週刊金曜日 編集後記

1462号

▼「Oh my God!」。伊東英朗監督が撮ったドキュメンタリー映画『放射線を浴びたX年後3 サイレント フォールアウト』を見た米国人が、繰り返し驚きの声を上げたという。米ネバダ州での核実験によってプルーム(放射能汚染の雲)が米国の全土を覆っていく映像が、上映会で流れた時だ。しかも驚嘆の声を上げたのはハーバード大学で放射線を研究する専門家だったという。

 プルームが大陸を覆っていく映像は、伊東監督が米国の機密文書をもとに制作したものだ。「アメリカで暮らす健康リスクは相当に高いのですが、みんな関心がないために知らないんです」。本誌2月23日号に掲載された監督インタビューで聞いた話だ。さらに伊東監督は気象庁気象研究所のデータをもとに「日本(の放射能汚染)はもっとひどい」と釘を刺す。

 1970年ごろまでは米国と旧ソ連の核実験、80年代までは中国の核実験の影響。86年にはチェルノブイリ原発事故があった。そして2011年には東京電力福島第一原発事故が起きた。間もなく事故から13年の3月11日。改めて核の問題を考えたい。(平畑玄洋)

▼最近、内向きの話ばかりでくさっていたが、久々にうれしい情報を知った。第8回横浜トリエンナーレが3月15日(金)~6月9日(日)、「野草:いま、ここで生きてる」をテーマに、横浜美術館などで開催される。そこで富山妙子さん(1921~2021年)の作品が50点近く展示されるというのだ。

 第1回日本アンデパンダン展に展示した『廃墟』という作品から始まり、炭鉱、光州、蛭子と傀儡子、フクシマから最後の作品まで、各シリーズから代表作や未発表作を数点展示する。国際展の枠組みで、バリエーション豊かな異なるシリーズが一堂に会する貴重な展示という。

 富山さんの逝去にあたっては、追悼文を朝鮮美術文化研究の古川美佳さんに寄稿いただいたが、古川さんには今週号で山口泉さんと洪成潭さんの対談をめぐる原稿「『人間が美しくある』ために」を執筆いただいている。この3人の方は08年のヤスクニをめぐる企画で、富山さんとご一緒していると聞く。巡り合わせの妙に、なんだかこころが浮き立つ。(小林和子)

▼引っ越しを終え、それまで住んでいた部屋の引き渡しに備え掃除をしました。この部屋で5匹の猫を看取りました。室内には引っ掻き傷や汚れジミがあり、「これは誰の仕業かな?」と猫たちを思い浮かべながら雑巾を動かしました。

 一目瞭然だったのが長女猫の痕跡。大病を患い、医師から「助からないだろう」と宣告される中、胃瘻造設や輸血を行ない、なんとか一命をとりとめました。その後5年、生を永らえましたが、術後はよだれと目やにに苦しみました。口中の違和感からかブルルと頭を振ると、よだれが飛び散ります。それが、天井まで届いていました。

 ある調査では、人間の生涯移動回数は4回強だそうです。葛飾北斎の93回には到底及びませんが、今回の引っ越しで14回になり、これで最後かとも思っています。

 3月は東日本大震災から13年。東京電力福島第一原発事故で不本意な転居を余儀なくされ、いまだ故郷に戻れない人は昨年11月時点でも約2万7000人にのぼります。「言葉の広場」3月のテーマは「地震」です。ご投稿をお待ちしています。(秋山晴康)

▼昨年11月2日の創刊記念大集会のDVDを制作するために、当日の映像を繰り返し視聴することになった。当初は「同じものを何度も見るのはつらいな。これもお仕事」と思った。それが見るたびにぐいぐい引き込まれていった。

 言葉のインパクトが、徐々に増していくのだ。とりわけ印象的だったのは、武富士が言論封殺の訴訟を乱発した時、最初に訴えたのが『週刊金曜日』だったという宇都宮健児さんの報告。映画を作る時、自身の独立性を担保するために出資は受けないという想田和弘さんのポリシー。私たちは本多勝一氏から受け取ったものを、50年間そのままにしてきたという崔善愛さんの問題意識、などだ。編集委員のみなさんのひとつひとつの言葉が、何度も聞くことで心にささってきた。

 活字は読み返すことができるが、話し言葉は一度聞くだけでは右の耳から左の耳に流れていく。繰り返し聞くことで新たな気づきがあるのだなあ、と感じた。これは貴重なDVDになるのではないかと思い始めている。制作工程は最終段階に入っています。もう少しお時間をいただきます。(円谷英夫)