週刊金曜日 編集後記

1336号

▼7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流の映像は衝撃だった。山津波とも言うそうで、すごい速さとパワーで民家を飲み込んだ。この数年、7月上旬に「数十年に一度の大雨」と言われる災害が発生していて、今後、大雨がこれまで以上に増えると言う専門家もいるほど問題は深刻だ。被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。
 さて、オリンピックである。東京をはじめ近県のコロナ感染者の数は増える一方で、第4波より早いペースで悪化する可能性もあるとか。さらに、続々と来日中の五輪選手からは、予想通り陽性者が出ている。その上、接種希望者へのワクチンが足りないときているので、目も当てられない......。
 で、現時点での最大の焦点は無観客開催かどうか。都内に住む妹は息子の学校から、観戦中止の連絡がいつくるかと待っている。その小5の息子は大人の会話を聞いているためもあるだろうが、「どうしてオリンピックをやるの?」と聞いてくる。五輪を開催したい政治家たちは、子どもの疑問にどう答えるのか。(吉田亮子)

▼香港版国家安全維持法が施行されてから1年が経った。今週の「世界でいま」で谷垣真理子さんが「沈黙」する香港について記事を書いているが、釈放された周庭(アグネス・チョウ)さんが無言でうつむいていた姿もその「沈黙」を深く印象付けた。『蘋果日報』の元主筆は出国直前に逮捕されるなど容赦ない。「留島不留人」(香港という島は物理的に残すが、そこに住む人は香港にとどめなくてよいとの意味)への転換が懸念されていると、今年2月19日号で谷垣さんが指摘していたことが、現実となって迫ってきている。こうした状況について日本政府は「重大な懸念」を表明し、国連人権理事会の共同声明にも加わっている。
 一方で、軍政による人権弾圧が続くビルマ(ミャンマー)では逮捕された64人に対して、軍事法廷が死刑判決をくだした。同時に2000人以上が釈放されたとも伝えられているが、逮捕者は毎日のように出ていて釈放は国民の懐柔策だなどと批判されている。5000人以上は拘束されたままだ。日本政府はビルマに対しても厳しい態度をとるべきだ。(渡部睦美)

▼五輪反対=反日。安倍晋三氏は東京五輪の開催について「反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対している」(『Hanada』8月号)と発言した。これは、「お友達」を優遇して、自身の意に沿わないものを排除し、国民を分断させてきた安倍政治の常套手段である。
 また偏狭なナショナリズムを掲げ、五輪を政治的に利用するのは五輪憲章にも違反している。
 そもそも「反日」なる言葉は自国民に向けて使うものではない。日本は主権在民である。いかなる主義主張も為政者に咎められる筋合いはないし、「反日」発言は民主主義国家への冒涜である。
 首相在任中、「わが軍」「立法府の長」などと勘違い発言を連発してきた安倍氏にとっては、我こそが国家であるのかもしれないが、その未成熟で稚拙なメンタリティーのせいで自国民が、新型コロナの危険に晒されている。
 戦前、戦時中、日本は戦争に反対する者を「非国民」とレッテルを貼り、破滅の道へ突き進んだが、今回は五輪に反対するものを「反日」として同じ過ちを繰り返すのだろうか。(尹史承)

▼スイマーとして輝かしい成績を残し、東京五輪での活躍を期待された矢先に、まさかの白血病の診断。しかし闘病の末、病を克服し、見事復活を遂げる。東京五輪目前の試合では、女子200メートルリレーで日本新をマーク(リレーなのになぜか彼女だけがクローズアップされる)。病魔に襲われた美人で若い女性スイマーと、その復活劇――。これほど絵になるものはありますまい。
 もちろんご本人はその局面局面で、できることを一生懸命やっているだけだと思います。それが並大抵の努力ではないことは、誰もがわかっています。
 が、マスコミやコマーシャリズムが、そんなストーリーを利用する意図が見え見えで、うんざりです。メディアで繰り広げられている池江璃花子礼賛に、違和感を覚えてしまうのです。ええ、そうです。やっかみです(きっぱり)。あの才能と美貌は、普通の人間が得られるものではありません。だからこそ、彼女を特別視しすぎる報道に対して「おかしい」と言いづらい雰囲気もあるのかなとも思ったりします。(渡辺妙子)