週刊金曜日 編集後記

1372号

▼ウクライナのゼレンスキー大統領による各国議会での演説への違和感については、先週号の「いま立ち止まって考えるべきこと」に書いた。「命を捧げよ」と命じる権利は国家にあるのか、と。「国」という共同幻想を誰が僭称しているか。武器を取って戦えと命じているのは、具体的に目の前にいる家族や恋人や友人ではない。大統領や首相や為政者らだ。

 日本での演説のあと、国会議員が総立ちで拍手し、山東昭子・参院議長が「大統領閣下が先頭に立ち、命をも顧みず、祖国のために戦う姿を拝見して、その勇気に感動しております」などと話す姿に苦しく、恥ずかしく、うつむいた。

 わが敬愛する先輩ジャーナリストの小西誠さん(73歳)は、極貧家庭に生まれて中卒で自衛官となり、反戦思想に目覚めた。ウクライナで「火炎瓶を作る女性たち」が美談として連日報道されていることに危機感を抱き、戦争への市民動員、市街戦で不可避となる無差別攻撃で誰が死ぬのかに警鐘を鳴らす。主要都市だけでも「無防備都市宣言」をして軍隊を撤退させるべきだと......。(本田雅和)

▼「髪を一律に黒色に染色」「下着の色に関する指導」などのブラック校則が教職員や生徒、保護者の話し合いで、東京都立高校で廃止になった。都教委によると「生徒が社会の一員として主体的に自校の校則について考え・守ることで社会参画意識を醸成」するのが目的で、「主体的・対話的で深い学び」に基づく取り組みだとか。

 しかし、レイバーネット(http://www.labornetjp.org/)で「都教委傍聴記」を連載する元教員、根津公子さんは「この取り組みは都教委の指示で行なったこと。ここに考え・判断する行為があったとは考えられない。これまでも校長たちは考え・判断せずに都教委に従ってきた。生徒たちにそんな教育などできようはずもない」と言う。

 さらに、「『日の丸・君が代』は『尊重』と起立斉唱を強いる。子どもたちに考え・判断させないために、『君が代』起立を拒否する教職員を処分。この矛盾を事務方は説明すべきで、教育委員も指摘すべき」と根津さん。今年の卒業式では昨年同様、式次第に「国歌斉唱」と記載してCDなどで曲を流したという。(吉田亮子)

▼私が「脱原発をめざす首長会議」事務局長であり、原発・エネルギー問題について記事を書く際にはこの肩書を用いることは以前、当欄でお伝えした。

「脱原発をめざす首長会議」の存在をご存じない方もいらっしゃると思う。2012年4月、全国の基礎自治体(市区町村)の現職首長と経験者が結集して発足したネットワーク型の組織だ。会員は約100人。

 基礎自治体の首長は、災害対策基本法第5条で「住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、計画をつくり、実施する責務を有する」と定められている。その責務があるからこそ、「原発が存在しては住民の命や平穏な暮らしを守ることはできない」と声を上げ続けてきた。

 事務局長は初代が元東京都国立市長の上原公子さん。私は2代目である。発足から10年の節目にあたる今年4月24日、今年末までに脱原発を遂げるドイツの歩みに学ぶ国際シンポジウムを開催する。委細は当会の公式サイトをご覧ください。(佐藤和雄)

▼学生時代からの知人、小林茂さんから『大きなパンツと小さなパンツ―男の子の性虐待―』という自費出版の本が送られてきました。著者の森永都子さんは画家、詩人で、性被害者の一人です。

 性虐待を受けている「子ども」が「大人」に助けられたことから話がすすんでいきます。漢字を多用しない平易な文章で、豊かな表現力が目を引きます。「大人」の友人として、クマという人物が登場します。「映画カントク。人工とうせきをうけている」の一文に、もしやと思い小林さんに確認したところ、「私ですね。京都時代のニックネームは『クマ』でした」との連絡が......。2人は「水俣」の活動で出会い、『ぱんぱかぱん』(こみち双書)という共著も出しています。

 小林さんは現在、性虐待をテーマにドキュメンタリー映画『魂のきせき』を制作中です。そのきっかけが、本誌2011年に掲載された写真家・にのみやさをりさんの「声を聴かせて」という連載記事(9月16日号、11月18日号、11月25日号、12月2日号)を読んだことだそうです。『週刊金曜日』が繋ぐご縁をうれしく思いました。 (秋山晴康)