週刊金曜日 編集後記

1250号

▼東電刑事裁判の東京地裁判決は元経営者3人全員が無罪となりました。にわかには信じがたい判決です。今週号は取り急ぎ、明石昇二郎さんに判決批判を書いていただきましたが、今後、しっかりとした特集を予定しています。
 東電役員らを最初に刑事告発したのは明石さんと作家の広瀬隆さん。2011年7月のことでした。この間の経緯は単行本『刑事告発 東京電力──ルポ福島原発事故』(金曜日、12年)にまとまっています。そして12年6月に福島原発告訴団が東電役員らを福島地検に刑事告訴し、今回の裁判へとつながっていきます。福島原発告訴団の陳述書から50通をよりすぐった『これでも罪を問えないのですか!』も小社から13年9月に発刊しています。
 弊誌9月6日号の判決前記事でも詳述したようにこの刑事裁判を通じて新たな事実が数多く明らかになりました。事故のご遺族や被害者の方々は「これでも罪を問えないのですか」の憤りを深くされたのではないかと思います。裁判所はもちろん、国家権力の一部です。「公平中立」ではありません。おかしな判決にはしっかりとした批判が必要です。(伊田浩之)

▼14日から17日まで、連休を利用してソウルに行った。韓国も秋夕の連休中で帰省している人が多いせいか、ソウルは静かだった。この連休中は日本への旅行を取りやめ、国内旅行を楽しむ人が多いようだと何かで読んだ。日本製品ボイコット運動はどうなっているのだろう。気になってコンビニに立ち寄ったが、キリンビールやサントリーのプレミアムモルツが普通に売られていた。ただ、ソウルの友人に聞くと、日本製品は割引をせずに売っているから、自然と日本製品以外を買うことになるという。地下鉄の駅では「(日本に)行きません、買いません」と呼びかけるプラカードがひっそりと貼られてあるのを見つけた。
 ソウル最大級の書店、教保文庫にも立ち寄った。"嫌日"本はないかと探してみたが、見当たらない。なんとこの書店での1位は自国の反日を批判する『反日種族主義』。日本コーナーを見ると、日本を感情的に攻撃する本ではなく、安倍政権や日本を冷静に分析した本が目立った。いまや韓国民の関心事は曺国。日本で報じられない背景については今号で詳しく伝えている。(文聖姫)

▼10月1日まで、東京・銀座ニコンサロンにて高橋健太郎写真展「赤い帽子」が開催されている。78年前の治安維持法のもとでおきた「生活図画事件」の現存者を取材した写真展だ。本誌9月20日号の写真企画「赤い帽子・生活図画事件」でその内容の一部を紹介したが、文末に記した写真展のインフォメーションで、大きなミスを犯してしまった。この号の発売日の翌日の9月21日に開催された太田愛さんとの記念トークの日付を〈10月21日16時~〉と記してしまったのだ。写真展は10月1日までなので、よくよく見るとおかしいと気がつくのだが、お恥ずかしい限りです。校了直前の赤入れで、急遽突っ込んだもので、責任はすべて編集担当にあります。
 2017年に成立した「テロ等準備罪」は、「現代の治安維持法」とも言われる。写真展では現存者の写真とともに当時の写真も展示されている。かつて不当に逮捕され、何も語れず、無念のまま亡くなった数多の人たちがいた。その歴史的事実は消せない。(本田政昭)

▼台風15号による千葉県大規模停電で経産省に取材をしたが、被害拡大の要因に担当者は開口一番、「東電の見込みの甘さ」を挙げた。そして菅官房長官は、9月20日の会見で、「災害の規模、被害の状況などを総合的に勘案し、最も適切な態勢を構築し」たと述べた。国は最適な対応をしたが、東電や千葉県の対応に不備があったため、これほど甚大な被害が出たということだろうか。相変わらずの国の無責任体質には閉口するばかりだ。最適だったということは、今後、同じような災害が起こった時も同じような対応をするということだ。これ以上はない。安倍政権にとって優先されるべきは、人命よりも内閣改造の新人事であり、消費税増税なのだろう。
 千葉県では、熱中症で亡くなったかたもいるし、未だに停電で苦しむひともいる。災害は現在進行形だ。なによりも早期のライフラインの復旧が求められる。国は、防災の司令塔にあたる防災担当政務官に、今井絵理子氏を指名したが、欲しいのはその「SPEED」ではなく、あらゆる危機に迅速かつ的確に対応できる「スピード」だ。(尹史承)