週刊金曜日 編集後記

735号

▼起訴された被告の有罪率が九九・九%にもなる現在の刑事司法はゆがんでいる。小誌で連載、単行本化した『国策捜査』に登場する人々の訴えは重いし、狭山事件・袴田事件など明らかに冤罪の事件も多い。だからなんとか「チェンジ」したいと考えるのは当然だ。

 裁判員制度に賛成する人に、「司法への国民参加」「開かれた司法」によって改善をもくろむ “善意の人” が少なくないのは間違いない。だが、当初の意図はともかく、五月から開始予定の裁判員制度は理想と違うグロテスクな姿となってしまった。弊害が大きい。

 取り調べの全面可視化、代用監獄の廃止など刑事司法の改善点はいくらでもある。また、最高裁裁判官の国民審査を、現状の「×」をつける方式でなく、「○」「×」方式(白紙は無効票)とすれば、有権者の関心はさらに高まるだろう。最高裁裁判官も、国民をさらに意識せざるをえなくなる。憲法一二条にあるように、私たちは不断の努力によって自由と権利を保持しないといけないのだ。(伊田浩之)

▼新型インフルエンザの世界的大流行が懸念されているという。最悪の場合、日本国内の死者は六四万人と予想されている。これを称してパンデミックと言うらしい。地球温暖化が要因とされる世界各地での自然災害や異常気象も進行。またこれは明らかな人災だが、昨年来の世界同時不況下、政治と財界が作り上げた新自由主義をご本尊としたグローバル経済の破綻によって、派遣切りなど弱者・貧者の過酷な状況が日々深刻化している。これらはいずれも世界同時進行としての危機であり、日本では醜悪な政治がその危機に拍車を、つまりは火に油を注いでいる。

 先週末、作家の辺見庸さんに会った。辺見さんはこれらの状況をこう言い表した。「これは異質の破局のパンデミック(感染爆発)である」。あまり事前告知するのは憚られるが、二月一日放映予定のNHK・ETV特集への出演前に次号から「辺見庸・特別インタビュー」を掲載する。(片岡伸行)

▼正月二日の夜中、トイレでひとしきり苦しんだあと、ふと鏡を見上げると、お岩さんになっていた。一瞬襲う死の恐怖でやや酔いも覚め、救急病院へと向かう。医者に状況を説明しなくては。

 確か昨日は友人たちとカラオケに行って……、思い出せない。しょうがない。夜中の三時半だが、死んでしまっては心残りだ。友人に電話をする。家から五〇メートルのところで別れたらしいが、それまでに転んだ様子はなかったらしい。真相はわからず。とりあえず深刻な状況ではないという診断で帰宅。寝正月を過ごした。

 お岩さんからやや回復し、テレビで見る典型的なDV被害者のような状態で迎えた仕事始め。「そんなにひどいのに外傷がないなんてすごい」という一言。そういえばコートやジーパンも汚れていなかった。やはり家の中での事故なのか。深まる五〇メートルの謎。が、もう頭に浮かぶこともないだろう。こんどは快気祝いだ。(志水邦江)

▼いつの頃からか首都圏では、JR、私鉄、地下鉄の運行情報が表示される掲示板が駅に登場して、とても重宝しています。と同時に、毎日必ずどこかの路線で人身事故が起きている――ということを発見(?)するきっかけとなりました。事故なのか自殺なのか、あるいはこういう状況が最近のことなのか、前からのことだったのかはわかりません。でも、年間の自殺者三万人超という数字と、まるっきり無関係とは思えないのです。毎日どこかしらの鉄道で人身事故が起きている状況って、いったい何なんでしょうか。

 さてさて暮らしページでは、年金コラムを掲載中です。年金問題がどうなるか、さっぱり見えてきませんが、ここ数年の騒ぎを見れば、自分自身で勉強しておかないと、将来もらいはぐれる可能性大であることは明らか。知識はあって損はないと思います。年金についてわからないこと、知りたいことなどありましたら、リクエストお寄せください。(渡辺妙子)