週刊金曜日 編集後記

1541号

▼たまたま見たフェイスブックの投稿に苦笑。左にアウトドア製品を売る「ワークマン」、中央にスーパーの「ライフ」。そして右に運動靴の「ニューバランス」ショップ。そこに「高市早苗氏のワークライフバランスって、この事。......」というコメント。

 高市氏が就任直後に発した「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます」を皮肉ったものだろう(AIで作成?)。支持を訴えるパフォーマンスとしてこのフレーズを使ったことのツケはいつか高市氏に返ってくるに違いない。だが、それ以前に社会に与える影響を考えると空恐ろしくなる。

 3回連続でハンセン病回復者が自分の暮らしたい場所に住むことを阻む社会的な障壁について取り上げた。誰もが自分の希望する場所で生きていいはず。誤った隔離政策の影響で、回復者の基本的な権利が阻害されている現状は、第2回で登場された伊波敏男さんの話を聞くまで私は知らなかった。

 政治家が一時的な熱狂を巻き起こすために自分の"人権"を売り渡すような発言をするのがいまの日本社会だ。そのなかでハンディを背負わされた人たちが、基本的な権利を訴えていくことの困難を改めて思った。(小林和子)

▼首相指名選挙がどうなるか微妙な情勢だが、高市早苗氏が自民党総裁になった今、日本初の女性首相が誕生する可能性は大いにある。政治への女性進出が非常に遅れている日本にとって本来なら喜ばしいことだが、それが高市氏ではまったく嬉しくない。氏は婚外子相続差別規定の撤廃に反対で、最高裁で違憲判決が出た時には悔しがり、選択的夫婦別姓や同性婚にも強硬に反対し続けている。家父長制的な価値観を唱え、多様性を認めない女性が首相になっても、ジェンダー平等を目指す社会にとって前進とは言えないからだ。

 林香里・東京大学大学院教授は本誌2020年2月14日号で「社会が大きく変わる時って女性(あるいは女性的価値観)によって選ばれた女性がえらくなる時だと思う。男性に選ばれた女性ではなく」と語っている。この論理で言えば「男性に選ばれた女性」である高市氏が首相になっても社会改革は期待できないということだ。それどころか安倍晋三氏の後継を自認しているから、彼女は「『安倍政治』を取り戻す」つもりなのではないか。しかもワークライフバランスを捨てて働きまくるそうだから恐ろしい。「お願いだから働かないで。何もしないで」という友人のLINEに共感の声が飛び交ったのであった。(宮本有紀)

▼愛する広島東洋カープが5位で今シーズンを終えてしまったこの秋、私は週に約15本のラジオ番組を愛聴しています。大貫妙子、大友良英、小山田圭吾、亀井希生、宮藤官九郎、ジム・オルーク、ピーター・バラカン、細野晴臣(敬称略)などなど。さらに、ある新番組が9月29日から開始したことで、ラジオ漬けの日々を過ごしています。その番組名は『ラジオマガジン』。パーソナリティは武田砂鉄さんです。あちこちでひっぱりだこのライターであり、本誌で私が担当する「きんようぶんか」欄でも書評を執筆しています。

 とにかく、砂鉄さんの書評は取り上げる本がユニーク。そして、ちょっと風変わりなその本の魅力を、難しい言葉を使わず丁寧に伝えます。その姿勢はラジオにも表れています。その場を過剰に盛り上げないフラットな語り口ですが、言いたいことは遠慮なく言う。スタジオでもどこでも、サンダルにTシャツで出かけるそうです。

 とはいえ月曜から木曜まで、朝8時から11時半までの長尺だぞ。1日3時間半を週4日って砂鉄さん体もつのか。原稿書く時間あるのか。でも番組かなり面白い。朝からその話題かよ的なサブカル臭が秀逸。聴けば素敵な1日になるので、ぜひお聴きあれ。
(鎌田浩昭)