週刊金曜日 編集後記

1467号

▼原発は長期間運転すれば老朽化する。このため、東京電力福島第一原発の事故を踏まえ、運転期間を「原則40年、最長60年」とルールを定めていた。民主党政権下の2012年、野党だった自民党も賛成し、原子炉等規制法を改正したのだ。だが、原発を最大限活用する方針を岸田文雄首相が22年8月に打ち出し、運転期間の延長などを検討するよう指示。23年5月、60年超の運転も可能にする法律を成立させた。原則40年の枠組みのまま、延長時に安全審査などに伴う停止期間を除外できるとした。

 この「40年超原発」に当たる福井県内の関西電力美浜原発3号機について地元住民らが運転の差し止めを求めた仮処分申請で、福井地裁(加藤靖裁判長)は3月29日、運転を認める決定を出した。住民側弁護団は「膨大な機器や配管の老朽化に伴う劣化状況を全て把握することはおよそ困難であるにもかかわらず、代表となる機器を選別し、グループ化した上で評価をするという債務者(関西電力)側の手法について、安易に合理的であると判断している」と批判した。福島事故を忘れたかのような振る舞いは不信を招く。(伊田浩之)

▼本誌3月8日号のアンテナ欄で掲載した記事〈卒業式「『君が代』歌いたくない」京都の親子が文科省へ〉を同月15日にYahoo!で配信したところ、29日現在8379件のコメントが付いている。記事は、昨春の自身の卒・入学式で「君が代」を歌わなかった現中学生が「日の丸・君が代」の強制をしないよう文科省に申し入れたことを取り上げたもので、親子に誹謗中傷が殺到した。

 筆者であるルポライターの永尾俊彦さんは、「『日の丸・君が代』の歴史が教えられていない事実を証明している」と分析。コメントで目立った「めんどくさい親子」というフレーズについては、「批判する人は『めんどくさい』。無意識のうちに、権力に服従する心理を内面化している」とも話す。

 1999年の国旗国歌法制定時に政府は、「国民に新たな義務を課すものではない」と強制を否定した。しかし、その後東京で2003年に、大阪では11年に通達や条例で教師らに強制。そして今は生徒にもそれが及び、「民意」という形で強制が浸透した。なし崩し的に「強制」が拡大したことに怒りを感じている。(吉田亮子)

▼大阪・関西万博の開催地、大阪の舞洲には、オーストリアの建築家、フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーさん設計による「大阪広域環境施設組合舞洲工場」と「舞洲スラッジセンター」があります。フンデルトヴァッサーさんは「自然界に人工的な直線はない」との考えのもと、曲線を用いた独特の建築で知られる人です。建物は外観も色彩もユニーク。舞洲はフンデルトヴァッサー建築を見られる貴重なスポットです。

 数年前、フンデルトヴァッサー建築のことを知り、見学に行ったのでした(清掃工場は予約制で見学可能)。建物を取り囲む木々はうっそうとしていて、職員さんは「自然のままにしておいてほしい」というフンデルトヴァッサーさんの考えを尊重して、手を入れていないと教えてくれました。建物もまわりの環境も、一緒に年を重ねていくのです。当時、「税金の無駄遣い」と批判されているとのことで心配でしたが、万博で舞洲が騒がれるようになって調べたところ、健在でした。よかったー。このような文化の保存にこそお金を使ってほしいです。(渡辺妙子)

▼ほぼ毎晩銭湯に行く。家に風呂はあるが、仕事上がりのつかれた身体を休ませるには大きな湯船で足を伸ばして寛ぐのが一番だ。

 東京・中野区の拙宅から徒歩15分圏内には今も銭湯が4軒ある。同じ圏内では過去20年ぐらいの間に書店が10軒以上潰れており、今では書店より銭湯のほうが多い。私が通う1軒は毎日深夜の1時半(金曜の夜は3時)まで営業し、かつ併設のサウナが1回100円で利用できる(しかも1回の利用ごとに次回無料券をもらえる)ということで、近隣の安アパートの居住者らで毎晩大賑わい。湯船やサウナ室では独り住まいの高齢者やお笑い芸人予備軍、AV制作者、首筋から足首まで青々とした彫物を施した青年等々と隣り合うが、雑誌編集者は私だけのようだ。

 が、この銭湯の隠れた主は猫。近所の地域猫らしいが、常に勝手に脱衣場まで上がり込み、ソファや足拭きマットの上で何もせず、無愛想な目つきで退廃的に佇む。以前「お前、やる気あるのか」と聞いたら「無ゃい」と答えた(←嘘)。かくして東京・中野の夜は平和に更ける。(岩本太郎)