週刊金曜日 編集後記

1351号

▼若い世代や子育て世代への給付金支給をうたう党首討論を見て、わが親は言いました。
「どこも若い人たちにお金を出すって話ばかりで、年寄りのことは全然考えてないね。年金は上がらないし、物価は上がるし、年寄りはどうなっちゃうのかね?」
 それを聞いて心底びっくり。わが親は高度成長期の現役世代で、給料だって退職金だってそれなりにもらってきた世代。こちらから見れば、今まで何よりも優遇されてきた世代の人たちが、若い世代を支えようという話に嫉妬(?)しているとしか思えませんでした。ため息が出ました。人は結局、自分のことしか考えられないんだなあ(もちろん、私自身も含めて、です)。若者支援は、決して高齢者冷遇ではないのに。
 今の若い人たち、本当に大変なんだから。働こうにも、そもそも働き口がない。会社に入れば定年まで安泰なんて時代は、もうとっくに終わった。もちろん年金なんかまったくあてにならない――わが親には今までこんなことを言ってきましたが、響いていなかったんですね。(渡辺妙子)

▼オーストリアのクルツ首相が10月9日、辞意を表明した。同国の検察当局は、保守派のクルツ氏らには2016~18年の間、自身に有利な世論が形成されるように世論調査会社や報道機関に公金を支出した疑いがあり、捜査対象としたことを発表した。クルツ氏は一連の背任・汚職容疑を完全否定したが、政治の「混乱を招かないため」という理由で、辞任。
 奇しくも似たような情報操作や不正疑惑が現在、永田町界隈でも問題になっている。ネット上で野党や政権に批判的なメディアを誹謗中傷してきた匿名の個人ツイッターアカウント「Dappi」。中傷被害にあった立憲民主党の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員が申し立てた発信者情報開示請求により、このアカウントが東京都内のIT関連企業の法人のもので、その法人は自民党議員や自民党支部が取引先であることが判明した。
 恫喝や圧力、改竄に続いて自民党の世論操作疑惑である。政権与党が公金でデマやフェイクニュースを垂れ流し、言論統制をしていたとすれば、民主主義の根幹を揺るがす大問題である。(尹史承)

▼強制的「夫婦同姓」制度に私が反対するのは、背後に戸籍制度と結びついた家父長制・天皇制という差別思想があるからだ。日本国家は日本独特の戸籍制度と婚姻を紐づけ、同じ氏を名乗る集団を「家族」と定義し、家父長を戸主として家督も相続させてきた。
 これに対し、選択的夫婦別姓をマジックソリューションのように喧伝するのは間違いだ。人間の同志的関係を国に認めてもらう「法律婚」イデオロギーがもつ差別性を問わない限り、夫婦別姓も「新しい特権階級」を作るだけだ。
 レズビアンの小説家、王谷晶さんは「同性婚が認められたとしても私は結婚はしない」という。友人の婚外子の作家も「好きな人と暮らすのに、私を差別してきた制度を利用する? 税制や相続や親権行使や代理権でいかに特権を与えられても」と話す。権利の保障は個人に直接保障するのが筋だ。
 そもそも日本人と結婚した外国人は「帰化」しない限り日本人配偶者の戸籍に入れず、婚姻届は受理されるので夫婦別姓のまま法律婚ができている。日本国家の外国人差別が図らずも生んだ「自由」ということか。(本田雅和)

▼先日、「入管問題も選挙の争点に!」と題するネット限定の記事を「週刊金曜日オンライン」で配信した。投票所で思い出してほしいことのひとつだ。どんなに投票をしに行きたくても、その権利がない人たちがいる。
 同時に注目したいのが、移住連(NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク)が公表した「移民政策に関する政党アンケート2021」の結果だ。移民の人権保障について問う12項目について、自民党は「どちらとも言えない」「反対」のみで、最も消極的だった。自民党の回答には、廃案になった「入管法改正案」についての言及が多く、今後、入管法「改悪」の悲願に向けての動きを加速化しようとする意志を感じる。公明党も消極的な姿勢だが、唯一、「永住・定住外国人の地方参政権」には「賛成」との回答だ。ただ「反対」の自民党にこの点を迫っていけないと意味がない。野党共闘にはまだ課題も多くあるが、「非正規滞在者などへの在留特別許可については(中略)国際人権基準に基づいて判断すべき」「難民保護法を制定すべき」などの項目ではみな一致して「賛成」だ。(渡部睦美)