週刊金曜日 編集後記

1339号

▼東京五輪開催の中で都内の医療体制が逼迫している。新型コロナウイルス感染での入院患者数は2638人(24日時点)で、1カ月前より1300人増加。昭和大学病院の相良博典院長は「現場は非常に厳しい状況でオリンピックどころではない」と危機感を示した。
 一方で、五輪推進派の竹中平蔵元総務相は、24日、ツイッターで「祭りのような『非日常』があって初めて、社会は面白くなり発展する」「五輪は最高の『非日常』だ」「心からこの五輪を応援しよう」と呟いた。平穏な「日常」の犠牲の上に、「非日常」的な祝賀イベントを作り出す。そして大資本が利益を得る。これは米学者ジュールズ・ボイコフが批判した「祝賀資本主義」そのものである。
 世論調査で国民の約3分の2が五輪を楽しめないと回答したことについて、菅義偉首相は米『ウォール・ストリート・ジャーナル』のインタビューで「競技が始まり、国民がテレビで観戦すれば、考えも変わる」と回答したが、五輪が開催されたところで、新型コロナのパンデミックは収まらないし、その犠牲者は戻らない。(尹史承)

▼「障害者にとって、コロナ罹患は直接的に命の危機にかかわること。リスクを増やす五輪は今からでも中止してほしい!」――安積遊歩さんは、電話口でそう訴えた。
 安積さんら「女性障がい者たちとその自立を応援する者たち一同」の呼びかけメンバー4人は、7月1日、五輪中止を求める声明を出し、7日の記者会見までに1000人以上の賛同者を得た。
 その後もコロナは感染が急拡大し、「安全・安心のバブル」は穴だらけを露呈。大会関係者の人権意識の低さも世界中に喧伝された。にもかかわらず、東京五輪は残念ながら開幕した。安積さんが自立生活をする札幌でもマラソン競技などを予定しているが、感染が急拡大中。リスクが高まっている。
 絶望的な状況に直面して、安積さんたちは改めて話し合い、「この状況でもオリンピックが止められなかった社会を変えることを諦めない」と、女性障害者の目線から、今後も様々な方法で発信していくという強い決断を語ってくれた。
 それにしても問答無用で開催を強行した東京五輪。もはや国家暴力そのものだろう。(山村清二)

▼多様性? 調和? これは東京五輪が掲げる理念の柱だというが、開会式からはまったく何も感じなかった。「ピクトグラム50個の連続パフォーマンス」には目を見張ったが、ネットで言われているように考えてみれば「欽ちゃんの仮装大賞」。むしろ、あまりの一貫性のなさに正直驚いた。
 この際五輪は脇に置き、日本キリスト教団八戸北伝道所(青森県八戸市)の牧師、岩田雅一さんが7月20日に78歳で亡くなったことをお知らせしたい。直近では昨年3月20日号アンテナで、核燃料再処理工場(六ヶ所村)の稼働差し止めを求め提訴した原告団共同代表として名前が出ていた。
 12月の口頭弁論で「核燃料サイクルは死のサイクルだと知ったときから私の行動はスタートした。反核燃は命を守る祈りと行動である」などと陳述したように、1984年から反対運動にかかわり、原告の中心となった「原子力行政を問い直す宗教者の会」の世話人でもあった。『寺下力三郎とわれら 六ヶ所村の闘い』などの著書がある。(吉田亮子)