週刊金曜日 編集後記

1561号

▼1993年9月、私はイランで旅をした。東のパキスタンとの国境から入国。バスや相乗りタクシーを乗り継ぎ、西のトルコとの国境から出国するまで約10日間。事前情報も乏しく英語もほぼ通じない環境だったが、なぜか道中はあまり不安も不便も感じなかった。

「おしん!」と行く先々で何度声をかけられたことか。当時くだんの日本製ドラマが当地で大人気を博していたこともあるが、イランの人々は異邦からの旅人に対してみな優しかった。バスでは「何か困ったことがあったら連絡して」と何度も電話番号を渡されたし、イスファハンでは通りすがりの店の若旦那の紹介により市内の共同住宅に宿を得た。住人の兄ちゃんたちと近隣の野原で鬼ごっこや、赤いペルシャ絨毯の敷かれた居間でレスリングごっこに興じた(何しろ言葉が通じないためそうした形の交流になった)のも懐かしい。

 そのイランが目下戦禍に見舞われている。あの日歩いた街並み、触れ合った人々は今どうしているだろう。あくまで個人的な体験にすぎないが、それが目下の事態について私が考えていくうえでの、あくまでも原点だ。(岩本太郎)

▼本誌がリニューアルしてから今号でちょうど1年が経ちました。以前より少しサイズが大きくなり、それに合わせて文字の大きさや行間などを変えたため、リニューアル当初は、「読みやすくなった」と評判でした。いまはもう、昔のサイズを忘れてしまった読者も少なくないかもしれませんね。

 リニューアルと言えば、三省堂書店「神田神保町本店」が3月19日に営業を再開しました。新店のコンセプトは「歩けば、世界がひろがる書店。」だそうです。昔はよく書店巡りをしたものですが、最近は忙しさにかまけて本はもっぱらネットで購入しています。その方が時間の無駄が省けるとも考えられますが、目的の本を購入することだけで終わってしまい、それ以上の発見はありません。

 書店に行けば、お目当ての本を探しながら、他の本にも目移りする。興味を覚えて立ち読みすれば、続きも読みたいとなり、そのまま購入することになる確率が、私の場合、非常に高い。ということで、近いうちに三省堂書店を皮切りに、書店巡りをしてみたいと思っています。(文聖姫)

▼東京電力福島第一原発事故から15年がたちました。私は、本誌「きんようびのはらっぱで」を担当しています。3月は、3・11関連の集会やデモなどの情報を可能な限り掲載しました。

 3月15日に東京の劇団、文化座で行なわれた福島県元知事・佐藤栄佐久の冤罪事件を描いた映画『「知事抹殺」の真実』の上映会に参加しました。上映後、福島県の原発事故被災地を中心に現在まで写真を撮り続ける写真家のしまくらまさしさんと原発事故で被ばくした福島の牛を描き続ける画家の戸田みどりさんの対談もありました。

 しまくらさんは、ご自身のこれまでの活動にふれて「記憶して、記録して、伝えることは最も人間的な行為」と語っていました。

 脱原発から原発再稼働へと回帰したこの15年を考えると、「人間的な行為」を貫くことは決して容易なことではなく、むしろ困難に直面しているのではと思います。

 そうした時代状況でも、作品をつくり続ける写真家と画家の姿に、勇気をもらいました。無力感を抱いている場合ではないですね。(渡部翔太)