週刊金曜日 編集後記

1371号

▼ウクライナのゼレンスキー大統領の、日本の国会でのオンライン演説が行なわれた。政治的な話はさまざまなメディアでされているが、私が興味を持ったのは「ゼレンスキーはなぜTシャツを着なかったのか?」ということだ。
 ゼレンスキーといえばカーキのTシャツ。ロシアの侵攻後、それまでのスーツ姿から一変、連日、軍隊仕様(おそらく)のカーキのTシャツを着用、すっかりトレードマークになった感がある。スーツからTシャツになったことで、「戦うぞ!」というメッセージをアピールしたに等しい。非常に効果的な演出だと思う。さらにこのTシャツがよく似合っていて、彼をとても魅力的に見せている。
 米国でのオンライン演説では、Tシャツ姿を批判する議員もいたらしい。もしゼレンスキーがシュッとしたスーツを着、キリッとネクタイをしめ、ピカピカの革靴を履いていたら、これほどまでに世界から支持を得られただろうか。対するプーチン大統領は常にスーツだ(それもかなり古い感じの)。リーダーのファッション、案外と大事なテーマかもしれない。
(渡辺妙子)

▼初沢亜利さんの写真企画「匿名化する東京」の中に2021年8月24日に東京・千駄ヶ谷で撮影された1枚の写真がある。
 東京パラリンピックの開会式当日、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」 が(夜に)式が行なわれる国立競技場の上空を飛行し、パラリンピックのシンボルマークである赤、青、緑3色のカラースモークで空に線を引いた時のものだ。今週号の掲載にあたり、編集担当者から写真選択の意見を求められたので、写真集『東京二〇二〇、二〇二一。』にざっと付箋をつけた。
 今、ウクライナ西部の主要都市リビウでは、英語で「目を閉じるな、空を閉じろ」 と記されたポスターが町中に張り出されている。空爆によって民間人が命を奪われている現状から目を背けるのではなく、市民を守るため飛行禁止区域を設定するよう訴えるものだ。
 写真は歴史を抽出する。卒塔婆の向こうの東京の空に軍用機によってカラースモークで描かれた線(人間の心、体、魂。あきらめずに前進し、世界を動かすというメッセージ)と現在のウクライナの空が、シンクロした。(本田政昭)

▼先日の地震の際、私の居住地域では停電し、暗闇に包まれた。実際の震度がどうかより暗闇の中の揺れ自体が恐ろしい。枕元に置いている乾電池式のランタンを慌ててつけて家の中を確認したが、テレビもつかないしネットも使えない。情報をとれるのがスマホのみなので、充電切れにならないように使用を最小限にとどめた。
 水洗トイレが使えなくなったのも初めてのこと。非常用トイレを組み立てて使う時がとうとうきたか、と思ったが、2時間ほどで通電したので結局使わずに済んだ。直接的な被害は何もなかったものの、いかに電気に頼って生活しているかを改めて思い知らされた。3・11後、東京電力との契約を解除して自然エネルギー電源の電力会社と契約したのだが、電力頼みなのは同じだ。なんと脆弱な基盤の暮らしかと嫌になる。
 安否確認した福島の友人は災害対策の達人になっており、携帯できる太陽光パネル付き蓄電池は使えるよと教えてくれた。これを機に備えるつもりだ。3月25日号の対談で読んだ小出裕章さんの長野での豊かな暮らしぶりを見倣って、本当はもっとエネルギー自活したいのだけれど。 (宮本有紀)

▼家庭で虐待の被害に遭っている子どもからのSOS。「いま時間ある?お願いたすけて」「家に帰れない、ひどいことされる」。取材活動などをするうちに知り合った関係性の中で、そんな連絡が突然来たりすることがある。難しいのは、私の家で保護したり、警察に通報したりするといった行動を容易にとれないことだ。こうした行動をとれば、親は私を警戒するようになってその子たちの家に遊びにいくことができなくなるだろうし、結果として虐待を助長してしまう危険があるからだ。子どもを「誘拐」したと、逆にこちらが通報されてしまう可能性すらある。
 子どもからだけ状況を聞こうとしても、難しい場合が多い。子どもが携帯電話を持っていても、親に取り上げられたり、通信制限をされたり、家から出られないようにされたりすることもあるからだ。親に連絡をして、親自身のことも心配していること、私が味方であることを伝えることで、親も話に耳を傾けてくれる。大抵は親自身もメンタルケアを必要としている。コロナ禍でDV被害が顕在化しているが、子どもの被害は特に発見されにくく深刻だ。(渡部睦美)