軍手かな
手袋は毛糸がいいね君の編む
手袋をはずさぬ方は義手らしと
感動と手袋越しの拍手かな
手袋の十指始発のベルを拭く
不思議なり軍手一束安過ぎる
手袋や忘れて鉄橋渡りけり
手袋をロクブテと言わせる帰り途
食ひ倒れみたく片方の手袋
軍手はめ乾いた木々に川の水
手袋をするにも痛み腱鞘炎
フルーレの白き手袋蝶の如
手袋のかすれた痕はあの時の
あたらしき手袋の香の強さかな
手袋を落とした場所は知つてゐる
手袋の縒れて吊革きしみけり
生け垣に失せし手袋掛けられし
二種三種手袋比べ自己史見る
手袋を編むイニシャルを色換えて
手袋が大事に握る銅貨かな
手袋をはめて行きなと母の声
はじめての革手袋に袴立てる
遅かれ早かれ手袋落とす男かな
手袋に脱ぎ取られたる指輪かな
手袋を外して探す地図の寺
手袋を咄嗟に咥え押すシャッター
キーパーの大手袋や息白し
手袋で拭いきれずに涙落つ
手袋に獣性隠しいたりけり
横着をせず手袋を外しなば
手袋の納まり具合十指組み
手袋の欠かせぬ日々の憂ひかな
手袋を外し別れの握手して
手袋がスナック菓子をひよいと出す
編みかけの手袋に指足りぬまま
署名する手袋の手の交差点
繋がない手袋の手は繋げない
海風を背に手袋を忘れたわ
はめてみた二指ちょうど孫の手袋
手袋に息ふきかけて出勤す
手袋は虚栄の一つ神楽坂
頁繰るたびに手袋脱ぐベンチ
手袋の片方の荷ホテルより
手袋で覆ふ耳たぶ生きてをり
母編みし手袋嬉し学校へ
手袋の指に歯を立て剥がしをり
手甲で俄に婆が甦る
手袋の片方忘れ子の発ちし
手袋を脱ぎて子供ら相撲取る
神の前手袋脱ぎて指輪入れ
手袋の温もり恋ひしおしゃれして
機関手の手袋白し朝まだき
手袋の路上に忘らるる形
手袋や着用忘れただ走る
おそろいの手袋してた幼の日
たくましきゴム手袋や魚市場
手袋を噛んでコインを数へをり
黒い下着に黒い手袋の妻
手袋の手を繋ぎいる初デート
手袋を逃げ出すみくじ〆てやる
手袋の穴それぞれに闇がある
手袋を脱ぎ良妻に戻りけり
手袋や指夫々の住み心地
手袋を互みに脱いで別れけり
漁解禁まづは手袋確とつけ
手袋のうぶ毛に息の結露する
手袋の手に握られし温さかな
手袋に雪の結晶そっと受け
手袋の片方外すコップ酒
手袋を嵌め鷹揚に構へけり
手袋そつと脱ぎやつと繋ぎたり
手袋を外すもとよりなき指輪
手袋を口に咥えて施錠解く
金曜日手袋かじかむバスを待つ
手袋の五人家族の指人形
森ビルの壺に手袋脱ぐきもち
艶かし絹手袋の主は誰ぞ
ご褒美を手袋の手に乗せてやる
熱燗の注文やうやう脱ぐ手套
手袋の手をぬっと出す馬券口
手袋を脱ぎて撫づるや御賓頭盧
手袋の革軋ませて祈りけり
客死てふ理想手袋羽根ひろふ
手袋やマネキンは五指天に向け
焼けこげし幾手袋や窯の前
手袋をかたえに立喰い蕎麦屋かな
懐かしや手袋無しのあの時よ
車待つ手袋のまま寄せる土
サーブルの白き手袋一振す
手袋を脱いではじめる懺悔なり
手袋の仕舞処を忘れけり