週刊金曜日 編集後記

1575号

▼その実態に批判は多々あれど、4年周期でやってくるW杯や五輪は、その時々の記憶を思い起こさせてくれるよい機会ではある。

 日韓W杯開幕直前の2002年5月、たまさか知己を得た某民族派右翼団体構成員のAさんより、「警察に追われてまして、しばし身を隠します!」と連絡が。W杯終了後の夏にはお会いできたので尋ねると、四国へ逃げるついでに「お遍路さんに行きました」そうで「88カ所回るつもりでしたが、(団体から)『早く帰ってこい。すぐ出られるから』って言われて戻ってパクられました。(巡礼は)20カ所で終わっちゃいました!」。

 そういえば同じ団体のお仲間であるBさんは元気ですかと聞くと「は! Bは今日、判決です!」。「は?」と意味を測りかねて問い返したところによると、BさんはW杯で来日したロシア代表チームに「北方領土返還」を訴えようと宿舎を訪ね、そこにいた公安警官に逮捕された後、起訴までされてしまったらしい。「まあ、これもそうかからずに戻ってきますよ」と、Aさんはなお屈託なく笑う。

 その実態に批判は多々あり、私とは思想的かつ政治的スタンスも真逆な党派の一員なれど、個人的には大好きだなと感じたお二人、今頃どうしてるかな。(岩本太郎)

▼今年3月にリニューアルオープンした東京の三省堂書店神田神保町本店に行った時のこと。オープンしたてでもあったせいか、記念商品を売っていました。有名カステラ店とのコラボカステラが印象的でした(買わなかったけど)。3階にはオシャレなカフェもあり、本を買った後に、カフェでゆっくり読むのもいいなと感じた次第です。

 2026年3月31日現在、全国の書店店舗数は1万店を割り9993店舗です(日本出版インフラセンター書店マスタ管理センター)。一方、帝国データバンクによると、25年1~5月の書店の倒産件数は1件。前年同期の11件から大幅減少しています。書店なりにさまざまな努力をしているからだという分析です。実際、カフェの併設や文具・雑貨の販売など、単に本を売るだけでなく、さまざまな企業努力がなされています。三省堂でも文具や雑貨コーナーが充実していました。

『朝日新聞』6月25日付にも、本屋がひとつもない「無書店自治体」が増える中、なんとかしようとする試みを紹介する記事が掲載されています。たとえば島根県大田市では、市の財政支援を受けて、2年ぶりに本屋が復活したそうです。こうした動きが広がってほしいと思います。(文聖姫)

▼書庫を整理していたら、俳優の山口崇さんからの封書が出てきました。2015年に東京・深川江戸資料館小劇場で開催された「長唄 織音会」(山口さんの長女、杵屋巳織さんが主宰)の公演に出席したことへのお礼の手紙でした。

 織音会の20周年記念演奏会で山口さんも長唄・三味線奏者、杵屋巳楓として出演。家元、杵屋淨貢師が歌舞伎座を抜け出して観に来てくれたこと、師から「唄、小鼓など鳴物とのからみを良く考えた。撥がいいところに当たっていた」と褒められたことなどが綴られていました。

 山口さんは、日中戦争で父親の正芳さんを亡くされています。1938年晩秋、正芳さんは志願し、少尉・小隊長としてすぐに中国に派遣され転戦の後、41年春、江西省矢園梅で戦死。山口さんが4歳のときでした。父親の死について、「人生の折り目ごとに、トゲのような痛みを私に与え続けていた」という山口さんは後年、中国の激戦の地を歩きますが、「トゲぬきの旅、を試みたが解決には至らなかった」(『神戸新聞』「わが心の自叙伝」より)と述べています。山口さんが死去されて1年3カ月ほどがたとうとしていますが、心の空洞は埋まりません。「言葉の広場」8月のテーマは「戦争と平和」です。(秋山晴康)