週刊金曜日 編集後記

1324号

▼今週号の写真企画「あたらしい日常」の写真は1月の緊急事態宣言下(1都3県)に撮影された2021年1月9日の記録である。週末の東京近郊の河川敷。手前のテントでくつろぐ家族と遠くに河原に佇む2人ほどの人影。真冬とはいえ、散歩やジョギングをする人々が風景の中に写り込んでいない。1月22日号に掲載した横浜市の成人式当日の写真「根拠なき楽観」とともに、1月に再発令された緊急事態宣言下の空気感を記録できたと思う。
 この2枚の写真を撮影した稲宮康人さんの写真展「東北の10年 ── 土地を聴く、風景を積む」が東京大学池之端門前の古書ほうろう(月火定休/12時~20時/無料)で4月25日まで開催中。「3・11」後の東北の被災地を10年かけて撮影した写真が、店内の古書に混じって展示されている。散歩がてら覗いてみてほしい。(本田政昭)

▼「ジェンダー平等」という目標を「時代遅れ」と表現した報道ステーションのCM動画が批判を浴びて削除された。時代はそれより先にいっていると言いたかったのかと推測するが、認識が甘すぎ。パロディ動画「政治的に正しい報ステのCM」(YouTube)のほうが現状をきちんと把握している。
 オンライン画面に向かって人が語りかける構図は同じだが、パロディ版の話はこう。「会社の先輩、赤ちゃん生まれたんだけど、すっごく可愛いの。でも育児休暇を取得しようとしたら『お前は男だからダメだ』って断られちゃったの。どっかの政治家が『ジェンダー平等』ってスローガン的に掲げてるけど、だったらお前らちゃんと仕事しろよな。それにしても消費税高くなったよね。生活必需品は軽減率対象で8%なんだけど生理用品だけ未だに10%なの。何、みんな女は好きで生理やってると思ってんの?」と、パタニティハラスメントに触れ、世界的な問題の「生理の貧困」をも連想させる。報道番組のCMなら、これくらいのものは作ってほしかった。パロディ版は最後のツッコミもいいので、ぜひ動画でご確認を。(宮本有紀)

▼47年前だが、まだはっきりと記憶にある東京・丸の内での「三菱重工爆破事件」。みんな半袖だったから季節は夏だったろうか。調べたら8月30日の昼休みだった。
 重工本社前に置かれた爆弾は、犯人の電話警告後10分で爆発、8人が死亡、400人近い重軽傷者を出した。その2年前の連合赤軍事件の同志殺しには打ちのめされたが、この白昼の大爆発は、いままでの「テロ事件」の範疇をはるかに超えていた。いま、渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開されている『狼をさがして』は、そのゲリラ組織「東アジア反日武装戦線"狼"」の元メンバーたちを追ったドキュメンタリーだ。
 監督は韓国人のキム・ミレさん。釜ヶ崎の労働者に迫った『ノガダ(土方)』などで知られる。公開前日、駒込の「東京琉球館」で『狼をさがして』にも出演している太田昌国さんの話を聞きにいった。なぜ標的が三菱重工だったのか。三菱重工、間組、大成建設などの歴史を踏まえ「過去と向き合わない日本」を照らす。
『主戦場』の監督も日系アメリカ人のミキ・デザキ氏。向き合えない私たちがいる。(土井伸一郎)

▼近頃は「TikTok」で流行りものを知る日々。ふざけた動画もありますが、社会問題的な内容の動画も多いので、偏見持たず見てみることをおすすめします。
 障害を持つ人が、日々どう暮らしているのか自身で紹介したり(トイレやお風呂はどうしてるとか、出かけるときはどうしてるとか、普通だったら聞けないような質問にも答えています)、「あなたはあなたのままでいい」と力づけてくれるTikToker(ティックトッカー)、TNR(トラップ・ニューター・リターン、野良猫を捕獲し、不妊・去勢手術を施し、元の場所に戻すこと)活動をしている人、LGBTQなどなど、まさに多様性の宝庫。
 中でも心底ビックリしたのが、出稼ぎに行く女の子たちが多いことです(何の出稼ぎかは書きませんて)。出稼ぎの理由はさまざまですが、こんな世界があっただなんて、知りませんでした。でも女の子の中にも低スペ、高スペがあり、店や地域によっても当たりはずれがあり、中には体をこわしたり、メンタルやられちゃった子も。それでもがんばる彼女たちが、いつか報われる日が来てほしいです。(渡辺妙子)