週刊金曜日 編集後記

1581号

▼8月13日、国旗損壊処罰法が施行された。10日、首相官邸前で行なわれた「『国旗損壊罪』を笑い飛ばせ!萎縮なんかしないぞ 官邸前アクション」で東京都立学校の元教員、根津公子さんが、7月17日に国会で成立したことから「17日行動」を提案。行動では「損壊に近いかもしれない行為」を続けることで、法の問題点をあぶり出したい考えだ。根津さんは「日の丸・君が代」が強制された「10・23通達」で教員が萎縮して学校でモノが言えなくなったことをあげ、その先に「子どもたちを戦場に行かせることになる」と訴える。今後も根津さんに注目していきたい。

 今号では諫早湾干拓事業と海苔不作を取り上げた。記事に登場した、有明海の海苔を扱う東京・合羽橋の「ぬま田海苔」を訪ねると「どういうタイプが好みですか?」。食べ比べてみると、口に入れた途端にとける海苔やパリッと歯切れがよいもの、青海苔の風味......。違いがあるがみんなおいしい。店には漁場の場所と等級がそのまま商品名となった海苔が何種類も。海苔畑の地図を示し、「森の栄養をこの川が運んで」「潮の流れがあるからここは豊か」などと説明。現場を熟知しているから出てくる言葉だろう。海苔で巻いたおにぎり、言うことなし!(吉田亮子)

▼戦争に関するテレビ番組が多く放送されるなか、NHKハートネットTV「戦後80年 生死を分かつ"塀"~精神障害者たちの戦争~」(昨年8月の再放送)は心に残った。作家の向井承子さんが、大戦中に姿を消した従姉の「その後」を追ったドキュメンタリーだ。

 従姉は満州で親と死別し、向井さんの家族が引き取った。当時、5歳だった向井さんは一回りほど年の離れた従姉を慕っていた。従姉は心の病を抱えていたが、「不思議の世界に誘ってくれる妖精のような存在だった」と回想する。従姉は東京で空襲が激化したころ、病状が悪化したとの理由で精神科病院に入院。二度と帰らなかった。

 番組で向井さんが調べていくと、従姉が入院していた病院では戦争末期、食糧事情の悪化で、患者が深刻な飢餓状態にあったことが分かった。病院職員は当時、厚生省などの役人に掛け合ったが、「完全な人でも三食たべられないのだから、そういうところの人は、まあご遠慮願うほか仕方がありません」と、無下に断られたという。

「戦力」という物差しでしか人の価値を測れなかった戦時下の社会の「貧しさ」に暗澹たる気持ちになったが、今、私たちがそうした偏見から完全に抜け出せているのか考えると心許ない。(平畑玄洋)

▼ニュージーランド議会で英語を公用語とする法案が可決されたことが8月初旬に報じられて驚いた。同国の公用語と規定されているのはマオリ語とニュージーランド手話で、ここに英語を加える内容だが、英語は2023年時点で同国国民の95%以上が使用しており、法制化しても実務上何も変わらない。緑の党の議員が「時間の無駄」と批判したのもうなずける。

 マオリ語が公用語になったのは、かつて先住民であるマオリの人々の言葉が奪われた歴史があるからだが、そういう背景を無視して法案を推進したのは、連立政権に参画する右派のニュージーランド・ファースト党だ。23年の総選挙で中道右派・国民党が第一党になり連立政権を組むときに、英語を法律上の公用語とすることが条件として盛りこまれたとか。

 立法の必要性を裏付ける現在の事例もないのに数の力で可決された国旗損壊処罰法や、自民と維新の「連立の条件」だからと成立させた副首都法とそっくりだ。

 いま世界の振り子は大きく右に振れている。各国の選挙の結果ではあるが、それでもここまで無理を通しまくり道理が引っ込む政治にうんざりしている市民も世界中にいるはず。市民の力で振り子を戻そう。というか戻せる力を持っているのは市民だけだ。(宮本有紀)