週刊金曜日 編集後記

1050号

▼子どもの頃、よく父親と釣りをした。天候や潮の流れを読み、ポイントめがけて投げ込んでは魚を釣り上げる父の姿に心躍った。
 自分にはそんな記憶があるのだと、先日、辺見庸さんに話してみたら、そうかあ、と言うように表情を少し緩めたものの、次の言葉は出てこなかった。
 まったく釣れず、場所を変えてみようという提案にも返事をせず、ただひたすら水面に目をおとしている父親の姿を、子ども時代の辺見さんはどんな心境で見つめていたのだろう。<かれのからだとかれの時間は釣り竿をもったまま周りの空気ごと凍結されていた>(「1★9★3★7」第12回)。
 辺見さんの父親は復員後、新聞記者をしていたが、最期まで書けなかったこと、話せなかったことがあったに違いない。
 どれだけ時間がたっても、消えない問いがある。私にもだ。答えはないが、問いつづけることの大切さを「1★9★3★7」は教えてくれた。 (野中大樹)

▼NHK「戦後史証言プロジェクト『公害先進国から環境保護へ』」がひどかった。四日市や水俣など公害の発覚、公害対策基本法制定、環境庁設立、そして京都会議。日本は戦後70年、問題に取り組み、環境保護国に「成長」した、と。が、呆れたことに原発についてまったくスルー。唯一、「震災後に原発が止まり、火力発電によるCO2排出量が懸念」というお決まりのフレーズが。この国は「成長」などしてないだろ。いま、そしてこの先、海の汚染がないとでも?
 週末、店で見かけた大好物の鰹。この季節だから関東沖産。躊躇する。しかし、買って食べる。秋の戻り鰹なんて、脂がのって旨いだろうに、さらに勇気が......などと考えてると腹が立ってきた。気分を変えようとテレビをつけると、当日の国会前抗議行動、NHKは見事にスルー。また腹が立つ。「怒りながら食べるものは、すべて毒に変わる」というイスラムの諺があったなと思いつつ。不味い夕飯になってしまった。 (小長光哲郎)

▼先週号の「ジェンダー情報」で報じたが、北大西洋条約機構(NATO)に派遣中の栗田千寿自衛官が在ベルギー日本大使館のHPで連載しているブログの第3回が削除された。自民党国防部会が問題視したのは「来訪者についてご紹介します。(略)まずは、ラディカ・クマラスワミ氏。彼女は、1996年に女性に対する暴力とその原因及び結果に関する国連の報告書(「クマラスワミ報告」)を担任したことで有名です。(略)私は、光栄なことにNATO特別代表とともにクマラスワミ氏と昼食に同席する機会を頂きました」などの部分。どんなすごいことが書いてあるのかと思うと拍子抜け。「慰安婦」の「イ」の字も出てこない。
 この程度の表現も許さない自民党の狭量さに唖然とする一方、第4回を第3回に、第5回を第4回に自動的に繰り上げたため、現第4回の文中に「(前)第4回で紹介」という表記が残っており削除がバレバレというマヌケっぷりにも苦笑させられる。 (宮本有紀)

▼今年の夏ドラマもほとんど1話は見終わった。絶対見る!のは福士蒼汰くんでオールオッケーの「恋仲」。「探偵の探偵」はさすがに原作ものらしく話がしっかりしていて、ストーリーの続きが気になる。北川景子もかっこいいし。
 さらに結末が気になるのは「ど根性ガエル」。ピョン吉、逝かないで! ひろし、いいじゃないかこのままで。ダメ男でいいじゃないか。時々根性出せばいいじゃないか。いい人しかいない世界でいいじゃないか。ほろ苦い結末なんていらないよ。成長したかと思えばすぐにダメ男に逆戻り。そんなもんだよね。「子どものころと変わってないんだけど、悪いところが目につくんだよね」という母ちゃんの台詞。それだけのこと。そのままでいさせてあげてほしい。
「リスクの神様」は逆に(?)ほろ苦い。何もかもは都合よくいかない結末に余韻が残る。「民王」も期待通り面白かった。この夏もドラマサーフィン三昧。 (志水邦江)