週刊金曜日 編集後記

1375号

▼4月14日の衆議院憲法審査会で日本維新の会の馬場伸幸共同代表は「私たちは9条に自衛隊の存在を明確に位置づけ、他国から侵攻を受けたときには武力で反撃するという意思を明示すべきだと考えます。一方で、いまだに自衛隊を違憲だと主張され、水戸黄門の印籠よろしく現行の憲法9条をかざせば敵も斬りかかってこないと思い込んでいる方々がいらっしゃいます。理想論で国や国民を守ることはできません」などと述べた。
 なんという空しく浅はかな憲法観。武力を頼み、自国の民も他国の民も踏みにじる悪政の果てに国土を荒廃させた歴史を忘れたのか。日本国憲法は理想を掲げてはいるが、武力闘争の限界を知った日本が泥の中で手にした現実路線でもある。「攻められたら反撃する」などと言うが、それで勝てると思っているほうがよほど非現実的だ。日本にそんな力はない。世界情勢を見極め「敵」をつくらない外交をすることが最も現実的な「国防」ではないか。
「不戦」こそ最上策。「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去」するため、日本国憲法の実現が求められている。(宮本有紀)

▼本号特集で取り上げた反戦自衛官・小西誠氏との出会いは、駆け出し記者時代の三十数年前。「正しいと思ったことはたった一人でもやる」との思想と実践に惚れ、兄貴分のように慕ってきた。彼が暴力革命を主張する中核派に一時いたことで非難する人がいる。私は学生時代、中核派に入った親友を激しく罵ったことがあるが、小西氏の生い立ちを知り、苦学の中で選んだ道が「革命的共産主義運動の武装闘争」だとしても、「極貧や差別の地獄の体験もない俺に何が語れるのか」と考えてきた。
 彼が昭和天皇の戦争責任を追及する手紙を宮内庁に届けるのに同行した際、皇居内の砂利道を共に歩みつつそれを問うたことがある。今回、当時の対話を再確認した。「僕は中核派と一体化したことは一度もない。中核派だけでなく暴力肯定の新左翼全体を変えようと一貫して行動してきたが、逆に全党総武装を宣言したので手を切ったのです」。変わらぬ静かな語り口。反暴力と潔癖さは彼の身体に刻み込まれている。逮捕時の上官でさえ「彼はまじめで勤務成績も良く......」とその人格を讃えざるを得なかった。(本田雅和)

▼高校の同期が大学で「生命科学」を教えています。「神経生物学」を専攻する彼女が研究している主テーマは、「卵巣や精巣から分泌される性ステロイドホルモンが脳にどのような影響を与えるのか」。
 曰く、「性ステロイドホルモンは、胎児の生殖腺や外性器が男性型・女性型のどちらになるかという性分化の過程に影響を及ぼしています。性分化は身体的なものだけと考えられやすいですが、実は脳にも起こっています。この脳の分化と発達にも、性ステロイドホルモンが関連し、生殖に関する体の調節や物事の感じ方、考え方に影響を及ぼすと言われています」。
 以前、時間を惜しんで研究に没頭する彼女に、なぜそんなに頑張るのかと聞いた時、「この研究は人生が250年あっても足りないから」との答えが返ってきました。
 先日、今はどう? と尋ねてみました。すると「この年齢の平均を100とすると、少なくとも200%は働いているような気がします」との返事が。さて自分は何%だろうと考えたとき、答えは出ませんでしたが、不思議な刺激をもらいました。(秋山晴康)

▼円安と物価の上昇が家計と暮らしを圧迫中です。夫妻で加入しているドル建ての年金型保険は支払額が跳ね上がり、「払込済み」の手続きを検討しています。また腎臓を患う実家の家族に仕送りしている「低たんぱく食品」の価格も"改定"され、元々お安くないものがさらに高級食材となりました。ただこれを中止するわけにはいきません。どうやら毎晩たのしむワインの量で調整されるようです。
 本誌もこうした影響は免れません。原油価格は昨年末から高騰していますが、半年ごとに発注する定期購読ラッピングフィルムの原価に跳ね返りました。業者からは3月に値上げしたい旨の要請でしたが、年度内での原価率変更は予算にも影響します。交渉の結果、値上げは次回発注分からで折り合いがつきました。そして紙の値段も大きく上がっており、同業他社から悲鳴に近い声が聞こえてきます。ただ本誌印刷所から今現在、その音沙汰はありません。担当者にそれとなく尋ねても「そういえば、そうですねえ」と呑気なもの。さてどうしたものか、やぶ蛇になってもいけないし。(町田明穂)